1: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:48:11.53 ID:keswHy3x0
私は自分の事が一番大切だとずっと思ってた。でもね、もういいんだ、自分の事とか友達とか、
そんなのもうどうでもいい、人を好きになる事にルールなんてない…



第1章~玲奈~

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2: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:49:20.68 ID:keswHy3x0
グゥ…

お腹減った・・・

もうこんな時間か、行かなきゃ

制服に付いた葉っぱをポンポンとはたき玲奈は歩き始めた

どうしてお腹はこうして毎日同じ時間に時を知らせるのだろう

私は学校へは決まって遅れて行く

出来れば行きたくないのだがこうしてお腹が減っては寝てもいられない

朝、家を出てからこの時間まで晴れた日はいつもこの草原で寝ている

春の日差しが心地いい

でもすぐに夏はやってくる、こうして太陽の下寝てる事も出来なくなるだろう

だけどもう少しだけ

いまだけ…いつまで?…


今の学校へはこの春転校してきた

どうして高校3年になるタイミングなのか

とうの昔から別居していたのだからもう1年くらい待ってくれればいいのに

昔から子供の気持ちなんて考える親じゃなかった

離婚が成立して母親の実家のあるこの町に越してきた

以前住んでいた所が特別都会だった訳ではないが、それと比べればひどく田舎に感じる

私は母の知り合いだという人が経営する私立の女子校に編入した

登校初日すぐに分かった

皆がまるで別の生き物を見るような目で私を見る

冷たくも熱くもない風呂に真冬の装いのまま入り、だんだんと心地の悪い液体が染み込んでくるような、そんな感覚を覚えた

校則はそれほどきつくもなく

午前中をこうして私だけの世界で過ごしていても卒業は出来そうだ


学食で今日初めての食事を摂る、初めてと言ってもこれが最後の食事だ

帰ってもろくなモノはないので一日一度限りの食事である

こんな生活をいったい何年続けているのか

それが原因なのかそもそもの私の体質なのか、他人から見たら無駄な肉もなくスレンダーに見られるかもしれないが
私は例え無駄であっても付くべきところに肉が付いている姿に憧れていた

3: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:50:23.04 ID:keswHy3x0
午後の授業を終え掃除の時間

今週はシャワー室の当番に当たっている

デッキブラシを持ち、ただカラフルなだけでセンスも何もないカーテンが並ぶ部屋を奥に進む

すると

「誰か来ちゃうよ」

「大丈夫だよ」

ヒソヒソと話し声が確かに二つ聞こえる

こんな時間にシャワーを利用する人がいるのだろうか

カーテンの隙間から声の正体が見えた

私は目に入る光景をすぐには理解出来なかった

女生徒同士が唇を重ね合っている

何度も何度も離しては重ね離しては重ね

見てはいけないと分かってたけど

目を離す事が出来なかった

左側の子がこちらを見た

確かに目が合ったが彼女はその行為をやめようとはせずより深く強く続け

私を見ながらその口元は笑っているように見えた

その場を立ち去った私はシャワー室を出てしばらく立ち尽くしていた

今見た映像が何度も繰り返し目の前に現れる

シャワー室からどうやって出たのか思い出せない程私の足は震えて言うことを聞かない




視線を感じた…

見上げると二階の教室から一人の生徒がこちらを見ていた

その時私は初めてあの人の存在を知った

あんなにも愛しあんなにも憎み

私に全てを与え全てを奪ったあの人に…

5: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:51:58.77 ID:keswHy3x0
私は、自分以外は誰も信じないとずっと思ってた。
でもね、違ったんだ。永遠とか運命とか、そんなの有り得ない

恋愛なんてただのゲームのはずだったのに…



第2章~珠理奈~

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6: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:53:07.01 ID:keswHy3x0
「それじゃ、ばあちゃん、行ってくるよ」

家を出てから、たまったメールをチェックした

何通かのメールの中には必ず明音からのメールも含まれる

[おはようじゅりな、今日はじゅりなにプレゼントがあるの、楽しみにしててね、それじゃあ学校で]

メールを確認し、そのまま携帯電話を鞄にしまった





「珠理奈おはよう!」

「おはよう明音」

「メール見た?」

「あぁ」

「それじゃあ後でね」

私は明音のクラスに顔を出してから自分のクラスへ行った

「おはよう真那、今日も早いね」

私は真那の何も言わずただ微笑みかけてくれるのが大好きだった





午前の授業が終わり

「じゅりな~!」

食堂に行くと先に席を取っていてくれた明音が手を振り呼んでいる

「メールで言ったプレゼントだよ!こないだじゅりながかわいいって言ってたネックレス!」

「あぁあれか、ありがとう」

「着けてあげる!」

明音は私の首に手を回した

「ほら!やっぱり似合う!嬉しい?」

「あぁ嬉しいよ」

「良かった!喜んでくれて」



すぐに抱き締められるほど側にいるのに視線は遠く離れていた

8: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 03:55:37.91 ID:keswHy3x0
-放課後-


教室から外を見ると、久美がシャワー室へ花音の手を引き入って行く

その後を追うように、あの転校生がブラシを気だるそうに引きずりながら同じ扉を開けた


「ダメだよ今は、お取り込み中なんだから」


自分だけに聞こえる声でそっと彼女に注意した




しばらくして玲奈が飛び出してくる

その白く透き通るような顔を見つめ微笑む珠理奈


「純粋なんだね、玲奈ちゃんは」


またそっと呟く

玲奈がこちらの視線に気付いた


「かわいいね、玲奈ちゃん!」


今度は聞こえるように

すると玲奈は一瞬睨むようにこちらを見て小走りに私の視界から消えた



その時の私は恋愛なんてただのゲームだとしか思ってなかったんだ


確かにそうだった

11: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:08:36.56 ID:keswHy3x0
私は自分が選ばれた人間だと、ずっと思ってた。手に入らない物なんてないんだと
でもね、それが違うと知った時、全てを終わりにしたかったんだ



第3章~明音~

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13: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:09:13.95 ID:keswHy3x0
「帰りは迎えに来なくていいから」

「はい、明音お嬢様」

私は運転手にそう伝え校門をくぐった

ここでは教師でさえ私に頭を下げる

理事長の孫娘である私にはそれが校長であっても例外ではない

私は常に誰かに囲まれ

勉強も運動も私に敵う者はいない

私は選ばれた人間だった


でも彼女が現れた

2年の秋に転校してきた松井珠理奈だ


彼女が来てからすぐに行われた体育祭で私は負けた

人生で初めての経験に、私は悔しいという気持ちとは別の感情を覚えた

水泳もテニスも全てが彼女に敵わなかった

私は悔しさと同等の興奮を得ていた


そして、いつしか私は珠理奈が欲しくなり

私達はすぐにそういう関係になった


私より優れた能力を持つ彼女は私の物なのだ


それからは今まで味わった事のない高揚感に包まれていた

15: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:10:12.96 ID:keswHy3x0



「明音さん、買ってきました」

「ありがとう可奈子」

「あかねちゃんそれ何?」

「珠理奈へのプレゼントだよ、こないだかわいいって言ってたから明日プレゼントするの」

「そうなんだ…」

「あ!茉夏にも今度買ってあげるからね、こないだ茉夏に似合いそうなピアス見つけたの」

「ううん、私になんていいよ」

「明音さん!私も今欲しいバッグがあって…」

「また?可奈子にはこないだ買ってあげたじゃない」

「それならあかねちゃん、私は何もいらないからかなちゃんにあげて」

「茉夏がそういうなら別にいいけど」

「ほんとにぃ!?ありがとうまなつう」

「茉夏、遠慮しなくていいんだよ、お金なんておじいちゃんに言えばいくらでもくれるんだから、おじいちゃんは私にお金をあげたくて仕方ないんだから」

「ううん、遠慮じゃなくて…今回は本当にいいの」

「そう?別にいいけどせっかく茉夏に似合いそうだったのに」




翌朝

「メール送信と!珠理奈の喜ぶ顔が早く見たいな」




昼休み

「珠理奈~!」

いつもの笑顔だった

私がプレゼントしたピアスも凄く喜んでくれた

でもこの時はもう

珠理奈は私の事なんて見てなかったんだ

あの子さえいなければと何度思ったろう

あの子さえいなければ、全てが私の思い通りのはずだったんだ…

16: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:10:46.78 ID:keswHy3x0
第4章~佐和子と愛李~


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17: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:11:23.02 ID:keswHy3x0
「ほら、やっぱり入った」

ラブホテルに入る男女を見ながら佐和子は言った

「ここの窓って鍵が壊れてるの知ってた?」

「知らなかった」

愛李は答えた

「ほら、シャワーも浴びずに始めて」

「じゃ、いいのね?」

「うん、頼んで」

「いいよ、けどアイツら加減知らないからもしかしたら死んじゃうよ」

愛李は携帯をいじりながら佐和子に聞いた

「それならそれでいいんじゃない」

「これで会うのも最期になるかも、本当にそれでもいいのね?」

愛李からの最後の問いに佐和子は頷いた

「大切だったのに…」

「あの子が悪いのよ、男に捨てられたって私のとこに泣いてすがって、もう男は信じない、男なんてこりごりって、だから女をおしえてあげたのに」

室内を見つめながら佐和子は続けた

「大体男なんてどこがいいの!自分勝手で傲慢で、欲に任せてただ腰振るだけ、まるで自分が満足させたなんて勘違いしながら上から見下ろして優越感に浸って、愛李聞こえる?あの声」

「うん、聞こえてる」

「下手くそな演技して、私としてる時はあんな声じゃないのに、もう女としか出来ない、男となんて無理って言ってたのはつい先週の話よ」

「返事来たよ、やってくれるって」

「そう、ありがとう。ねぇ愛李?」

「うん?何?」

「愛李は男としたいと思う?」

「私は佐和子としかしないよ」

「だから愛李の事好き。でも愛李、私以外の女とはしてもいいよ、女はキレイだからいいの」

「うん、でも私は佐和子だけだから…」

19: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:12:08.20 ID:keswHy3x0
その数日後



町外れの崖下から少女の死体が発見された

遺体の損傷が激しく、自殺か他殺かも今のところ分からないが

男女関係のトラブルという線で捜査は進んでいるそうだ


今や学校中がその話題で持ちきりだ



「トラブルが男女間だけとは限らないよね、佐和子」

主のいない机に向かって私は話しかけた

クラスのみんなが私達の方を見てヒソヒソと話をしている











佐和子の机には花瓶と花が置かれていた

20: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:15:58.36 ID:keswHy3x0
第5章~交錯~


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21: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:16:38.11 ID:keswHy3x0
家に帰ると私は一目散に部屋に入った

母からはいつもの様に店を手伝えと言われたが無視して布団に潜り込んだ

母は祖母から引き継いだ居酒屋をスナックの様な形で使っている

前に住んでいた町でも同じ様な店で生計を立てていた

まだ別れる前の父から生活費は貰っていたが、それだけでは母娘二人分には足りないと始めたようだ

私が中学生になると母は店を手伝えと言い始めた

大半が仕事終わりか仕事をしているかも分からない様な風貌の中年の男が客で、どの男も母を口説こうとしていた

中には中学生の私に声をかけお尻などを触ってくる男もいた

私が困った顔をして母を見ても母はそれを見て笑っていた

その頃から母は娘の為に食事を用意する事が減り、店で出す酒の肴をつまめと言われた

私はあんな男逹と同じ物を食べる気はなく、食事は次第に学校の昼食だけになった

さすがに学校の無い週末や夏休みなどは家にある物を食べたが出来るだけ最小限にしていた



店に来る客に良くママに似て器量がいい、将来はママの様なべっぴんさんになるぞと言われたが嬉しくはなかった

母は客や知人からはきれいだ若いだと言われて嬉しそうな顔をしていたが、私は母の厚く塗った化粧を落とした顔、貧乏人に口説かれても嬉しくも何とも思わないなどという言葉を毎日目にし聞いていた

私はそんな母に似ていると言われるのが嫌だったし自分が綺麗だと思った事もない



高校に入ったぐらいから客足は減っていった

母をモノに出来ないと思った客が来なくなったのだろう

そもそも料理や酒の割に高いこの店に通う価値はなかった

若いホステスを雇う程の金もなく私が度々店に出て接客させられていた

のれんを上げて私がいれば入るしいなければ帰る客もいたのを母も知っていたからだ

私は度々客の男に誘われたが全て断っていた

母にはたまにはデートぐらいサービスしてあげなさいと言われたが冗談じゃないと思っていた

22: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:17:26.91 ID:keswHy3x0
昼間の事が頭を駆け巡り離れない

名前は分からないが隣のクラスの子だと思った

もう一人の子は同学年にはいなかったと思ったので後輩だろうか

女同士…いや…男女のキスさえ目の前で見たことがなかった私は動悸が収まらなかった

みんなこうなのだろうか…

ああいう行為を目の前で見たら皆こうなるのだろうか

中学の頃いわゆるAVという物をクラスの女子が集団で見たという話を、翌日興奮ぎみに話しているのを聞いた事があったが皆こんな感情を持っていたのだろうか

それにしてもなぜ女同士であんな事をしていたのだろう

今まで恋愛経験というものが全く無い私にも、普通は男女でする物だという事くらい分かる

もしかしたら女同士の遊びかと思ったがそれも違う

遊びなら私と目が合ったらすぐに唇を離し言い訳をするだろう


しかし彼女は笑っていた


私に見せつけるように


答えの出ない問題を私はもうひとつ抱えていた

二階の教室から私に声をかけたあの子だ

ひどく動揺していた為、本当にそう言ったのか確かではないが

「かわいいね玲奈ちゃん」と言った気がした

どういう意味だろう

今日はおかしな一日だ

ようやく眠くなってきたと思った時、隣の部屋から母の声が聞こえた


あの声だ


古い木造の家はギシギシと音を立てて揺れた



私は耳を塞ぎながらじっと朝が来るのを待った

23: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:18:01.82 ID:keswHy3x0
「くーみ!かのん!」

「あ~珠理奈今帰り?」

「そう!」

「珠理奈さんこんにちわ」

「おう!」

「久美あんた今日花音連れてシャワー室入ったでしょ」

「げっ!見てたの?」

大きな目をより大きく見開き久美は驚いたというリアクションをした

花音の顔が見る見る紅潮するのが分かった

「見てたよ、それでその後玲奈ちゃん来たでしょ?」

「レナチャン???あ~あの転校生」

「で?玲奈ちゃんに何したの?」

「何って?」

「血相変えて出てきたよ」

「あ~あれね、私達がキスしてるの覗いてたから見せつけてやったのよ」

「覗いてたって玲奈ちゃんは掃除しようとしてただけでしょ!」

「そうなのっ!?」

またもや驚いたというリアクション

「そうなのってアンタねぇ」

私は呆れた顔をしながら花音を見ると膝を抱えてうずくまっている

「どうしたのかの~ん」

久美もしゃがみながら花音の肩を抱いた

「あれ見られてたんですか~、誰も来ないって言ったじゃないですか~」

私と久美は顔を見合わせ笑った

「ごめんねかの~ん」と言いながら久美は花音の頭を撫でた


「それで?わざわざそんな事聞きに来たの?何かあるんでしょ」

今度は大きな目を細くし聞いた

「ん~あの子ちょっと気になっててさ」

「ふ~ん」と久美はいたずらっぽく笑った

24: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:18:43.31 ID:keswHy3x0
結局一睡も出来ない為、明け方には家を出てあの草原に行った



昼前にはいつもの様にお腹がすいて目が覚めた

まだ眠たさの残るなか登校し食堂へ行った

ここは年間の授業料に食費も入っている為、何をどれだけ食べても自分の財布の口を開ける必要はなかった

いわゆるお小遣いというような決まったお金を貰っていない私がここでお腹いっぱい食べられるのはその為だった



私の前のテーブルにあの子が座っていた

周りの子逹と話してはいるが何度も私を見ているのが分かった

いったい私なんかに何の用があるんだ

私は気にしない様にして食事を済ませた

お盆を返却口へ持って行こうと前のテーブルを横切る



えっ…!?



右足の太ももに何かが触れた

ハッとして彼女を見ると私をじっと見つめ笑っていた

太ももに触れたのは彼女の右手に間違いなかった

するとすぐに私を見るもう一つの目線に気付いた

彼女の正面に座っている子…


彼女の名前は知っていた


高柳明音だ


私と目が合ったのを確認した彼女は目線を目の前に座る彼女に移しより鋭い目で睨み付けた



その場をすぐに去り午後の授業を受けている間ずっと高柳明音は私を睨み付けていた




今まで別々の方向を向いていた線が交錯した

おとといまで何もなかったはずの日常がもう戻ってこないと直感した

27: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:33:07.24 ID:keswHy3x0
第6章~沈黙と嘘~


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28: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:33:43.87 ID:keswHy3x0
授業が終わると私はすぐに学校を出た

面倒な事になるのが嫌だったからだ


「玲奈ちゃん!」


校門を出たところで私を呼ぶ声がした

振り向かなくても誰の声か分かった

私は無視して歩き続けた


「れ~なちゃん!!」

しつこい人だ

私は歩く速度を上げた、それでも彼女は追ってきた

もうかなりの距離を歩いた

私は初めて振り向き

「ついてこないで!!」と言い走った

でもあっという間に追い付かれた

その後聞いた話しだが彼女は中学時代に短距離で県の記録保持者だったらしい

逃げ切れる訳がなかった

いや、本当は逃げる気なんか最初から無かった


「わたしに…なんの…よう」

ゼェゼェと息を上げながら聞いた


息一つ乱していない彼女はニコッと笑い言った

「一緒に帰ろ」


・・・・・


「一緒に帰ろって!うちすぐそこだし!」

私は笑った

なぜだろう

何だかとっても可笑しかったんだ

彼女も笑ってた

私達は近くをぶらぶらしながら話をした

29: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:34:16.11 ID:keswHy3x0
彼女の名は松井珠理奈、偶然にも私と同じ名字だ

去年の秋、私より半年程前に引っ越してきたそうだ


中学時代は陸上をやっていた事

両親を早くに亡くし、おばあちゃんと二人暮らししてる事

ミートソーススパゲティが好きな事

読書が好きな事

何でも話してくれた



私もたくさん話した

あまり学校が好きじゃないと言うと珠理奈はこれから楽しくなるよと言った

午前中は秘密の場所で寝てると言うと私も連れてってと言った

好きなバラエティ番組の話をすると普段はテレビを見ないけど今度見てみると

好きなアニメの話もした、それも見てみると言った

今まで食べた物の中でティラミスが一番美味しいと言ったら私の誕生日に食べきれない程のティラミスを用意するよと言った

そして母の話もした

今日までの話、母の事が好きじゃない話

今まで誰にも話した事ない話、本当は誰かに聞いて欲しかった話

会話が弾んでいてつい話してしまった

私が謝るとすぐに珠理奈はいいんだよと言って微笑んだ

「私はお母さんの事もお父さんの事もあまり良く覚えてないけど大好き、玲奈ちゃんは今はお母さんの事嫌かもしれないけどいつか大切なかげかえのない人だって思える時が来るよ、だって血の繋がった親子なんだもん」

珠理奈の言葉は全て私の心に溶ける様にしみこんだ

今まで他人とこんなに話した事なかった

引っ越す前も友達と呼べる人はいたけどお互いの事をこんなに話す事も知りたいと思う事もなかった

30: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:34:50.28 ID:keswHy3x0
会話が途切れた…

話し始めて何時間経ったのか

辺りがもう暗い事に気付いた

初めての沈黙だった

何か話さなきゃいけないと思った

でも何も出てこない

さっきまでどうやって話していたんだろう

ハートが固まった様に言葉を交わせなかった

急に不安になった

珠理奈は何も言わずじっと私を見ている

さっきまで普通に見ていたはずの顔が急に見れなくなった

でも、意を決して見てみる


何て整った顔をしているんだろう…


口角の上がった口も、その通った鼻筋も、力強さの中にある優しい目も全てが作り物の様に整っていた

「美少年」という言葉は男子だけに使う言葉ではなく美しい人を指す言葉らしい

まさにこの人の為にある言葉だと思った


何分にも感じたが、きっと数秒だったであろう沈黙を珠理奈が破る

「玲奈ちゃんこれあげる」

珠理奈はネックレスを外した

「え!いいよそんな」

「いいの、ほら」

珠理奈は私の首に手を回した

嬉しかった

珠理奈が身に付けていた物が、いま私の肌に触れていると思うと嬉しかった

「玲奈ちゃんキスした事ある?」

「・・・ない」

珠理奈の左手が私の髪をかきあげる様にして後頭部を支えた

抵抗出来なかったしする気もなかった

人生で一番の緊張だった

31: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:35:27.38 ID:keswHy3x0
珠理奈の顔が近づく


目を瞑った時、珠理奈の唇は私の期待を裏切り私の唇をかすめた

その唇は頬を通りすぎ先程髪をかきあげられ露になっている耳に触れた

一瞬で耳から足の先まで電流が流れるような感じがした

耳たぶを噛まれ吐息をかけられ私はこぼれそうになる声を必死にこらえた


「痛いよ玲奈ちゃん」


唇を離し耳元で珠理奈が言った

力いっぱい握ってしまった珠理奈の右腕から手を離し私は謝った


「意外に力、強いんだね」

「そんな事ないもん」


真っ赤な顔してるのが自分でも分かった


「遅くなっちゃったね、もう帰ろうか、お母さん心配してるよ」

「心配なんかしてないよ、まだ大丈夫!」

「帰ろ、また明日会えるから」

32: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:36:04.31 ID:keswHy3x0
「こんな時間まで何やってたの!早くお店手伝って!」

ごめん、今日はムリと言って二階へかけ上がった

まだドキドキしてる…

布団に潜り込み記憶を呼び起こす

二人で話した事

ベンチに座り向かい合った事

胸元にあるネックレスを何度もなぞり現実にある事を確認する

右耳はまだあの感触を忘れてない

会いたい…珠理奈に会いたい


私は嘘をついていた

昨夜眠れなかったのをシャワー室でキスを見たからだと思うようにしてた

嘘なんだ

本当は珠理奈の事を思ってたんだ

二階の教室から声をかけられたその瞬間から珠理奈の事が頭から離れなかった

相手は女の子だって何度も言い聞かせた

でも今日珠理奈といて分かった

人を好きになるのにルールなんてない


突然だ


恋は突然だ


私は珠理奈の事が好なだんだ

33: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:36:48.54 ID:keswHy3x0
第7章~秘密と報復~


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34: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:37:21.22 ID:keswHy3x0
翌日、私は家を出てまっすぐ学校へ向かった

登校中珠理奈を見つけたが、何人かでグループを作り歩いていたので声をかけたい気持ちを我慢し十数メートル後ろを歩いた

学校に着いてから珠理奈のクラスを覗いたが、やはり他の生徒に囲まれていて声をかけられない

しばらく見ていたが私の視線に気付く事もなく、始業のチャイムが鳴ってしまった

次も、その次の休み時間も同じだった


途端に私は不安になった


昨日の事は幻だったんじゃないか

私は制服の下に隠したネックレスを何度も何度も確認し幻じゃないと言い聞かせた

次の休み時間も珠理奈のクラスを覗きに行くが珠理奈はいなかった

ふと廊下の先に目をやると珠理奈がトイレから出てきた、やはり周囲は2.3人の生徒が囲み会話に夢中になっている

こちらに向かってきてはいるが私には気付いていない様だ

またダメだと思いながら右手でネックレスを確める

珠理奈は私に気付かないまま私の脇を通りすぎ教室に入ろうとした

無理、もう無理と思った時

私の左手を何かがスッと触れた

振り向くと珠理奈がこちらを見て微笑みながら教室に入った

良かった…幻なんかじゃなかった

涙が滲んだ

それから休み時間にすれ違う時はお互いの左手を触れあう様になった

周りの子に気付かれぬ様、音の出ない様にそっと触れ合った


二人だけの秘密を共有した


帰りはまた一緒に帰り昨日と同じベンチで話をした

今日は暗くなる前に別れる事になった

もちろんまだ一緒にいたかったが明日からもこの日々が続くと思えば平気だった

35: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:37:53.71 ID:keswHy3x0
家に着くと人影が見えた

「向田さん…?」

「松井さんに話があって待たせてもらってました」

「あ…はい」

「今も珠理奈さんと一緒だったの?」

「え?」

「答えて」

「そう…です」

「やめて」

「え?」

「もう珠理奈さんと関わらないで、これ以上明音ちゃんを追いつめないで」

そう言うと向田さんはその場を去った


向田さんは高柳さんと仲が良い事は知っている

食堂での事のあと、高柳さんが私をずっと睨んでいた

高柳さんが向田さんを使って私に忠告しに来たんだろうか…



翌朝

登校し上履きを履くとおかしな感触がした

とっさに足を抜き中を確認して思わず声を上げてしまった

周りの生徒達の視線が集まる

上履きの爪先部分に虫の死骸が詰められていた

私はすぐに靴下を脱ぎ洗面所でまだあの感触の残る足を必死にかきむしりながら洗い裸足のまま体育館シューズを履いた

教室に行くといつもと違う感じがした

元々友達のいない私は誰とも会話せずに着席し一日を終えるが今日は違った

皆が私の存在を意識しながら無視しているのが分かった

4時間目は体育の授業だったが私のジャージがなかった

辺りをキョロキョロし、二階の廊下から校舎裏の池を覗くとボロボロに引き裂かれた白い布が浮いていた

確認するまでもなかった

ジャージは家に忘れたと説明し授業は見学した

このまま早退してもいいかとも思ったが、もう少し我慢すれば珠理奈と帰れると思い帰らなかった

36: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:38:29.50 ID:keswHy3x0
昼休みが終わる頃

次の授業の用意のため机に手を入れると

左手の人指し指に激痛が走り、見るとバックリと裂け血が吹き出している

気の遠くなる様な痛みの中教室の左端に目をやると


高柳明音がこちらを見て笑っていた


昨日の忠告はこういう事だったのか…

保健室に行こうと席を立とうとした時、誰かが私の左手を掴み引き上げた


珠理奈だった

珠理奈は傷口のある人指し指を口に入れた

一瞬の傷みの後全てから開放された

先程まで笑顔だった高柳明音の表情が見る見る強張る


いいと思った…

私には珠理奈さえいればいい

珠理奈がいればどんな事にも耐えられる



珠理奈は私の物だ



アンタにやるつもりはない





その日も校門前で珠理奈を待っていると向田茉夏がやって来た

また何かあるのかと身構えたが彼女は一言

「ひどい事をしてごめんなさい」

とだけ言って去った





その日珠理奈はいくら待っても来なかった

38: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:39:13.64 ID:keswHy3x0
暗くなる頃、家に帰り店のドアを開けるとすぐに異変に気付いた

店がめちゃくちゃだ

テーブルも椅子もコップも辺り一面に散乱している

店の隅に座りながらタバコを吸う母がいた

「どうしたの!何があったの!」

「知らないよ、突然男たちがやってきて店をめちゃくちゃにしていったんだよ」

「何でそんな」

「電話が来てね、借金をチャラにする話は無かった事にしてくれってさ」

「電話?借金?」

「高柳だよ…」

「高柳?」

「あんたの学校の理事長さ、私はあのじじいの愛人をする変わりに借金を肩代わりしてもらってたんだよ」

「愛人て…」

「あんたも知ってるだろ!夜中店が終わる頃に来る男がいる事ぐらい」

全てが繋がった、私が私立の学校に編入出来たのはそういう事だったのか

「で、あんた高柳の孫に何したんだい?」

「え?」

「同じクラスなんだろ?あんたが何かしなきゃあのスケベじじいが急に関係を解消したり店をこんなにする訳ないだろ、あのじじいが孫に甘いのは有名な話だからね!」



私は何も言えなかった…何も言わず店を片付けた




翌日


朝一で体育館に集められ全体集会が行われた

行方不明だった秦佐和子さんが遺体で発見されたと説明され









珠理奈は逮捕された

39: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:42:46.23 ID:keswHy3x0
第8章~疑惑と疑念~


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40: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:45:11.47 ID:keswHy3x0
秦さんが行方不明になったのはちょうど二週間前

元々学校も休みがちだし外泊する事も多かったが、一週間以上帰宅しなかったので家族が捜索願いを出した頃近くの崖下から若い女性と見られる死体が発見された

遺体の損傷は激しかったが、間もなく家族により秦佐和子本人と確認され本日学校側から生徒に説明された
合わせて珠理奈が逮捕された事も説明され、彼女達と親しい友人はこれから事情聴取されるとも説明された

しかし私は事情聴取を受ける事はなかった

たった数日の私と珠理奈の関係を学校側が把握してる訳がなかったし、たとえ聞かれても珠理奈と秦さんの関係など何も知らないと答えるしかなかった

珠理奈は本当に殺人を犯したのだろうか

私自身も真実を知りたかった為、珠理奈のクラスの何人かの生徒に話を聞いた

そこでいくつかの事実を知る

二人は付き合っていたと言う事

秦さんが周りからはあまり良く思われていない事

珠理奈は他の子とも関係があるという事

秦さんも珠理奈以外の子とも関係があり、古川愛李とは最も深い関係だった事

そして、多くの人は珠理奈ではなく古川愛李が犯人ではないのかと思っていた事

私はその古川愛李にも話を聞いた

「だから珠理奈とは付き合うなって言ったの」

「どういう意味?」

「佐和子が珠理奈と仲良くなり始めてすぐに思ったわ、この子危ないって」

「・・・・・」

「私ね、目を見るとあっ!こいつ悪人だなってすぐ分かるの、タレントや政治家もテレビ画面を通して見ただけでピンと来る
すると近い内に必ず恐喝や汚職に手を出すの、殺人事件が起きると近所の人や、親族に取材するじゃない?そんな時もすぐ分かる、あぁこいつが殺ったなって、珠理奈も同じ、あいつらと同じ目をしてた」

「それを警察に?」

「そうよ!それに佐和子が遺体で発見された翌日に警察が私の所に来た、でも私は佐和子が殺されたとされる日にはアリバイがあった
それにその前日私は佐和子に会ってたの、その時佐和子言ってたわ、明日は珠理奈と会うってね」

「それで」

「そう、それで珠理奈は逮捕された」

「・・・・・あなた、佐和子さんの事好きだったんでしょ?」

「違うわ、好きなんてもんじゃない、愛してた」

「だったら何で悲しそうじゃないの?」

「十分悲しんでるわ、それとも何?泣きじゃくり後でも追って死ねば愛してたと証明されるの?」

「そんな事は…」

「でも今は憎いという気持ちの方が大きいかも、佐和子を殺した珠理奈も、珠理奈には会うなと言ったのに無視した佐和子も」

41: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:46:56.95 ID:keswHy3x0
私はどうも納得がいかなかった

帰宅しながら今までの事を頭の中でまとめた

もし珠理奈が殺人犯なら、私と一緒にいる時はすでに人を殺した後だ

絶対にそんな事はない

それに古川愛李の言ってる事がどうしても真実とは思えない

そんな時

「ちょっといい?」

私を呼び止める声

「何か用ですか?」

「松井さんでいいのよね?私は大矢真那、珠理奈の事で話があって」

「あ、はい」

「犯人は珠理奈じゃないわ」

「え?」

「珠理奈はその日私と一緒にいたもの」

「それを警察には!」

「言ってない」

「なぜ?」

「言えなかったの」

「言えなかった?」

「私が学校に来た警察の人に話そうとしても先生が止めたの」

「止めた?でも生徒からも話を聞くって言ってたのに」

「どうもおかしいの、呼ばれた生徒は皆珠理奈を良く思っていない子ばかりだったわ」


「それって」


「この事件どうもおかしいわ、まるで珠理奈を犯人にしたてあげてるみたい、そもそもあんな証言だけで逮捕なんてする訳がない」

「なぜそんな事が」

「思い当たる節はあるわ、あのね…

42: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:47:37.03 ID:keswHy3x0
真那さんの口から出た言葉を、私はすぐに理解出来なかった



現実にそんな事があり得るのか



そんなもの映画や小説の中の話じゃないのか



それを私は、これから自分の身をもって知ることになる



この町に古くから巣くう魔物、高柳家の狂気とそれにとり憑かれた人たち



そして、私ももうこの町の一部である事を

43: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:48:22.72 ID:keswHy3x0
第9章~操り人形~



珠理奈の逮捕に疑問を感じた私は、独自に同級生逹から話を聞いていた

そんな時「その日一緒にいたという」珠理奈の無実を証明する真那さんの証言を聞き

私たちは警察署に向かい事情を説明するとある部屋に通された

しばらくすると担当の戸賀崎という大柄な男がやってきた

真那さんは、秦佐和子が死亡したとされる日は珠理奈と一緒にいた為彼女は無実だと訴えた

すると戸賀崎はニコッと笑いながら

「重要な証言どうもありがとう、捜査に御協力感謝します、他に何かありますか?」

真那さんは私と一瞬目を合わせ

「いえ、以上です」

と答えた

「そうですか、それではこれで失礼します」
戸賀崎が部屋のドアノブに手をかけた時私はとっさに

「あの!」

「はい?」

「珠理奈はすぐに帰れるんでしょうか?」

「まだ取り調べ中なので」

「珠理奈に会えないでしょうか?」

「会えません、ではお引き取りください」

戸賀崎は笑顔のままドアを開け左手を廊下の方へ差し出し私達を誘導した

私達は何かもやもやした思いを抱えながら警察署を後にした



真那さんとは連絡先を交換し別れ

明日には珠理奈は学校に来るかもしれない、そんな事を思いながら眠りについた

しかし翌日も、その翌日も珠理奈が登校する事はなかった

担任の湯浅に聞いても何も知らないの一辺倒で珠理奈に関する話は何も聞けなかった

44: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:49:45.89 ID:keswHy3x0
珠理奈の逮捕を聞いてから3日後

私は真那さんと再び警察署を訪れた

戸賀崎は不在で珠理奈とは会えないと門前払いだった

珠理奈はどうしているんだろうか、きっと心細い思いをしている、一目でいいから会いたかった

警察署を出てしばらく歩いていると一人の男に声をかけられた

「警視庁公安課の佐藤という者ですが、秦佐和子さんの事件でお伺いしたい事が」

「警察の方ですか?はい…いいですが」

「ここでは何なので近くの喫茶店にでも」

「警察署で話すんじゃないんですか?」

「私は署の者でなく本庁の人間なのであそこでは色々やりにくいんですよ」

私たちは少し不安を感じながらも場所を変え話をした

戸賀崎よりも若く頼りなく見える佐藤という人を信用していいのだろうか…

話は秦さんや珠理奈の事の他に学校の先生や戸賀崎の事

そして高柳理事長の事まで聞かれた

知っている事は何でも話して欲しいと言われたが、私は母の事は話せず何も知らないとしか言えなかった

佐藤は私たちの話を聞きながら時折メモを取っていた

そして最後に名刺を渡され、他に何か思い出した事があれば戸賀崎でなく私に連絡をして欲しいと言い佐藤は席を立った



翌日

登校すると平穏を取り戻しつつあった教室が騒がしかった

高柳明音、向田茉夏、平松可奈子の中心に珠理奈がいた

「珠理奈!!」

私は高柳明音の事は気にせず珠理奈の名を叫んだ

その声に高柳明音は私を睨み付けた、平松可奈子も同様に

そして高柳明音が何か耳打ちすると珠理奈は私の方を見る事もなく教室を出た

私はすぐに追い掛け左手で珠理奈の右腕をひっぱり強引にこちらを向かせた

珠理奈は右下を見つめ私と目を合わせない

珠理奈の頬は明らかに痩けていた

「珠理奈どうしたの?」

問いにも答えず珠理奈は手を振り払い教室に入って行った

45: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:50:38.85 ID:keswHy3x0
「あんたの事なんか嫌いだってさ」

振り返ると高柳明音がいた

「何か知ってるの?」

「は?」

「あなた珠理奈に何をしたの?」

「私が珠理奈に何かをする?何言ってんの!」

「おまえっ!」

「コラ!松井何してる!チャイム鳴ったぞ、教室に入れ!」

私は湯浅に押し込まれるように教室へ入れられた



HRからそのまま一時間目の授業を終え、私はすぐに隣のクラスへ行った

珠理奈の姿はない

真那さんに話を聞くとHR中に気分が悪くなったと言って早退したと

真那さんも話はほとんど出来ていないそうだ

そしてクラスにはもう一つの変化が起きていた

珠理奈は釈放され

古川愛李が逮捕されていた



「私知ってたよ」

久美は言った

真那が聞く

「どうして?」

「どうしてって愛李自分で言ってたよ、私が殺したって、すぐに自首したんだけど愛李は逮捕されずになぜか珠理奈が逮捕されたって」

「それが今日になって珠理奈は釈放されて愛李が逮捕されたの?何でそんな無駄な事を」

真那さんが必死に事の真相を考える中、私は何も考えられなかった

いったいこの町で何が起きているんだ

おかしな夢でも見ているのか

身体中をどろどろとした液体が回っている様な感覚の中、ただ二人の会話を頭を通りすぎていた

46: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:52:18.02 ID:keswHy3x0
第10章~増殖する悪しき心~


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47: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:52:52.58 ID:keswHy3x0
珠理奈の家に行くと、おばあちゃんが出てきて珠理奈は不在だと言われた

昨夜警察から釈放され一度家には帰ったが、また出ていき外泊しそのまま登校したようで、今日もまだ帰ってないと


翌日

珠理奈が登校してるのを確認し昼休みに会いに行った

その前に行く事も出来たが、もしかしたら珠理奈から来てくれるかもという期待があった

しかし来ては来れなかった

教室を覗くと珍しく珠理奈は一人でいた

私は一つ大きな深呼吸をし彼女の名を呼んだ

「じゅりな…」

珠理奈は何も反応しない

聞こえなかったのかな

「じゅりな!」

さっきよりおっきな声で言ったのに

「ねぇじゅりな何で無視するの?」

珠理奈の右肩に手をかけ少し強めに引き寄せた

珠理奈は一瞬目を合わしたがすぐに右下へと目線を伏せた

その時

「じゅりな!」

廊下から珠理奈を呼ぶ声がした

私も珠理奈も視線をそちらに向けると彼女は手招きした

すると珠理奈は先程とは一変した笑顔で彼女にかけより手を繋ぎ去っていった



どうして…

何日か前までは私のそばにいたのに


珠理奈がいない間どれどけ不安でどれだけ心配したか…

どうして…

私以外の人に笑顔を向けたの

珠理奈は私の物なのよ

憎悪に満ちた感情が私を支配した

48: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:54:22.08 ID:keswHy3x0
第11章~いつもの部屋で同じ時を~


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49: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 04:55:02.60 ID:keswHy3x0
「集合~!!」


携帯の受信メールにこの文字が表示されると、私は必ずあそこへ行く

町外れのモーテルのいつもの部屋

一斉送信で送られた人のほとんど、毎回10人程が集まり同じ空間で同じ時を過ごす

おしゃべりする者、ゲームをやる者、ベットに入る者、やばい事やってる奴もいる


メールの送信者は高柳明音


部屋代も酒代もここでは全て明音が支払う

私はここにいる時が一番好きだ

クソつまんねー授業からもクソウゼー家からも解放される



「で、どうだった梨奈?」

「ん?何がぁ?」

「珠理奈の事に決まってるでしょ、で、どうだった?」

「うん、結構良かったよ、やっぱ慣れてるなって感じしたし」

「そう…じゃあ私とどっちがいい?」

「そんなの明音に決まってんじゃん」

明音は真っ直ぐ梨奈を見つめ口元にだけ笑みを浮かべながら、そっと莉奈をベットに横倒した

51: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:00:14.42 ID:keswHy3x0
第12章~すれ違う決意~


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52: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:01:40.58 ID:keswHy3x0
まるで初めから何もなかったかのように時は流れた

あれからずっと珠理奈は私の声に反応しない

珠理奈が私のクラスに顔を出すたび期待する

でもその相手は私ではなく高柳明音だ

その度に高柳明音は勝ち誇った顔をして私を見た

そんなのもう見たくなくて次第に学校を休むようになった


あの日以来母は少し変わった

スナックを辞め近くのお弁当屋で働くようになった

憑き物が取れたように穏やかになった母

まだ私の為に食事を用意する事はなかったが

職場で余ったお弁当を持って帰ってきてくれる

何年かぶりに母と食卓を囲むようになった

それがまた昼食の為に登校していた私を学校から遠ざける一因にもなっていた



夜になると一人泣いた

隣の部屋の母に聞こえないように静かに

ネックレスを握りしめながら珠理奈の事を思って

何か珠理奈の気に触る事をしただろうか

私のどこがいけなかったのか

初めて会った時からの会話や仕草も一つ一つ思い出した

毎日毎日同じ自問自答を繰り返し


諦められない


諦めたくない


もう一度珠理奈に会おう


何か誤解があるなら


私の気持ち全部話せば


元通りになるかもしれない

53: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:02:23.14 ID:keswHy3x0
その日は朝から土砂降りの雨だった


私は珠理奈の家の前で帰りを待った

傘はかろうじて顔を守る程度で

下着や背中もずぶ濡れだった

何度も帰ろうと思ったけど

今日を逃したらもう一度来る決心がつかない気がした

それ以上に、こんな中待ってる私を見れば珠理奈はまた抱き締めてくれる

そんな期待を持っていた



何時間待ったか分からなくなった頃



「玲奈?」



珠理奈だった


この時まで何度も何度も繰り返し唱えた言葉が喉の奥につかえて出てこない



伝えたい事がいっぱいあるのにただ私は泣きじゃくっていた

54: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:02:55.09 ID:keswHy3x0
「もう迷惑だから、こういうのやめてくないかな」


え?今何て言ったの?

珠理奈の顔を覗きこむ

「もうあんたなんかに興味ないから、付きまとうのやめてくれない」

「何で!ついこないだまであんなに仲良かったのに!私が何か気に触る事した?何かしたなら謝るから」

「別に何もないよ、一緒にいるのもただ暇潰しだっただけだし」

「嘘だ!嘘だ!嘘だ!高柳明音に何か言われたの?それとも松本梨奈?」

「別に何も言われてないよ、あの頃ちょうど明音とうまく行ってなくてムシャクシャしてたから目についたあんたをからかっただけ」

私は何も言葉が出ず珠理奈を見ていた

「それに梨奈はさ、身体の相性がいいの、私が遊び人だって事ぐらいとっくに知ってるでしょ?」


「私にはキスだってしなかったのに」


「ごめんね、あんたみたいなガリガリな女興味ないんだよね」


気付いた時には私の右手は珠理奈の左頬を弾いていた

もう傘をさす事も忘れ走りながら冷えきった身体の中右手だけがジンジンと熱を持ってた




珠理奈は地ベタに膝まづきながら自分に言い聞かせた


「いいんだ…これでいいんだ…」


55: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:04:23.30 ID:keswHy3x0
第13章~珠理奈?~



その日の私は玲奈の事が心配で少し焦っていた

日直の仕事を手早く済まし職員室へ行く途中湯浅に校長室へ来るようにと言われた

そこには校長と戸賀崎という刑事がいた

用件は私を逮捕するという事だった


佐和子を殺した容疑で


全く身に覚えがないといくら言っても聞いてはもらえず、佐和子が死んだというショックもありパニックになった私は気が付いた時には警察にいた

そして取り調べとは言えない一方的な尋問に答える間もなく調書は埋められていった

動機は佐和子に別れ話をされた私が逆上して佐和子を殺し崖から落とした

そう捏造された

物証も証言もない、しかも私にはその日真那と一緒にいたアリバイもあるのに、そんな馬鹿な話があっていいのか

確かに私と佐和子は関係を持っていたが、一ヶ月以上は学校でしか接しなかったしお互い本命がいる事を知りながらの良好な関係であった

私が何をどう説明しても戸賀崎は聞き入れてはくれなかった

家に連絡させて欲しいという願いも湯浅から連絡が行くと許されず

私はそれ以上に玲奈が心配だった

私が突然いなくなって、あの子が大丈夫なはずがなかった

それから何もないまま3日が経ち

戸賀崎から面会が来ていると言われた

きっとばあちゃんか玲奈だと思いながら面会室へ行くと


そこに座っていたのは明音だった

56: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:04:58.20 ID:keswHy3x0
「来てくれたんだ明音、ありがとう」

「どう、ここでの生活は?少し痩せたみたい」

「何がどうなってるのか分からないよ、私は何もしていないのに警察は私を犯人と決めつけている」

何も言わずじっと珠理奈を見つめる明音

「どうしたの明音?」

「珠理奈あんたさ、あの女の事どう思ってんの?」

「あの女?」

「玲奈だよ、まさか付き合ってるなんて言わないわよね?」

「何でこんな所で急にそんな事聞くんだ?」
「いいから答えて」


「付き合ってるよ…」

「バカな事言わないでよね、あんたは私と付き合ってるのよ、それなのにあの女とも付き合ってますなんて道理がある?」

「確かに明音とは色々あったけど付き合うと言った覚えはないんだ、ごめん…」

「はぁ?何言ってんの!私と散々寝て貢いで貰って付き合ってないなんてフザケんじゃねーぞ!」

「確かに寝たけど私は一度も貢いでくれってお願いした事はないよ」

「じゃあ何?寝たのは遊びだったって事?」

「ごめん」

「で?今はあの女と付き合ってますと」

「ごめん」

「分かったわ、じゃああんた何で今こんなところにいるか分かる?」

「佐和子が誰かに殺されて以前に関係のあった私が疑われて…」

「違うわよ、私が珠理奈を牢屋に入れてと言ったからよ」


「え?…」


「あんた何にも分かってないんだね、この町で私に逆らったらどうなるか、私がおじいちゃんに言えばあんたを殺人犯に仕立てあげる事ぐらい簡単なんだよ」

57: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:06:09.27 ID:keswHy3x0
「どういう事!?」

「まだ分かんないの?あの女が珠理奈に手出すと思ったから警告した。なのに無視して、しかも私の前でいちゃつくなんてこの私を侮辱した…だから無茶苦茶にしてやったの」

「無茶苦茶?」

「あいつの家が何やってるか知ってるわよね?」

「スナック…」

「まずはその店を無茶苦茶にしてやったのよ、もうこの町で商売は出来ないと思う程に」

「何でそんなひどい事を…」

「そして珠理奈!あんたをブタ箱にぶち込んだ!」

「こんな事していったいどうしたいんだ」

「珠理奈が私の物に戻ればいいのよ」

「明音の…物?」

「そう、前みたいに私の物でいればいいの。いえ…前みたいじゃダメね、前よりもっと、私に忠誠しなさい。
そう誓えればここから出してあげるし、あの子も許してあげる。でももし断るんなら珠理奈は一生クサイ飯を食う事になるし、あの子にはもっと苦痛を味会わせる。何なら次はあの子を殺人犯にしたっていいんだよ!」



「・・・・・分かったよ」

「そう!さすが珠理奈ね、頭のいい子、それじゃあすぐに出してあげるから明日から学校来なさい。
そしてもう二度とあの子と会話もしない事、何があっても無視するのよ、学校中の生徒みんなに監視されてると思いなさい、分かった?」



「分かった」

「あ~それと、松本梨奈って知ってるでしょ?あの子すごい珠理奈のファンなんだって、しばらく付き合ってあげて」



「え?」


「言う事聞いてね、忠誠を誓うとはこういう事なの」






「・・・はい」

58: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:15:18.52 ID:L01tiIIq0
第14章~珠理奈~


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59: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:15:54.11 ID:L01tiIIq0
家に帰り、ばぁちゃんに心配かけたと謝ると


「心配なんてしとらんよ、早くお風呂入ってきなさい」とだけ言ってその日は何も話さなかった


仏壇を見るとお供え物がいつもより豪華だった





翌日から学校へ行った


出来れば行きたくなかったが


明音が許さなかった


玲奈を傷付けるだけの毎日


学校にいる時は常に誰かに見られ


授業が終われば明音と一緒に居なければいけなく


明音が別の女といる時は松本梨奈をよこしてきた



一切の接触を禁じられたままで



次第に玲奈を見かける事が減っていった

60: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:16:26.06 ID:L01tiIIq0
朝から降り続けた雨は夜になり更に勢いを増していた


梨奈から解放された私は土砂降りの中を小走りで帰っていた



家の前に誰かいる?



視界は悪く数メートルまで近づかないと誰か分からなかった


「玲奈…?」


ずぶ濡れになりながら泣き崩れた玲奈を今すぐ抱き締めたかった


でも出来なかった…



酷い事を言った


また玲奈を傷付けた


だからこれで最後にしたかった


他の人に傷付けられるくらいなら


私が傷付けたかった…




左頬にだけ玲奈の体温が残る




「いいんだ…これでいいんだ…」





足…?




顔を上げると明音が見下ろしていた

61: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:17:47.22 ID:L01tiIIq0
「良く出来たじゃない」


「見てたのか?」


「そうよ」


風はビュウビュウと叫び声をあげながら雨粒を容赦なく叩きつけていた


「これで満足か?」


「何?聞こえない?」


「全部自分の思い通りになって満足かって聞いてるんだ!」


明音は私を睨み付けると右手を振り上げた


「二度とわたしにそんな口のききかたしないで!!」


振り上げた右手の行き先を雨がゆっくり冷やしていった





悪いのは私だ


転校してきてすぐ、近付いてきた明音の言葉に乗ったりしたから…


ただの暇潰しであんな事しなければ


玲奈が転校して来るまで待ってさえいれば、こんな事にはならなかった…


私さえしっかりしてれば











玲奈を地獄に落としたのは私だ…

62: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:19:20.77 ID:L01tiIIq0
第15章~悪魔の連鎖~



あれから、ろくに髪も乾かさずにいたせいか朝になると熱があった


今日も雨か…


どうせ学校に行く気もないし寝てるだけなので関係ない


翌朝


昨日よりはいくらかましだったけどどうでも良かった


どうせなら重い病気にでもなって死んでも構わない


いや

そうなって欲しいと思ってた




出勤前の母がドアを開けて入ってくる


いつもならドア越しに行ってくるねと言うだけなのに


「玲奈、友だちが来てるよ」


「・・・ともだち…?」


珠理奈だ!!


私は慌てて布団から飛び起き階段を降りた


ほぼ丸一日寝てたから足元はおぼつかず今にも転げ落ちそうだが何とかかけ降りた


ボサボサになった髪に2・3回手ぐしをいれ玄関のドアを開けた


昨日までの大雨が嘘のような快晴の日差しに一瞬目を閉じ、ゆっくりと開けた…

63: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:20:11.37 ID:L01tiIIq0
「向田さん…?」


「松井さんごめんなさい家までおしかけちゃって、少しお時間いいですか?」


「別に話すことなんてないです・・・」


あからさまに嫌な顔をしていただろう


「ごめんなさい、でもどうしても話したくて」


もう珠理奈は私に興味ないんだ、今さら何の話だ、まだ嫌がらせしたいのか


ただ向田さんの表情とこないだ校門前で言われた


―ひどい事をしてしまってごめんなさい―


この言葉が妙にひっかかっていた


「あの・・・少し待ってて下さい、着替えてきます」


何を着るか考えるのも億劫なので簡単に洗顔を済ませ制服を着て降りた



近くの公園のベンチ



珠理奈とよく話した場所



本当は来たくなかったが他にどこも思い浮かばなかった

64: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:20:42.57 ID:L01tiIIq0
「話って?」


「明音さんの事なんですけど…あっ!その前に、ひどい事をしてしまってごめんなさい」


「何であなたが謝るの?私は向田さんに何かされた覚えはないわ…」


ベンチは乾いていたが、まだ地面に残る水溜まりで雀が水浴びをしている


「明音ちゃんとは小さい頃からの友達で、明音ちゃん昔はこんな事する子じゃなかったんです。それなのに高校に入ったぐらいからだんだん変わってきて…」


「何の話?だから私や母にした事を許せって言うの?」


「違うんです。ただ最近明音ちゃんの家がおかしいっていうか…母が明音ちゃんのお母さんに聞いた話なんですけど・・・」


それから向田さんは高柳家の話をし始めた





明音の祖父であり私たちの高校の理事長でもある高柳グループ会長、高柳兼蔵


その一人息子であり明音の父、高柳謙二


その二人には経営方針を巡り長年対立があり、取締役の謙二にほぼ権限はなかった


設立から続く兼蔵の支配的なまでの強引な経営方針によりグループは大きく成長し、この町は経済的に大きく発展した


この町に住むほとんどの人間が高柳グループに関連する企業に勤め


この町から出る政治家も高柳の息がかかった者のみ


事実上の支配者が兼蔵だった


謙二は幼い頃は体が弱く、仕事一筋の兼蔵とはほとんど顔を合わせる事もなく母と二人の生活だった為か父親には似ず、母親似の優しい子に育つ

65: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:21:31.74 ID:L01tiIIq0
しかし謙二が中学生になる頃母親は病死し


それまであまり謙二に興味がなかった兼蔵により跡取りとしての教育が始まる


乱暴だった父親に時には拷問に近い体罰を受ける事もあった


大学を卒業し兼蔵の下で働き始めて数年経った頃


兼蔵の用意した見合いをする事に


相手は高柳グループと密接な関係にある会社の社長令嬢


いわゆる政略結婚に乗り気ではなかった謙二だが


当日、その娘に会い心は変わる


謙二好みの美しく、そして優しい女性だった


彼女もまた厳しい父親の元に産まれ、同じ心の痛みを持つ二人はすぐに恋に落ち


ほどなく結婚、そして明音が生まれる


兼蔵は初孫を喜び溺愛する


自分が愛情をかけられず育った謙二の不安も危惧で済んだ


しかし、経営に関しての姿勢は変わる事はなかった


長く続く不況もあり、世間が思う程高柳グループの内情は安泰ではなく、謙二が進める経営のスリム化と兼蔵の強引なやり方の対立はより根深い物となっていた

66: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:22:45.30 ID:L01tiIIq0
そして明音が中学三年になった頃それは起こる


謙二による体罰だった


長年の父親との確執がいびつな形で露になる


彼は何発か明音を殴ると我に返り明音を抱き締め許しをこう


しかし次の日、また次の日とそれはエスカレートしていった


母親の必死な制止の後また涙を流しながら許しをこう


しかし明音は父を恨まなかった


そしてプライドの高い明音はそれを誰にも打ち明けなかった


その代わり


彼女は高校入学からその振る舞いを少しずつ変えていった


本人も気付かない程少しずつ





そして明音は祖父の力を最大限利用し始める

67: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:23:45.51 ID:L01tiIIq0
第16章~真実~



「そう・・・でもそんな事どうして私に話そうと思ったの?」


茉夏は数秒間うつむきスッと顔を上げた


「明音ちゃんが好きなんです、だからこれ以上明音ちゃんが誰かを傷付けるのも自分自身を傷付けるの見たくないんです」


なんて真っ直ぐな目をする人だろう・・・


「そう・・・でも私には何も出来ないよ、もう珠理奈は私に興味ないし、高柳さんのとこに戻ったんでしょ」


「それは・・・違うんです…あっ!すいません電話が」


ベンチから二三歩離れ玲奈から背を向け話しはじめてしばらくすると


「・・・そんな!!それで明音ちゃんは!?」


それまでうん・・・うん・・・と頷いていただけだった茉夏が明らかに取り乱しているのが分かった


明らかな異変に玲奈は茉夏の視界に回り込む


「どうしたの?」


「母からだったんですけど…理事長が逮捕されたって…」


「逮捕!?」


「それで明音ちゃんが・・・」


「高柳さんが・・・?」


「いなくなったって」

68: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:25:09.12 ID:L01tiIIq0
私は向田さんと高柳家に向かった


家が見えると野次馬にマスコミ、それらを整理する警察が入り乱れていた


「君は確か松井さん!」


振り返ると以前珠理奈が勾留されていた時に話をした警察の佐藤がいた…


「あの佐藤さんこれは・・・」


「あなたの証言も重要な証言になりました、ご協力感謝します」


「私の証言…?」


「ちょうどこれからあなたに連絡しようと思っていたんです、少しお話し出来ますか?」


「あっ…私は大丈夫ですけど…向田さん」


「私はあの・・・明音ちゃんが心配なので失礼します」


そう言うと茉夏は人だかりの中に消えていった


「今回の事で被害者と言えばあなただけじゃない、この町の人全てが被害者と言ってもいいぐらいなんです」


「この町の人全て・・・」


「この町を覆う数十年に渡る闇です、全ては高柳兼蔵から始まりました、少し場所を変えましょうか」

69: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:26:29.62 ID:L01tiIIq0
私たちはこないだの喫茶店へ移動した


「まず先日の秦佐和子さん殺害、それを指示したのは高柳謙蔵です、今回その容疑で彼を逮捕しました」


私は驚きに一瞬息の仕方をさえ忘れた…


「順を追って話しますね、秦佐和子と恋人関係にあった古川愛李、彼女は秦佐和子の度重なる女遊びに腹を立て殺害を企てる
それを高柳明音に相談、高柳明音は祖父、高柳謙蔵に話を持ちかける、そして高柳謙蔵の指示でチンピラ数人が秦佐和子を拉致、殺害の後崖から落とした、そして発見され、松井珠理奈さんが逮捕されます」


「そこでどうして関係のない珠理奈が逮捕されたんですか!?」


「それも高柳謙蔵の指示です」


「指示っていったい誰に…」


「坂江署署長金子とその部下戸賀崎です」


「まさかそんな事!警察が一人の市民の指示で無実の人を逮捕するなんて」


「それが出来るのが高柳謙蔵でありこの町なんです」


「なんて事・・・」


「話を戻しますね、秦佐和子殺害から発見までの間に高柳明音はあなた、松井玲奈さんの事を考えます」


「私の事を…」


「自分と付き合っていたはずの松井珠理奈さんがあなたと親しい間柄にあると知った高柳明音は二人の中を壊そうと考えます
最初は軽い嫌がらせだったでしょう、それでも離れない二人を見て高柳明音は珠理奈さんを殺人犯に仕立てようと考え高柳謙蔵に依頼
同時にあなたの家を襲撃するようにもと、そうやって自分の力を見せつけ珠理奈さんにこう持ちかけます」


佐藤はいいですね?と言いたげな目で玲奈を見ると続けた


「玲奈さんと別れれば釈放する、拒否すれば玲奈さんに更に嫌がらせをする、珠理奈さんの代わりに牢屋に入れてもいいと」



「まさか、だから…」


「それからの事は松井さんの知ってる通りでしょう」

70: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:27:32.57 ID:L01tiIIq0
「そうだったんですね、でもこの話を誰から…?」


「部下の芝が先程珠理奈さんに話を聞き連絡がありました、今こちらに向かっているところです」


「そうですか…ありがとうございます」


テーブルにぼたぼたと水滴が落ちてからそれが涙と気付いた


今まで流した涙とは全く違う


珠理奈がどんな思いでいたのか、それを思うとメソメソしてた自分が嫌になった





佐藤さんはハンカチを出し私が落ち着くのを待ち


「もっと早く逮捕出来ていればあなた達がこんなに傷付く事は無かった」


佐藤は申し訳ないと頭を下げた


「何年も前から本庁では高柳謙蔵と金子署長の捜査はしていました、現役の警察署長の容疑です、慎重に進めなければならなかったんです
始めは高柳謙二氏からの告発だったんです、彼は自分の父親や会社の事よりも真実を選びました、高柳謙蔵が今まで行ってきた事、金子を署長にしたのも彼の手引きでした
いったいどれだけの事実が隠蔽されてきたか…間もなく金子署長並びに関わっていると見られる署員も逮捕されます、本格的な捜査はそれからになりますが」


「あの・・・高柳さんは・・・?」


「高柳明音も重要参考人として連行する予定ですが・・・どうやら捜査されているのを感じたのか、行方が分からないんです、どこか心当たりありますか?」


「いえ…私は彼女の事は何も・・・」


「そうですよね…」

71: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:28:09.11 ID:L01tiIIq0
チリンチリンと鈴の音がなる


「佐藤さん、お待たせしました」


「玲奈!」


芝を追い抜き珠理奈が駆け寄る


「珠理奈!ごめんね、私何もしらなくて、それなのに珠理奈は悪くないのに一方的に!」

「違うよ!悪いのは私!私が始めからしっかりしてれば、ごめんね」


珠理奈は泣きじゃくる玲奈の頬を両手で包み込むようにし親指で涙を拭いた


冷静に、時折言葉を震わせながら、まるで子供をあやす母親のように優しく語りかけた




「それで、佐藤さん、高柳明音の方は…」


佐藤は無言で首を横に振った





珠理奈の体を通してその振動は伝わってきた…


「珠理奈携帯鳴ってる!」


珠理奈は携帯を取りだし表情を変えぬままそれを佐藤に手渡した





【もうすべておわりです




さわことおなじところへいきます




さようなら】

72: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:30:11.94 ID:L01tiIIq0
最終章~片想いFinally~


no title

73: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:30:54.78 ID:L01tiIIq0
私達は芝さんの車であの崖に向かっていた



メールにあった


【さわことおなじところ】


おそらく明音は佐和子さんが発見された崖にいる、そう思ったからだ…


車なら10分程で着く


佐藤さんが応援を呼んでいたが私達が一番早いだろう


私はその時ただ間に合って欲しいと祈るだけだった…





この崖はいつも同じ姿をしている


しかしそこから下を見れば一度として同じ姿を見せない荒れ狂う波が打ちつけている


私には同じに見えるこの崖も、きっと長い年月をかけカタチを変え生きてきたんだろう





「佐和子ごめんね…痛かったよね…まさか殺すなんて思わなかった…本当は怖かった…でもそんなの許されないよね…私もすぐそっちに行くから…謝りに行くから…」





明音はゆっくりと目を閉じた





目に溜めた涙が押し出され頬を伝う

74: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:32:02.35 ID:L01tiIIq0
「明音!!」


珠理奈はまだ車が止まりきる前に扉を明け飛び降りた


私も必死に珠理奈の背中を追った


私が珠理奈に追い付いた時


明音はまだここにいてくれた



「来ないで!」


「明音駄目だ!こっちに来い!」



「嫌っ!もう全部終わりなの!私が全部悪いの!佐和子に謝りに行かなきゃいけないの!」


「違う!佐和子がそんな事望む訳がない!」


「もういいの!私なんて生きてたって意味ないの!パパだって私が憎いのよ!私は誰にも必要とされないの!
でも、珠理奈だけは…珠理奈だけは違うはずだった…私のこの傷だらけの身体を愛してくれたのは珠理奈だけだったのに…」



私はただ二人の事を見ている事しか出来なかった、佐藤さんや芝さんも同じだったと思う




「珠理奈だけは…私のこの痣や傷だらけの身体でも優しく包み込んでくれた…
他の子は皆目を背けたり同情の目をしたわ…それでも皆私のお金や力が欲しかったから平静を装ってた…
でも珠理奈だけは何の見返りも求めず側にいてくれたわ…なのにどうして…行っちゃったの、私を一人にしたの…?」



珠理奈は何も言えなかった…明音の思いを初めて聞いた…いや、きっと今までずっと明音は伝えてたはずだった


気付いてやれなかったんじゃない、気付こうともしなかったんだ


激しい後悔

自分が正しい事をしてきたなんて思ってない


けど


ここまで他人の心に自分がいたなんて思ってなかった

75: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:32:40.36 ID:L01tiIIq0
玲奈に会い自分が変わったように


明音も自分に会い変われるはずだった




「ごめん、明音ごめん」




「いいの謝らなくて…もう分かってるから」





明音はこちらを向いたまま二三歩後ずさりした





珠理奈が叫んでる





私は声を出す事も出来ずただ視界を邪魔する涙の中、明音を見失わないようにした





明音の身体がゆっくり傾く




佐藤さんと芝さんが走り出すのが見えた





間に合わないと思った…




その時




明音の身体を何かが包み込み、そのまま倒れ込んだ

76: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:33:39.10 ID:L01tiIIq0
「明音ちゃん駄目だよそんな事しちゃ、明音ちゃんがいなくちゃ嫌だよ!」




「まなつ・・・?」




「私がいるよ、ずっと私がいる、どんな時も側にいる!今までずっとそうだったじゃない!だからどこにもいかないで!!私には明音ちゃんしかいないの!私を一人にしないで」





「まなつぅ…まなつぅうう」





明音が珠理奈にあてたメールと同じ物が茉夏にも届いていた



茉夏もまたすぐにここだと分かり近くの警察官と共に向かっていた



明音を止めた際怪我をした茉夏も一緒にパトカーに乗り二人は行った・・・

77: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:35:02.00 ID:L01tiIIq0
車を見送る玲奈と珠理奈、クレーンは高く上がり斜め上から二人を撮る





「カーーートッ!オッケェーイ!!」





男の声が響き渡る



明音と茉夏を乗せた車と玲奈達の対角線上にいたスタッフ達が散らばりながらザワザワと騒がしくなる



車はすぐ止まり、明音と茉夏が笑顔で降りてくる


若い男「これで高柳明音さん向田茉夏さんはオールアップとなります!」


「ありがとうございましたー」


「おつかれさまー」


十数人の声が行き交う


女性スタッフが花束を二人に手渡す


若い男「ここで一旦休憩に入ります、再開は30分後に!」


ハンディーカメラを持つ男「高柳さんと向田さんこちらでコメントいいですか?」

明音「何のコメントですか?」

ハンディーカメラの男「Blu-ray用のメイキング映像になります、ファンの方にコメントお願いします、まず高柳さんから」


明音「はい!いいですか?えー今回は劇場版片想いFinallyを観て下さって本当にありがとうございます
ファンの方にも非常に人気があり、私も大好きな片想いFinallyがこうやって映画になったのも、ファンの皆さんのおかげです!ありがとうございます
撮影は本当に大変だったんですけど皆さんの期待に答えられ…



珠理奈「玲奈ちゃん!ちょっといい?」


スタッフと談笑しながらストロー付きのペットボトルの水を飲む玲奈

玲奈「な~に~?珠理奈」

78: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:35:50.46 ID:L01tiIIq0
珠理奈「ちょっと」


珠理奈は強引に玲奈の手を引っ張り、出演者用更衣室に入った


夕陽が上部にある窓から入り部屋を赤く染めている


珠理奈は電気もつけず、玲奈の身体を壁に押しあてると強引にキスをした


玲奈「どうしたの珠理奈・・・」


珠理奈「我慢出来なかった」


玲奈「誰かきたらどうするの…?」


珠理奈は何も言わず何度も唇を重ね合わせた

79: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:36:22.79 ID:L01tiIIq0
誰も知らない




私達がSKEのとしてやってきた4年間




W松井として常に総選挙や握手会、選抜として比べられ競わされ



どうしようもない重圧と孤独の中で二人に生まれた感情





誰にも言えない





二人の片想いはもうとっくに終わっている事を…





玲奈「私にはキスだってしなかったのに…」




珠理奈はクスッと笑うとまた玲奈を抱き寄せた





小説片想いFinally






80: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:37:52.35 ID:dVMZrkmL0
>>1お疲れ様!

最後はモウソウ刑事みたいな終わりでしたな!

なにがともあれハッピーエンド!

88: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 13:45:13.53 ID:DqY35d6U0
片φのPVを思い出しながらよんでたけど
凄い読みやすかったわ

乙!

89: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 14:03:56.68 ID:dVMZrkmL0
所々歌詞入ってたしな

92: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 15:14:32.22 ID:nGqP0QZs0
乙!
不覚にも、「まなつぅうう」で笑ってしまったw

93: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:18:03.85 ID:xsl5Ws8i0
おもろかったお!

95: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 16:27:49.52 ID:0tZx++9j0
くだらんネタスレかと思って開いたら普通に良作だった
作者さんおつです

96: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 17:12:51.66 ID:SRn3ziNTO
>>1
面白かったよ!
投稿早いし読みやすかった

でもあと900レス余ってるし…
他の話も頼むわ

81: 名無しさん@実況は禁止です 2013/03/16(土) 05:41:23.84 ID:L01tiIIq0
代理うpでしたが、お付き合いありがとうございました!

寝ますw

引用元: 【妄想】片想いFinally【小説】



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