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575 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:41:21.87 ID:qAhU43P/0
一方その頃、小森は――。

小森「…やっ!!」

窓の外の人物と目が合った。
小森が気付いた時にはもう手遅れで、甲高い音とともに窓ガラスは割れ、外から覆面隊員が飛びこんでくる。
小森は最初に飛びこんできた隊員にがっちりと腕を取られ、声を発する間もなく後ろ手に拘束された。
そうしているうちにも、屋上から垂らしたワイヤーをつたい、その揺れを利用して次々と覆面隊員達は室内に侵入してくる。
メンバーは高橋を守るように後退し、壁際に追い詰められた。

小森「助けてください。やだ、痛いよ…くぅーん…」

捕獲された小森が泣き声を洩らすが、今は下手に動けない。
先ほど岩田がドアを固めてしまったため、逃げ道がないのだ。

覆面隊員「全員は…揃ってないみたいだな。まあいい。おとなしくしろ!」

峯岸「やだ!!」

覆面隊員の言葉に、峯岸は間髪入れずに怒鳴った。

高橋「みぃちゃん…」

峯岸「みんなさっき決めたじゃん。戦おうって。弱気になっちゃ駄目だよ」

峯岸がメンバーに視線を走らせる。
と同時に、中塚が一歩前に歩み出た。

中塚「行きます!」

中塚が砂時計を返す。
と、覆面隊員の動きは緩やかになった。
河西と近野が飛び出し、小森を救出に走る。


576 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:42:13.57 ID:qAhU43P/0
中塚「今のうちに決めてください。どうしますか?この砂が落ちきれば、またあいつらはもとのスピードの戻ってしまいます」

中塚が焦る。

峯岸「もちろん戦うに決まってるじゃん。ね?」

内田「はい!田野ちゃん、準備はいい?」

内田がハンマーを構える。
田野は慌ててグローブを嵌め直した。

田野「大丈夫です。内田さんが出した岩を、あの人達に投げればいいんですよね?」

高橋「ちょっ、致命傷になるような真似はしちゃ駄目だよ」

河西「こもりん連れて来たよー」

小森「怖かったよぉ、くぅーん…」

仲谷「よしよし」

泣きじゃくる小森の頭を、仲谷が背伸びして撫でてやる。

大場「あたしはなんとかドアが壊せないかやってみます」

岩田「すみません、なんかあたし余計なことしちゃったみたいで…」

大場「いいから」

中塚「やばい、そろそろ砂が落ちきります。みなさん、準備はいいですか?」

中塚が合図して間もなく、覆面隊員は場面が切り替わったように動き出した。
一斉に銃を構える。
そこへ投げられる岩。


577 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:42:52.90 ID:qAhU43P/0
覆面隊員「うわっ!」

少々大袈裟な動作で、覆面隊員が転がる。
内田は一心不乱にハンマーを振るった。
田野は内田の岩を軽々と投げてみせる。
その間に大場は入り口へと走り、ヴォイドをドアに突き立てた。
木製の扉はメリメリと音を立てたが、まだ逃げ道としては充分でない。
岩田のヴォイドによって硬化させられているので、少しの攻撃では破壊できないのだ。

覆面隊員「……」

大場がひとり苦戦しているうちに、覆面隊員は要領を覚えてしまった。
投げつけられる岩を避けながら、レーザー銃を放つ。

仲谷「キャッ…」

それは仲谷の横すれすれを通って、背後にあった机を焼き切った。
仲谷が硬直する。

河西「負けちゃ駄目だよ」

戦慄の表情を浮かべる仲谷に、河西が走り寄った。

河西「あたし達もうっちー達の手助けしなきゃ」

仲谷「でも…どうやって…」

戸惑う仲谷に、河西が耳打ちする。
それは伝言ゲームのようにメンバーに伝わり、すぐに整列が出来上がった。


578 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:43:36.00 ID:qAhU43P/0
河西「いくよ、せーのっ!」

河西が掛け声をかける。
メンバーがそれぞれ運んできた椅子や机が、球体へと変化した。
勢いをつけて、それを覆面部隊目掛け転がす。
一つではただの球体でも、横一列に揃って転がれば、相手を圧倒させるに充分の威力を放っていた。
今度は覆面隊員のほうが壁際に追いやられる。
この機を逃すまいと、河西は立て続けに球体を転がすよう指示した。
しかし、その数は最初から限られている。
いつしか球体に変えられるような家具類はなくなり、後は内田の岩のみが頼りとなった。

田野「うわぇぇぇぃっ!…ハァ…ハァ…」

だが、田野はもう限界が近い。
ヴォイドの力で怪力になっているだけで、体力は普通の女の子並なのだ。

内田「田野ちゃん、大丈夫?」

田野「へ、平気です。まだまだいけます…」

強がりを言う田野だが、額には無数の汗粒が浮かび、息が荒い。
もう覆面部隊側の壁には田野が投げた岩が天井近くまで積みあがっていた。
それだけの数を投げ続けていれば、体が悲鳴を上げるはずである。


579 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:44:44.19 ID:qAhU43P/0
大場「……くっ…」

一方メンバーが覆面隊員を食い止める傍で、大場はひたすら扉を破ろうと動いていた。
何度もヴォイドを握りしめるうち、手の平の皮は破れ、血が滲む。
それでも大場は、動くことをやめなかった。

――あたしは強いヴォイドを持ってることに満足して、その次のステップに進もうとしていなかった。優れたヴォイドを持っていても、それを使う人間が無能なら、なんの意味もない。

――あたしは…あたしは…変わるんだ!みんなのために、自分のために、もっと上を目指して。恰好悪くてもいい、泥臭くてもいい。なりふりなんて構ってられるか!

いつも涼しい顔で相手を分析してり、他人のミスを指摘する大場はもういない。
ここにいる大場は、がむしゃらに生きることだけを考える、本当の意味での美少女。

――生き残る。そしてあたしは、みんなのために出ていったあの子にまた会って、今までの暴言を謝らなきゃいけないんだ。

大場「うわぁぁぁぁ…」

信念を持って放ったヴォイドが、ついに扉を破壊する。
と同時に、廊下から大家と亜美が飛びこんできた。

大家「何が起きてるの…?」

室内の状態を見渡し、大家は呆然とした表情で言った。

大場「みなさん、ドアが開きました!」

大場が叫ぶ。
振り返った峯岸の目に、最初に飛び込んできたのは、開いたドアよりも、その傍に立つ大家。
大家の手には彼女のヴォイドである鎖が握られている。
その瞬間、峯岸は頭に電流が走ったような衝撃を覚えた。

――これだ…。

気がついたと同時に、大家に向かって叫んだ。


580 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:45:19.18 ID:qAhU43P/0
峯岸「しーちゃん!あいつらに向かって鎖を投げて!」

峯岸の声に、大家はわけもわからず従った。
考えている余裕などなかったのだ。

大家「お、おう…」

高橋「みぃちゃん何するの!」

峯岸「…くっ…」

大家の鎖が鋭い音を立てて覆面部隊に向かう。
その時を見計らって、峯岸はヴォイドを構えた。

覆面部隊「ぎぃぃぃっ…」

覆面隊員達は、断末魔の声を上げ、もがいた。
互いに肩をぶつけながら、ぐいぐいと小さくまとまっていく。
その体には大家の鎖が食いこんでいた。

高橋「そんな…」

すべてを目撃していた高橋が、驚きの声を洩らす。
内田と田野も攻撃の手を止め、呆然と事の成り行きを見守った。

覆面隊員「く、苦しい…」

そうして覆面隊員達は鎖に拘束された。
その痛みから、ばたばたとレーザー銃を取り落とす。
まだ銃を構えようとしている者も、きつい鎖に、身動きがとれないでいた。


581 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:45:56.38 ID:qAhU43P/0
大家「そういうことか…」

大家は先ほどの峯岸の言葉にようやく合点がいった様子で、うんうんと頷いてみせた。

大家「うちの鎖をみぃちゃんのヴォイドで伸長させ、覆面隊員を一つに拘束する」

峯岸「良かった、うまくいって…」

峯岸はほっとして、肩の力を抜いた。

高橋「でも、これからどうするの…?」

高橋がおそるおそる尋ねた。

大家「そうだ、うちのヴォイドずっとこのままにしとくの?」

峯岸「あ、そこまでは考えてなかった…」

片山「それなら片山のヴォイドが使えそうですよ」

高橋「え?」

困惑する大家に、片山は片目を瞑ってみせた。
ヴォイド――懐中時計――を取り出すと、何やら針を操作しながら、拘束された覆面部隊の周りをてくてくと歩く。
一周したところで、ぱたりと時計を閉じた。


582 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:46:46.91 ID:qAhU43P/0
片山「あ、これでたぶん大丈夫です。とりあえず部屋から出ましょう」

片山が自信たっぷりに言う。
メンバーは半信半疑のまま、だがここは片山の言葉を信じて、廊下に出ることにした。
峯岸に支えられた高橋が扉をくぐり、次に大家が脱出する。
最後の出た片山は、そこで大家にヴォイドを回収するよう言った。

大家「え、でも…そうしたらまたあいつらが自由になっちゃうけん…」

片山「平気平気」

片山は安心感のある笑顔を浮かべた。
それからキッと表情を一変させ、覆面部隊を睨みつける。

片山「さっき片山が何してたかわかる?あなた達の立ってる周り全部、時間を経過させておいたから」

片山「そこから一歩でも動けば、朽ち果てた床が抜け、あなた達は真っ逆さまに落下する。運が悪ければ首の骨を骨折…なんてね。だからお願い、そこから動かないでね。命がおしいなら」

片山の言葉に、覆面部隊は震え上がった。

片山「ね?だから大丈夫だって言ったでしょ?」

片山は再び大家へ顔を向けると、にっこりと笑った。

大家「はーちゃん、あんた鬼だね」


583 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:47:35.37 ID:qAhU43P/0
一方その頃、前田は――。

前田「麻里子!」

宮澤達を送り出し、いまだ2階を捜索し続ける前田達の前に、秋元が現れた。
秋元の隣には篠田。
前田達は喜びの声を上げた。

篠田「才加達が助けてくれて。それに、ほら…」

篠田はひとしきり前田達との再会を喜ぶと、意味ありげに秋元を指差した。

前田「え?才加がどうしたの…?」

前田が首をかしげる。
秋元はにやにやと笑いながら、道を開けるかのように、体を捻った。
すると、秋元に背後に隠されていたメンバー達の顔がひょっこりと覗く。

永尾「鈴蘭!」

仲川「あ、なつみぃだぁー」

佐藤亜「みゃお!まりやんぬ!」

前田「みんな助かったんだね、良かった」

秋元と珠理奈、篠田は前田と合流する以前に、松原、宮崎、鈴木まりや、山内が監禁されている場所を探り当て、救出していた。
4人はそれぞれ、階段を上がったすぐ近くに閉じこめられていたのだった。

秋元「後は佐江と陽菜、もっちぃ…えーっとそれから…」

前田「佐江ちゃん達はもう救出されたよ。ともちんと萌乃ちゃんと、すーちゃん」

秋元「あ、ほんとだともちんいる。てことは後は陽菜ともっちぃとれいにゃんか」

松井珠「そして、玲奈ちゃん…」

島田「ぱるるもです」


584 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:48:09.14 ID:qAhU43P/0
篠田「残りは5人…てことになるのかな」

篠田は一瞬考えて、そう言った。
渡辺が人数に入っていないことに、柏木は心を痛める。
柏木の中ではまだ、渡辺はメンバーの一員だった。
もし再会したなら、その時は全力で説得するつもりだ。

篠田「あっちゃん、それで…あたし達のヴォイドを…」

前田「うん、わかった」

そうしてヴォイドを取り出された篠田達は、外で戦う田名部や梅田、菊地に合流するため、脱出していった。

秋元「これからどうする?あっちゃん」

秋元が尋ねる。

松井珠「2階はどうですか?」

前田「この階はもう探し尽くしたけど、誰もいなかった。出会うのは覆面隊員ばっかり」

秋元「廊下で失神してる奴らが結構いたけど、もしかしてあっちゃん達がやったの?」

前田「ごんちゃんとわさみんがね」

松井珠「すごいです!」

秋元「じゃあ残るは3階と最上階…」

前田「うん」

秋元「よし、行こう」

こうして秋元と珠理奈が合流したことで、さらに大人数となった前田達は、3階を目指し階段を駆け上がった。
果たして残るメンバーはどこにいるのか――。


585 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:53:30.24 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、高城は――。

高城「すごい数だなー」

前田に言われアジトを飛び出した高城は、休まず飛び続け、群れとなって移動するロボットを上空から観察していた。
ロボット達は、間違いなくメンバーのいる中学校へと向かっている。

高城「さっきはヘリコプターの音も聞こえたし、みんな大丈夫かな…」

高城の胸に不安がつのる。
中学校はもう近い。
早くみんなにロボットのことを知らせなければ。
ラストスパートとばかりにスピードを上げた。
と、そこで高城の頭に一つの疑問が浮かぶ。

――あれ?なんかおかしい…。

高城「なんでレジスタンスさんは、みんなが中学校にいることを知ってるんだろう…」

そう、ロボットの進む方向からして、レジスタンスはメンバーが中学校に潜んでいることを知っている可能性が高い。
だとしたらなぜそんなことをレジスタンスが知りえたのか。
確かに以前にも、中学校をロボットに襲われたことがあった。
しかしあれは偶然見つかってしまったと考えていいだろう。
ロボットに遭遇するのは中学校からさほど距離が離れていない地点が多かったので、発見されるのは時間の問題だったからだ。
そしてその時は、みんなで協力し、ロボットを全滅させたのである。
念には念を入れて、壊れたロボットは中学校から離れた場所まで仲川が吹き飛ばしておいた。
レジスタンスが中学校のことに気付く要因はなかったはずである。
それなのに今回のロボット軍は、迷いなく中学校を目指している。


586 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 07:54:52.99 ID:bJeVS0wMO
――変だな…。

だがそれ以上の思考は、高城の脳の限界であった。
深く考えず、中学校へ向け飛び進める。
ロボットのスピードは、高城よりも遅い。
軽く飛び越えて、ようやく中学校が視界に入った。
だが高城は、みんなのいる校舎をも飛び越え、さらに先へと進んでしまう。

高城「みんなが避難できる隠れ場所も探しておかないと」

そうして、倒壊をまぬがれた大きな建物を発見する。
この距離であれば、メンバーが走って移動出来そうだ。
高城が発見した建物。
それは初日に柏木と渡辺らが避難した小学校であった。

高城「急ごう。でないとロボットに追いつかれちゃう」

小学校を一回りした高城は、今度こそメンバーに危険を知らせようと、中学校に向かった。


604 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:29:38.80 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、北原は――。

北原「……」

侵入してきた覆面部隊を抑え、無事を確保したメンバーを今度、体育館へと集まっていた。
この生活の間、何かあるたびにみんなでここへ集まり、様々な意見が飛び交った体育館。
だが、北原はそこに居心地を悪さを感じて、こっそり抜け出していた。
あてもなく、校舎内を徘徊する。
校内のあちこちに、みんなが頑張って戦った爪痕が残されていた。
今の北原には、それが勲章のように見える。

――みんなはそれぞれ自分のヴォイドを使い、この戦争に貢献してる。それに比べてあたしは…。

元来ネガティブな北原は、すっかり自信をなくし、自分を蚊帳の外だと錯覚していた。

――後輩ですらみんなの役に立ってるのに、あたし、何やってんだろう。自分が情けない…。

ともに戦ったメンバーは今、体育館で互いを労わり、賞賛し合い、和気藹々とした空気に包まれいる。
その中に自分も身を置くことが、とんでもなく図々しい行為に思えた。

――あたしはみんなと一緒にあそこで過ごす資格ないよ…。

北原の謙虚さは時に、残酷なほど自身を追い詰める材料となるのだった。
あてもなく歩き、昇降口までやって来る。


605 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:31:24.25 ID:bJeVS0wMO
北原「あれ…?」

そこでは中田、夏希、紫帆里、阿部、朱里の5人が呆然と座りこみ、外を眺めていた。

北原「何してる?あ、ロボットは?」

北原が問いかけると、紫帆里は黙って前方を指差した。
そちらへ視線を向ける。
多田がふらふらになりながら、巨大な旗を振っていた。

北原「らぶたんは…何してるんですか?」

そうして北原は、夏希からすべてを聞かされた。
多田の考えた作戦の全貌。
その結果、多田は今命がけでロボットを防いでいるということ。

北原「そんな…」

北原の顔色が、そして唇の色までもが青ざめる。

北原「ずっとああしているなんて無理ですよ」

佐藤夏希「仕方ないんだよ。らぶたんがあたし達を救ってくれた。あたし達は戦闘タイプのヴォイドを持っていながら、たった1本の旗しか持たないらぶたんに救われて今ここにいるんだよ。全部出し尽くしたんだ。らぶたんにここまでされたら、もう手出し出来ない」

中田「せめてあの数のロボットと対等に戦えるくらいの戦闘タイプヴォイドがここに集まっていれば…」

中田が祈るように天を仰ぎ見た。
それはやはり、一緒に戦った者だけが出来る行為だった。
戦いもしない自分が、口出しするのもおこがましい。
北原はため息をつき、そっとその場を離れた。
とぼとぼと歩き回り、いつしか校舎の裏手まで出てしまう。


607 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:33:18.37 ID:bJeVS0wMO
北原「あ…」

そこで北原はある物を見つけた。
脳裏にはぼろぼろになりながら旗を振り続ける、多田の姿があった。

――見つけた。らぶたんを…みんなを救える方法…。

だが、それには4人のメンバーの手助けがいる。
北原はその場に座りこみ、しばらくの間考えを巡らせた。
ふいに、空が翳る。

――そういえば雨が降りそうだったな…。

ふいと顔を上げた。
だが、頭上にあったのは雨雲ではなく――。

北原「あきちゃ!」

驚く北原の前に、高城が着地する。

高城「里英ちゃん、大変なの!」


608 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:34:27.63 ID:bJeVS0wMO
北原「どうしたの?あっちゃん達と一緒にレジスタンスのとこに行ったはずじゃ…」

高城「行ったよ。行ったけど、ロボットの大軍が出て行くのが見えて、観察してたの。今、見たこともないほど大勢のロボットがこっちに向かってる。向こうに小学校があるから、みんなはそこに避難して。ここに居たら危ないよ」

北原「…わかった」

高城「急いでね。もうロボットはすぐそこだ。走って移動しないと」

北原「……」

高城「たかみなさん達はどこかな?みんなにもこのこと教えないと…」

北原「大丈夫、みんなにはあたしから伝えるよ。あきちゃはもう行っていいよ」

高城「え、でも…」

北原「たかみなさんはあたしが背負って移動させるし、平気だよ」

高城「……」

高城は、それからも心配でその場にとどまろうとした。
だが最後には北原に押し切られる形で、納得する。
空へと戻る。
飛び去る際、ちらりと北原を盗み見た。
北原は決意に満ちた表情で、体育館へと走っていく。


611 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:36:28.53 ID:qAhU43P/0
一方その頃、田名部達は――。

田名部「なんかもう…キリがないような…」

梅田「それにロボット数、どんどん増えていってない?」

菊地「あ、やっぱりそうなんですか?あたしの勘違いかと思ってた」

アジトの外で戦う3人は、互いをサポートし合いながらロボットに立ち向かっていた。
だがここへ来て、数を増したロボットに対処しきれなくなっている。
3人の知らぬところでロボットは着々と勢力を増大させていたのだった。

梅田「3人でかたまっていたほうがいいかもね。背後まで注意してる余裕ないかも」

菊地「はい」

そうして3人は互いに背中を預ける形で、三角形を作った。
一方では梅田が向かってきたロボットに爪を立て、一方では田名部が機体に打撃痕を残す。
そしてもう一方で菊地は鎌を投げ、遠距離戦を仕掛けていた。
完成された体制。
だがそれはこの戦いにおいて、付け焼き刃でしなかった。
三角形が崩されたのは、一瞬の出来事。
3人はバラバラに地面を転がる。
何が起きたのか。

田名部「手榴弾…」

新たに戦闘の輪へ加わったロボットの中に、レーザー銃以外の戦力を持つタイプのものが含まれていたのだ。
早めに気付いて回避したはいいが、3人の距離は離れてしまった。
これを好機とみたのか、間髪入れずに残りのロボット達が襲いかかって来る。


612 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:37:12.53 ID:qAhU43P/0
菊地「やだもう来ないでよ!来ないで気持ち悪い!」

間近に迫ったロボットに気付いた菊地は、持ち前の運動神経を駆使し飛び上がりながらその身を起こした。
着地と同時に体を回転させ、鎌を振るう。
ロボットをなぎ倒す。
巻き上がる砂埃と疾風。

菊地「やった!」

その直後、背後で聞き慣れない音が響いた。

――え…?

ぎくりと肩を強張らせれ菊地。
希望を打ち砕くに等しい機械音。
振り向いた菊地が目にしたのは、腕をミサイル型に改造されたロボットだった。

――嘘、こんなタイプの奴今までいなかったのに…。

菊地の頭はパニックになった。
鎌を投げようとする手が震える。
未知のロボット。
これまでに体験したことのない恐怖が、菊地の体を支配する。
とにかく落ち着いて。
相手の隙を見つけて攻撃すれば大丈夫。
頭の片隅ではそんな声も上がったが、うまく考えがまとまらない。
いや、考えることすら出来ない。
そして無情にも、小型ミサイルが発射される。

菊地「キャァァァァァァ…!!」

金切り声を上げる菊地。
と、視界の隅にしゃぼん玉が映った。
それは菊地へ向かう小型ミサイルを次々と包みこみ、この場に似合わぬふわふわとした呑気さで宙を漂う。


613 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:37:52.30 ID:qAhU43P/0
菊地「え…」

宮崎「今のうち!下がって!」

見れば菊地のすぐ傍、ヴォイドを構えた宮崎が、真剣な顔で怒鳴っている。

菊地「どうして…」

宮崎「いいから下がったらすぐに攻撃!撃たれることは考えないでいいよ。あたしが全力で防ぐから。あやりんは自由に動いて!」

宮崎に言われ、菊地は後退した。
誰かの肩とぶつかる。

松原「おっと…」

菊地「なっつみぃさん!!」

菊地にぶつかられた松原が、にやりと笑みを洩らす。

松原「どうやらみんな無事だったみたいね。良かった」

菊地「あの、あたし…」

松原「援護するよ。あたしも遠距離戦タイプのヴォイドだから」

松原はそう言って、手裏剣を菊地に見せた。

松原「出来るよね?」

菊地「あたし…あたし…出来ます!やります!」

松原「よし!行けぇぇぇぇぇ…」

松原の掛け声に合わせ、菊地はヴォイドを放った。


614 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:38:26.68 ID:qAhU43P/0
一方、梅田は――。

梅田「う、うぅ…」

手榴弾の衝撃を避けるため地面を転がった梅田は、痛む体を必死に奮い立たせていた。
その隙にロボット達は梅田を取り囲む。

梅田「……」

四方を塞がれ、菊地は途方に暮れた。
だがその時、聞き覚えのある声とともに、2人のメンバーが走り寄ってくる。
梅田を囲むロボットをなぎ倒し、スッと背中を預けた。
ちょうど先ほど田名部達と作っていた三角形の体勢が、再び出来上がる。

仁藤「大丈夫でしたか?」

梅田の右後方で、仁藤の声がした。

佐藤す「も、もう大丈夫ですよ。たぶん…いえ、平気です」

左方向ではすみれの声。

梅田「2人とも…」

じんと背中が熱い。
再び感じる人の温もり。
メンバーがいるということ。
今まで当たり前だと思っていたことが、こんなにも尊いと、初めて気付いた。

仁藤「一気に攻撃をしかけて隙を作ります。そこから一目散に逃げましょう。なるべくこのロボットの輪からは離れたほうがいいです」

梅田「何を企んでるの…?」

梅田が不安げな声を洩らす。

佐藤す「し、信じましょう」

すみれが言った。


615 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:39:07.64 ID:qAhU43P/0
佐藤す「いっせーの…」

ダッと地面を蹴る音がして、仁藤がロボットに切りかかる。
梅田は猫手をロボットの機体に突き立てた。
すみれは轟音とともに、ハリセンを振るう。
それから後は夢中で走った。
3人の攻撃で、ロボットの包囲に穴ができる。
そこから抜けて、後ろを振り返ることなく、ひたすら走って走って――。

梅田「…はぁ…は…」

背後でぐしゃりと何かをねじ曲げるような音が聞こえた。
その僅か前には、頭上を飛ぶ鉄網の陰を梅田は見た。
終わったのだと悟る。
そして膝をつき、呼吸を整える梅田のもとに、篠田がゆったりとした仕草で歩み寄ってきた。

篠田「おつかれ」

当たり前のように言う篠田。
いつもの涼しい顔。

梅田「ロ、ロボットは…」

篠田「とりあえず梅ちゃんの周りに集まっていた奴は、全部まとめて潰したよ」

梅田「あ、ありがとう…。あ、萌乃ちゃんとすーちゃん…」

篠田「2人ならほら…あっちに…」

篠田が指差す方向に視線を向けると、仁藤とすみれが両手を振っていた。


616 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:39:38.54 ID:qAhU43P/0
篠田「萌乃ちゃんには作戦を話しておいたから。3人とも逃げ切れて良かった」

篠田はそう言うと、ロボットを潰したばかりの鉄網を回収する。
久々に使うヴォイドの感覚。

梅田「あ、たなみんと菊地が…」

篠田「平気。たなみんはまりやんぬと鈴蘭ちゃんが援護してるし、あやりんのとこにはなっつみぃとみゃおが行ってるから」

梅田「良かった。みんな…アジトから救出されたんだね」

篠田「うん、まだ何人かは監禁されたままだけど、この調子ならすぐまた全員が揃えるよ」

篠田の言葉に、梅田はほっと息を洩らし、周囲の様子を眺めた。
田名部グループ、菊地グループともに、対峙したロボット達を無事破壊し終えたようだ。

梅田「とりあえずここは安心、かな?」

だが、梅田の声に被さる形で、篠田が指摘した。

篠田「そうでもないみたい」

梅田「え?」

篠田はいつものように親指と人差し指で丸を作ると、それを目元に当てた。
そうして遠くを確認しているようだ。

梅田「何を見てるの?」

梅田が尋ねる。

篠田「すごい大群…ロボットだけじゃない、覆面部隊もいる。こっちに押し寄せて来るよ」


617 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:40:10.76 ID:qAhU43P/0
一方その頃、高城は――。

高城「なんか嫌な予感がするな…」

ロボット軍が中学校へ向かっていることを北原に報告し、高城は再びレジスタンスのアジトへと急いでいた。
ふと見下ろせば、荒らされた土地が広がる。
なぎ倒された瓦礫と、えぐれた地面。
そこにはロボットが通った痕が生々しく残されていた。

――とりあえずみんな小学校に移動してくれれば、時間稼ぎにはなるし、向こうに戻ったら誰か戦闘タイプのヴォイドの子を助っ人として亜樹が連れて行けばいいかな。

中学校にいるメンバーだけであの数のロボットを相手にするのは無理がある。
それくらい高城でもわかっていた。
だから早くアジトに戻り、誰かの助けを呼ばなければならない。
高城は焦る気持ちを抑え、ひたすら飛び続けた。
だが焦りはいつしか、妙な胸騒ぎへと変化する。

高城「みんな…大丈夫かな…」

この胸騒ぎの正体がわからぬまま、今の高城に出来ることは飛ぶしかないのだった。


618 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:40:46.76 ID:qAhU43P/0
一方その頃、石田と加藤は――。

加藤「これから…どうしますか…?」

加藤が尋ねる。

石田「とりあえずまだ救出されていないメンバーを探しながら、前田さんのところに戻るよ」

石田はすでにやるべきことを頭の中で整理し終えていた。

石田「前田さんのところに行けば、あたしよりもっと強いヴォイドを持った人が集まっているかもしれないから」

加藤「あの、あたしのヴォイドって…」

加藤がさっきから疑問に思っていたことを口にした。

加藤「一体なんなんですかね。いきなり石田さんと同じ鞭持ってるし」

混乱する加藤に、石田が短く答える。

石田「コピーだね」

加藤「コピー?」


619 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:41:37.06 ID:qAhU43P/0
石田「そう。たぶん近くにいる人のヴォイドをそのままコピーして自分のものにしちゃうんだ」

加藤「え?でもあたし、自分のヴォイド…このカチューシャずっとつけてたけど、今までそんなこと一度も起きなかったですよ?」

石田「玲奈ちゃん、あたしが覆面隊員に背後を襲われそうになった時、そのカチューシャに何かしなかった?」

加藤「え?あの時ですか?えーっと…とにかく石田さんを助けなきゃって思って、あたしすごい焦って…」

石田「頭に触ったりしなかった?」

加藤「頭?あ、したかも!緊張したりすると無意識に前髪いじっちゃったりするんです」

石田「たぶんそれだ。その時カチューシャに手が触れて、それがきっかけとなりヴォイドの力が発動したんだよ」

加藤「そんな仕掛けが…」

石田「これではっきりした。玲奈ちゃんは一度前田さんのところに戻って、誰か別の強いヴォイドの人からコピーさせてもらったほうがいいよ。せっかくの力なんだから、もっと有効に使わないと」

加藤「でも、あたしには今石田さんのヴォイドと同じのがあるし…」

石田「これで満足しちゃ駄目。いくら戦闘タイプヴォイドだといっても、あたしのヴォイドには出来る限界がある。自分でもよくわかってるの。そしてそれをカバーしながら戦ってる。だけど、玲奈ちゃんにはその技術があるの?」

加藤「ありません」


620 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:42:36.80 ID:qAhU43P/0
石田「でしょ。それにせっかく強いヴォイドが持てるチャンスなんだから、もっと上を目指したほうがいいよ。玲奈ちゃんに足りないのはそういう欲深さだと思う」

石田「ま、あたしが言えた義理じゃないけどね。あたし基本謙虚だし。いつも申し訳ないって気持ちで物事を考えてるからさ」

石田は冗談まじりにそう言うと、笑みをこぼした。
加藤もつられて笑う。

石田「さ、行こう。もう増田さん達も出発したみたいだし」

加藤「あ、そうですね」

増田と小林の2人はすでに、覆面隊員を脅して案内役に置き、制御室へと向かっていた。
石田と加藤によって落下させられた覆面隊員は、増田に剣を突きつけられ、言いなりになるしかなかったのだ。

加藤「これでロボットが停止すれば、だいぶ動きやすくなりますよね」

石田「あぁ、あと問題は、覆面部隊だけか」

石田はそこで思い出したように周囲を警戒した。
覆面隊員が1人で出歩いていた通路である。
まだ他にも仲間が潜んでいるかもしれない。
全神経を研ぎ澄まし、辺りを窺う。
隣で加藤が、びくりと肩を震わせた。

加藤「キャッ…」


621 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:44:29.67 ID:bJeVS0wMO
石田「え?何?」

加藤「今なんか、人の声が聞こえたような…」

石田「え?」

石田の体に緊張が走る。
耳を澄ませた。
確かに聞こえる。
人の声。
か細い声。

――この声まさか…。

石田「れいにゃん?!れいにゃん居るの?!」

石田は覆面部隊に見つかる危険など忘れ、叫んだ。
しばらく待つと、どこからか藤江の声が洩れ聞こえてくる。
石田は壁に耳を押し付けた。

石田「この奥から聞こえる…」

確信した。
藤江はこの壁の向こうにいる。
加藤が走った。
通路を抜け、角を曲がる。
それから頭と手だけを出し、石田を手招きした。

加藤「こっちです石田さん!たぶんこの部屋の扉がそうだと思います」

石田はすぐに扉の前へと回り、ノブに手をかけた。
勢いよく回そうとしたが、ガチャガチャと虚しい音が響くばかりである。


622 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 12:45:49.40 ID:bJeVS0wMO
石田「れいにゃん?!無事なの?今助けるからね」

石田は我を忘れて扉の向こうの藤江へと怒鳴る。
いつものクールなキャラなど、どこかへ吹き飛んでいた。
石田は必死だった。
扉を蹴り、乱暴にノブを回す。
鉄扉はそんな石田をあざ笑うかのように硬く重く、閉ざされたままである。
それでも石田は、動くことをやめなかった。

加藤「石田さん…」

そんな石田の姿に、加藤は胸を痛める。
もう見ていられなかった。

加藤「あたしも手伝います。この扉、絶対に壊しましょう」

そうして鞭を構えた。
石田も気付き、扉から距離を取ると、鞭を打ちつけはじめる。
通路には2人が鞭を振るう、ピシリピシリという音が響き渡った。

――待っててれいにゃん…絶対に助けてあげるから…。


628 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:50:14.19 ID:qAhU43P/0
一方その頃、中学校では――。

高橋「話があるって…何かな?」

高橋がぎこちない笑顔で問いかける。
久しぶりに校内を歩き回ったので、怪我をした足がじくじくと痛んだ。
メンバーは今、仲俣によって2階の教室へと集められていた。
室内に貼られた掲示物から推測するに、2年生の教室だろうか。
机と椅子が散乱していたのを峯岸と片山が手早く片付け、全員が座れる場所を確保した。

仲俣「それが…わたしもよくわからないんです」

仲俣が困ったように言った。

峯岸「どういうこと?たかみな足痛いのにここまで集まってくれたんだよ?階段上るのだって辛かったのに」

体育館に避難していた高橋にここまで肩を貸してきたのは峯岸である。

高橋「みぃちゃん、そんなこと言わないの!なかまったー?説明してくれる?」

仲俣「はい…」

高橋に優しく問われ、仲俣は一度、竹内と岩田を見やった。
それから簡単に説明した。

仲俣「北原さんに言われたんです。みなさんをここに集めてくれって。北原さんは何かやることがあるらしくて、後から来ます。北原さん、覆面隊員の1人から重要な手がかりを発見したらしいんですよ…」


629 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:51:29.60 ID:qAhU43P/0
高橋「手がかり?何の?」

仲俣「わかりません。訊いたんですけど、みんなが集まってから説明するって…。あ、あとこれからわたしと美宥ちゃんと華怜はヴォイドを使わせていただきます」

峯岸「何?なんで?」

仲俣「たぶん、それだけ重要な話だからじゃないでしょうか。みなさんの気が散らないように、あたしに外の音を遮断してほしいって」

高橋「2人は?」

竹内「あ、わたしはよくわかんないんですけど、校舎が揺れたりすると落ち着いて話が出来ないからって言われて。ロボットのせいでだいぶ地盤が緩んでるらしいんですよ、ここ」

峯岸「へぇ、そう言われればそんな気がする。きたりえよく気がつくね」

岩田「たぶんあたしも竹内さんと同じ感じだと思います。建物全体を硬化させておくように言われて、校内走り回って今やっと完了したとこです」

ひとりだけ汗だくの岩田が、息切れを起こしながら報告する。

峯岸「そこまで念を入れてみんなに話したいことって、なんだろう…」

峯岸は首をかしげた。
その時、扉の開く音がして、教室の後ろから人が入って来た。
それは北原ではなく、横山と多田。

中田「らぶたん!」

中田は飛び上がり、多田に駆け寄った。
ずっと外で旗を振り続けていた多田は、岩田以上に汗だくである。
横山に手を引かれ、ふて腐れた顔でメンバーのところまで歩いてきた。


630 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:52:02.91 ID:qAhU43P/0
多田「由依ちゃんが、ちょっとくらい休んだって大丈夫だろうって、無理やり…」

多田が不満まじりに言う。

横山「わたし里英ちゃんに言われたんです。らぶたんさんをここに連れて来るようにって」

佐藤夏「夏希があれだけ言ってもらぶたん言うこと聞かなかったのに、よく連れて来られてたね」

夏希が目を見張った。
その隣で紫帆里もうんうんと同意を示す。

鈴木紫「すごい説得力…」

横山「あの、ところで里英ちゃんは…?」

高橋「まだ来てないよ。今みんなで待ってるとこ。由依もこっち来て座りなよ」

横山「あ、はい…」

横山が高橋の隣に腰を下ろす。
それからメンバーは北原が来るのを待ち続けた。
北原は一向に姿を現さない。
時間だけが悪戯に流れた。
ついに痺れを切らした峯岸が、椅子から立ち上がる。


631 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:53:24.56 ID:qAhU43P/0
高橋「みぃちゃん…?」

峯岸「あたし気になる。ちょっときたりえ探して来るよ」

高橋「そっか、もうこんな時間だしね…」

高橋はそう言って、教室内を見渡した。
室内は外からの光で赤く染まっている。

峯岸「もう日が落ちてきたんだ…って、早くない?」

そこで峯岸はハッとして、窓の外へと視線を走らせた。
一瞬、それが夕焼けのせいかと錯覚した。
だが違う。
やはり峯岸の言うとおり、時間が早すぎる。
高橋もまた、峯岸につらえて窓の外を見やった。

高橋「嘘…」

外は、火の海だった。
だがすでにその勢いは沈静化してきている頃である。

峯岸「なんで…」

メンバーも慌てて立ち上がり、窓へと駆け寄る。
校舎前一帯を炎が包み、何もかもをも焼きつくしていた。
かろうじて残っていた門も、みんなで苦労して作った防壁も、今は跡形もない。


632 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:54:09.91 ID:qAhU43P/0
中田「あ、あそこ!らぶたん達が凍らせて動きを抑えてくれてたロボット達も、この炎で焼け焦げてるよ」

中田が発見し、激しく多田の肩を叩く。

佐藤夏「良かったねらぶたん、これでもう旗を振り続けなくてよくなったよ」

多田「わーい、正直あれ、きつかったんだよね…」

多田は苦しみから解放され、手放しで喜んだ。
多田の起こした作戦で、責任を感じていた阿部と朱里も、ほっと胸を撫で下ろす。

鈴木紫「だけどこれって…」

大家「たぶん何かしらんけど、爆発が起きたんだよ」

前田亜「全然気付かなかったー」

河西「ラッキーだったねー。仲俣ちゃん達のヴォイドが発動してたおかげで、爆発の衝撃からこの校舎だけ助かったんだよ」

入山「爆発音も聞こえませんでしたね」

片山「あ、それなら万々歳ですね!外にいたロボットもいなくなって、これで安心安全」

中田「はーちゃんなんか言い方古い…」

片山「あはは…」


633 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:55:09.63 ID:qAhU43P/0
手を取り合い、喜ぶメンバー達。
そんな中、高橋だけは渋い顔をしていた。
じっと、炎を見つめる。

――外にいたロボットが爆発に巻きこまれたお陰で、らぶたんがヴォイドを使い続けることもなくなり、仲俣達のヴォイドのお陰であたし達は校舎ごと守られた。

高橋「ちょっとこれ、妙だな。いくらなんでも都合が良すぎるよ…」

高橋が呟く。

峯岸「たかみな?」

峯岸はメンバーの輪から外れ、心配そうに高橋の顔を覗きこんだ。

高橋「もしかしてきたりえ、謀ったな…」

峯岸「えぇ?きたりえが?」

峯岸の声が室内に響く。
メンバーはハッと我に返り、互いに顔を見合わせた。

河西「そういえばきたりえは今…」


634 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:55:54.72 ID:qAhU43P/0
横山「里英ちゃん…!!」

横山が教室を飛び出す。
廊下を走り、すべての教室の中を確認していく。
その間もひたすら北原の名を呼び続けた。
メンバーも横山に遅れること数秒、教室を出ると、手分けして北原を捜索する。
だが校内のどこにも、北原の姿はなかった。

――里英ちゃん…まさか…まさかそんな…。

そしてとうとう横山は、昇降口から外へ飛び出した。
炎はすでに落ち着き、焼き焦げた地面にぽつぽつと残り火が燃えているばかりである。
何もなくなった焼け野原を、横山は当てもなく走る。
むっとした熱風が、横山を襲った。
全身に汗が滲む。
だが今はそんなことどうでもいい。
北原に会いたい。
会って、無事を確認したい。

横山「里英ちゃん…どこ…」

やがて横山は力尽き、その場に崩れ落ちた。
と同時に、焦げた臭いが鼻をつく。
喉が痛い。
ずっと叫び続けていた。
北原の名前。
大好きな人の名前。


635 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:56:33.15 ID:qAhU43P/0
横山「うっ…げほっ、げほっ…」

ついに耐え切れなくなり、横山は咳き込んだ。
そんな横山の背中を優しくさする手。

横山「中塚さん…」

気がつけば、そこにはメンバーが全員集まっていた。
その浮かない顔つきから、誰も北原の姿をまだ発見していないことが窺い知れる。
落胆する横山に、中塚がそっと何かを差し出した。

横山「これ…」

中塚「さっきそこの地面に落ちてるの見つけたの」

中塚が見せたのは、何の変哲もない鉄片。
薄く、少し湾曲している。
だいぶ焦げていたけれど、そこに書かれた文字を読むことは出来た。
『…ガス』

横山「まさか里英ちゃんこれを使って…」

横山はすべてを悟り、ハッと中塚を見た。
中塚は無言で首を振る。
その瞬間、横山の目に涙が溢れた。

田野「ごめんなさいごめんなさい…」

と、横山とほぼ同時に、田野が泣き崩れる。

大場「ちょっ、どうしたの?」

大場が慌てて駆け寄った。
その周りでは岩田がどうしたものかとおろおろ歩き回っている。


636 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 13:57:49.56 ID:qAhU43P/0
田野「あたし、北原さんに言われて…それ…運んじゃったんです。校舎の裏に落ちてたんですけど、門の前に並べて運んで欲しいって言われて、何も考えずに…。あたしのせいなんです。こんなことになるってわかってたらあたし、絶対運んだりしなかったのに…」

高橋「どういうこと?」

高橋が一歩踏み出す。
峯岸はその体を支えようと、手を伸ばした。
だが高橋はそれを断り、片足で田野のもとまで歩み寄る。
もう一度、今度はゆっくり尋ねた。

高橋「どういうことなの?何を運んだって?」

田野「あたしが運んだのは…運んだ、のは…ガスタンクです…」

大家「ガスタンク?!」

大家が気がつき、目を見開いた。

大家「じゃあ北原はそのガスタンクをヴォイドを使って…」

高橋「きたりえのヴォイドは対象となった物の圧力を高めること。きたりえはそのヴォイドを使い、ガスタンクを破裂させたんだ。そして大爆発を起こし、ロボットを丸焼きにした」

高橋「なかまったー達にヴォイドを使うよう指示し、みんなを一つの教室に集め、誰にも気付かれないうちにこっそりそれを実行したんだ。なんだってそんな無茶を…」

高橋は悔しさに顔を歪ませ、足の痛みも忘れ地面を蹴り上げた。


638 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:00:24.28 ID:bJeVS0wMO
大家「北原のヴォイドは対象物の近くにいないと使えない」

河西「じゃあ、きたりえは…」

河西が震える声で問う。
だがもう答えを予期し、涙ぐんでいた。

高橋「この爆発に巻き込まれたら、まず助からないだろう…」

高橋が吐き出すように言った。
これを言うのは何より辛かった。
だがメンバーにはすべてを知る義務があると思ったのだ。
北原がメンバーのためにしてくれたことを、ちゃんと伝えなければと。

横山「北原さん北原さん…里英ちゃん、里英ちゃーーん…うぅぅ…うっ…うっ…」

横山の悲痛な声が、焼け野原にこだまする。
メンバーはただ呆然と拳を握り、宙を見つめていた。


639 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:03:39.47 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、前田達は――。

前田「これで残りは玲奈ちゃんとぱるるの2人か…」

小嶋と倉持、藤江のヴォイドを取り出し終えると、前田が考えるように言った。
3階まで上がったところで、同じ部屋に監禁されていた小嶋と倉持を救出した。
ちょうどその頃になって、石田達が藤江を連れて戻ってきたのである。

前田「あ、そういえば有華達は?一緒じゃなかったの?」

前田はそこではたと気がつき、石田に尋ねた。

石田「拘束した覆面隊員に制御室を案内させてるんです」

前田「ほんとにー?じゃあもうすぐ外のロボットは止まるんだね」

石田「はい、うまくいけばですけど…」

秋元「大丈夫、香菜がきっとやってくれるよ」

秋元が自信満々に言い切った。

小嶋「ねー?外のロボットって?」

小嶋が話の流れを半ば無視して、前田に尋ねる。
前田は外の状況を説明した。


640 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:10:22.31 ID:bJeVS0wMO
小嶋「あ、麻里ちゃん今、外でロボットと戦ってるんだ?」

前田「麻里子だけじゃないけどね」

倉持「じゃああたし達も急いで外に…」

前田「陽菜行ける?」

小嶋「うーん…やめとく」

小嶋はなぜかそこで、白い歯を見せた。

小嶋「あたし行っても活躍出来そうにないし。あっちゃんと一緒に残るよ」

前田「陽菜…」

加藤「そ、そんなことないです!小嶋さんのヴォイドなら大活躍ですよ!」

そこで突然、加藤が勢いこんで発言した。

小嶋「?」

加藤「あたし…あたし…小嶋さんのヴォイドが羨ましいです!」

その瞬間、加藤の右手には小嶋と同じ大砲が現れる。

秋元「えぇ?どういうこと?」

小嶋「……」

一同の視線が、加藤に注がれた。
加藤は目をぱちくりさせながら、手にした大砲を観察している。
本人が一番驚いているようだ。

石田「あ、えーっと…」

代わりに石田が加藤の持つヴォイドの力について説明した。


641 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:12:56.22 ID:bJeVS0wMO
永尾「れなっちすごい…」

加藤「あたし、戦います!今からでも外に行って、みなさんと一緒に」

加藤はすぐさま宣言した。
決意が揺らぐ前に伝える必要があったのだ。

――言ったからにはもう後戻りは出来ない…。

ずっと憧れていた。
だけど、恐れ多くて口に出すのも憚られた。
「自分も一緒に戦いたい」
そうして初めて自分もメンバーの一員だと胸を張れる気がした。
今動かなければ、後々必ず後悔する時がくるだろう。
加藤はそう予感していたのだ。

前田「ちょうどいい機会だから、みんなにお願いがあるんだけど…」

前田は少し前から悩んでいた。
だがたった今、加藤の言葉を聞き切り出す決意を固めた。

秋元「どうしたの?改まって」

前田「うん、その前に陽菜、さっきの話をみんなにしてあげてよ」

小嶋「え?何?」

前田「ほら、覆面隊員達が話してたってやつ」


642 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:15:48.55 ID:bJeVS0wMO
小嶋「あ、そっか。あたし聞いたんだよ。ボスが最上階にいるってこと、覆面した人達が話してて…」

石田「最上階って、この上のことじゃないですか」

前田「そうなの。ここから先はもっと厳しい戦いになると思う。だからその前に、みんなはここから脱出してほしいんだ」

秋元「脱出って…そんな、ここまで来たんだよ?最後まであたしはあっちゃんと一緒にいるよ」

前田「うれしいけど、駄目だよ才加」

秋元「なんで?」

前田「才加には、島ちゃん達と一緒に脱出してほしいの。もしもの時のために」

秋元「でもあたしのヴォイドは…」

前田「違うよ。ヴォイドなんて関係ないんだよ。才加は才加だもん。才加がいるだけで、安心できるんだよ。才加には、才加が思っている以上の力があるんだよ」

秋元「あっちゃん…」

島田「あの、うちも脱出するなら、秋元さんについてきてほしいです。また覆面隊員と遭遇した時、うちこんな性格だから落ち着いていられないっていうか、平常心でいられる自信ないです。テンパってヴォイドで覆面隊員殺しちゃうかもしれないし…」

加藤「あたしもです。お願いします、秋元さん!」

島田と加藤の言葉に、秋元を感動を覚えた。
根っからの情の深さが、秋元に一歩踏み出す勇気を与える。


643 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:17:25.27 ID:bJeVS0wMO
秋元「わ、わかったよ。あたしは今からここを脱出する。ついてくる人は…」

秋元は目の端に涙を滲ませながら、豪快に笑った。

秋元「さっさとついて来ないと追いて行っちゃうよー?」

すぐに島田と加藤に続き、市川が挙手する。
石田と藤江も目配せを交わすと、揃って手を挙げた。
亜美菜もしぶしぶ頷く。
最後まで前田と一緒に戦えないことは残念であるが、外にはまだロボットと戦う仲間がいるのだ。
ボスを相手にするかロボットを相手にするか。
対する相手は違っても、みんなと一緒に戦っていることに変わりはない。

前田「ごんちゃんとわさみんもほら…」

仲川「えー?遥香ここに残っちゃ駄目ー?」

前田「外にはみんないるから。きっとごんちゃんの助けを必要としてるよ」

仲川「うん…」

前田に促され、仲川は秋元のほうに歩み寄った。
岩佐もその後に従う。

松井珠「あたしはまだ出ていきませんよ」

珠理奈は前田の視線が自分に向くより先に、そう宣言した。


644 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:20:13.20 ID:bJeVS0wMO
松井珠「玲奈ちゃんを助けるんです」

前田「珠理奈…」

前田は聞き分けのない子供を見るような目で、珠理奈を凝視した。
珠理奈はそんな前田を無言で見据えている。
そこにいる珠理奈はもう、子供ではなかった。
大人っぽい顔立ちながらまだあどけなさも残り、手足だって華奢で柔らかいけれど、表情には強い意志が感じられる。

倉持「じゃああたしが珠理奈ちゃんについて、一緒に玲奈ちゃんを探すよ。いいでしょう?」

前田と珠理奈の間に割って入るようにして、倉持が提案する。

松井珠「倉持さん…」

倉持「まだちゃんと玲奈ちゃんの耳たぶ堪能してないし…」

倉持はそう言って、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
内心は結構本気である。

こうして前田、板野、小嶋、柏木、永尾の5人が最上階を目指すことになり、秋元を筆頭に、石田と藤江、仲川、岩佐、亜美菜、島田、加藤、市川の9人が脱出することにした。
珠理奈と倉持は2人で玲奈と島崎の捜索する。


646 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:21:22.81 ID:bJeVS0wMO
島田「あれ?永尾は…?」

島田は不思議そうに永尾を見つめた。
永尾は無言で笑ってみせる。
キャンサー化したせいでぎこちない笑顔ではあるが、口元からは変わらずきれいな八重歯が覗いていた。

前田「まりやちゃんにはもう少しここに残ってもらうね」

前田が代わりに答えた。
その時、まだ何か言いたげな島田の腕を、秋元が引っ張る。

秋元「ほら行くよー?」

島田「は、はい…」

秋元達が去ると、辺りは途端に静かになった。

板野「でもあっちゃん、ボスに会って、どうやって説得するか考えてるの?」

板野が問う。
前田は意味深に笑うばかりである。


647 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:24:11.64 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、宮澤達は――。

宮澤「さっきの爆発、何だったんだろう…中学校のほうから聞こえたけど」

宮澤は爆発音を聞き、不安を募らせていた。

松井咲「あ、煙!すごい…」

咲子が立ち上がり、指を差す。
途端にバランスを崩し、宮澤の上に倒れこんだ。
2人は今、野中が操縦するトラックの荷台にいる。

宮澤「みちゃ、もう少し急げるー?ほら咲子どいて」

宮澤は大声で運転席の野中に呼びかけた。
野中は了解の合図として、窓から片手を出し、ひらひらと振る。
次の瞬間、トラックはスピードを上げた。
視界に入ってはぐんぐんと後ろに遠ざかる景色。
そのどれもがロボットによって踏み荒らされている。
やはり前田が不安視したとおり、かなりの数のロボットが中学校へ向かったのだろう。

――みんな無事だといいけど…。それにさっきの爆発も気になる…。

宮澤は荷台から顔を出し、祈るように前方を見つめた。
ほどなくして、トラックを中学校の前に停車する。
降り立った宮澤は、激変した風景に息を呑んだ。
校舎前は焼け野原である。
間違いなく戦闘があった証拠だ。

――やっぱりさっきの爆発はロボットが起こしたものだったんだ…!


648 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:25:47.99 ID:bJeVS0wMO
宮澤「みんなー?いるー?」

宮澤が声を張り上げる。
野中と咲子もトラックから降り、メンバーを探した。
3人はまだ希望を捨ててはいない。
なぜなら爆発があったにもかかわらず、校舎は影響を受けていないからだ。

――みんなきっと無事なはず…。

そうして何度か呼びかけるうち、メンバー達がわらわらと校舎から飛び出してきた。
宮澤達の姿を見て、駆け寄ってくる。
宮澤は飛び上がり、喜びの声を上げようとした。
だがそれは中断される。
メンバーの様子がおかしいのだ。
全員暗い顔をして、目は泣き腫らしたように赤く染まっている。
宮澤はひとまず再会の喜びを胸に押し留め、尋ねた。

宮澤「何か…あったの…?」

高橋「佐江ちゃん…」

高橋が説明する。
それを聞くうち、宮澤の表情は曇った。
野中と咲子は顔を見合わせ、まだ現実を受け止められないようだ。


649 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:30:19.42 ID:qAhU43P/0
宮澤「そんな…きたりえが…たぶんさらなるロボット軍が攻めてきていることを知って、先手を打ったんだな…」

宮澤はそれから、実はアジトから出たロボット軍がこちらに向かっていたことを教えた。
メンバーはそこでようやく、北原がなぜあのような暴挙に出たのか理解する。
そして改めて、北原の決断に敬意を示した。
両手を合わせ、静かに俯く。
しばらくすると、高橋が口を開いた。

高橋「優子に続き、きたりえが犠牲になった。あたし達も、いつまでもこんなとこに隠れてるわけにいかない」

高橋「ほんとだったら優子の時にもう動くべきだったんだ。それなのに…お願い佐江ちゃん、みちゃ!あたし達を…レジスタンスのアジトに連れて行って!みんなその覚悟は出来てる」

宮澤「たかみな…」

宮澤は驚愕の表情でメンバーを見渡した。
自分が監禁されている間、メンバーに何があったのか。
メンバーは今、悲しみを乗り越え、復讐の炎を燃やしている。

峯岸「ここにいたって何も変わらない。すべては今、レジスタンスのアジトで起きてるんだよ。あたし達はもう、傍観者にはなれない」

高橋と峯岸の言葉に、メンバーはうんうんと頷いてみせた。
中でも横山は、目尻を吊り上げ、いつもの柔和さを完全に消し去っている。

宮澤「よし、行こう!」


650 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:30:52.07 ID:qAhU43P/0
野中「トラックを出します。みなさん荷台に移ってください」

メンバーが次々と荷台に飛び乗り、野中はトラックを発進させる。
これまで生活してきた校舎を捨て、アジトを目指した。
野中はぐんぐんとスピードを上げる。
メンバーはトラックに揺られながら、それぞれの未来に思いを馳せた。
やがて遠くにアジトの影が見えてくる。

宮澤「あそこだよ!あれ…?」

宮澤は指差した。
そして、アジトを出発した時とは違う変化に気付く。

宮澤「ロボットの数が増えてる…」

高橋「アジトの外にもロボットがいるの?」

宮澤「うん。たなみん達が戦ってくれてたんだけど…」

仲谷「たなみんが…?」

仲谷はそこで、胸に熱いものが込み上げるのを感じた。

――たなみん、頑張ったんだ…。

峯岸「あ、麻里子もいる!」

今度は峯岸が気付き、荷台から首を伸ばした。
アジトの前では、たくさんのメンバーがロボットと戦っている。

大家「うちらも負けてられんけん…」

大家はその重さを確かめるように、ヴォイドを握り直した。
トラックはアジトの手前で停車する。
メンバーは荷台から飛び降りると、それぞれ戦いの輪に向かって走り出した。
だがその時になって、河西があることに気付き、悲鳴を上げる。

峯岸「どうしたの?」

河西「ちかりなが…ちかりながいない…。トラックに乗ってない」

高橋「えぇぇ?!」


651 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:31:34.14 ID:qAhU43P/0
一方その頃小林と増田は――。

小林「この子達、全然香菜の話を聞いてくれない…」

覆面隊員に案内させ、制御室に辿りついた小林と増田だったが、そこは多種類のコンピュータとモニターに囲まれていた。
小林がこれらの機器と対話し、ロボットを停止させるには時間がかかりそうだ。

小林「この子達、すごく頑固なの」

早速ヴォイドである聴診器を片手に、説得をはじめた小林だったが、相手は今までのように言うことを聞いてくれない。
むしろ小林の言葉に反抗して、よくわからないエラーを出す始末だ。

増田「早よせんと、こいつらが戻って来ないのを怪しんで、他の覆面隊員が探しに来ると面倒やで」

増田もまた、焦っている。
制御室の隅には、案内をした覆面隊員に加え、元々室内にいた隊員達が、増田の手によって縛り上げられていた。
増田は今、相手が妙な気を起こさないよう、剣先を向け続けている。

小林「どうしよう…」

小林は今にも泣き出しそうな顔で、増田を見た。

増田「大丈夫や。香菜なら出来る。相手はちょっとへそ曲がりなだけや。ちゃんと話せば、香菜の正直さが伝わる。香菜がええ子やってことがわかる。香菜のような子を前にしたら、向こうだって心開くしかないやろ」

小林「ゆったん…、香菜、香菜やってみる!頑張るよ!」

増田の言葉に背中を押され、小林は再び聴診器を構えた。


652 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:32:07.00 ID:qAhU43P/0
一方その頃、珠理奈と倉持は――。

松井珠「玲奈ちゃんはあんまりべらべら自分のこと話す人じゃないけど、一緒にいるとわかるんです。優しくて、SKEのことを誰よりも考えてて、真面目で不器用で頑固で、でもすっごく努力家で、絶対に人の悪口を言わない」

倉持「うん…」

松井珠「何か納得がいかないことがあると、とことん努力するんです。見た目はあんな綺麗で可憐だけど、ほんとは暑苦しいほど熱心なんです。そんな玲奈ちゃんに感化されて、あたしも負けないように頑張ってこれた…」

倉持「うん…」

松井珠「あたし、まだまだ玲奈ちゃんと一緒にやりたいことたくさんあるんです。ほんとはもっともっとたくさん話したいし、たくさん話を聞いてほしいし、いっぱい喧嘩したり、笑いあったり…」

倉持「うん…」

松井珠「だから必ず玲奈ちゃんをこの手で助けて…って、聞いてます?倉持さん。さっきから何やってるんですか?」

倉持「あ、ごめんごめん」

珠理奈が口を尖らせると、倉持は慌てて苦笑いを浮かべた。
先ほどから倉持は珠理奈の話を聞き流し、壁を叩いて歩いてたのだ。

松井珠「どうしたんですか?」

珠理奈はすぐに機嫌を直し、問いかけた。


653 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:32:47.46 ID:qAhU43P/0
倉持「うん、ほらこの通路、さっきから歩いてるけど、おかしくない?」

松井珠「え?何がですか?」

倉持「見て、こんなに長く続いているのに、壁ばかりで全然扉がない。さっきの曲がり角からいって絶対にこの向こうには何かしらの部屋があるはずなのに…」

松井珠「そういえばそうですね…。でもそれと、壁を叩くのと何か関係あるんですか?」

倉持「うん、まずは聞いてて。こっちの壁を叩くと…こんな音。でもこっちの壁だと…ほらこういう音」

松井珠「なんか…音の響き方が違うみたいな…」

倉持「そうなの。さっきから一定の間隔で壁を叩いて歩いてたんだけど、ここだけ叩いた時の音が違うのよ。もしかしたら…」

倉持が首を捻ると、その先を珠理奈が続けた。

松井珠「隠し扉?」

倉持「そうそう!そしてこのアジトの中であたし達の目から隠しておきたいものといえば?」

松井珠「捕られたメンバー!ってことはこの壁の向こうに玲奈ちゃんが?」

倉持「もしくはぱるるちゃん。あるいは2人ともいるのかもしれない」

松井珠「すぐに壁を壊しましょう」

珠理奈は慌ててヴォイドを壁に向けた。


654 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:33:30.15 ID:qAhU43P/0
倉持「待って珠理奈ちゃん!何が出てくるか保障はないから、壁はあたしが壊す。珠理奈ちゃんは万が一のことも考えて、後ろでヴォイドを準備してて」

松井珠「はい…」

倉持はおもむろに肩を回すと、自身のヴォイドである金属バットを構えた。

倉持「この感覚久しぶり…さぁて、一暴れしますか!」

そう言うや否や、ヴォイドを振り上げた。
綺麗なフォームで壁を壊しにかかる。
やはりそこは倉持の睨んだとおり、隠し扉であった。
数回の打撃で、壁には長方形の切れ込みが浮かびあがり、忍者屋敷よろしくくるりと回転した。
室内の様子が飛びこんでくる。

松井珠「あ…」

倉持の背後で、珠理奈がヴォイドを取り落とす音が響いた。
珠理奈はそのまま壁だった部分に飛びこむと、玲奈を支えて戻って来る。

倉持「玲奈ちゃん…」

玲奈の顔色はすっかり青ざめていたが、その足取りは思いのほかしっかりしていた。
すぐに珠理奈の支えなしに立つことが出来る。


655 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:34:02.53 ID:qAhU43P/0
松井玲「あの…あたし…」

松井珠「玲奈ちゃん!」

何が起きたのかまだ把握しきれていない玲奈は、遠い目をしていた。
そんな玲奈に珠理奈が抱きつく。
みるみるうちに玲奈の瞳に色が戻った。

倉持「玲奈ちゃんひとり?ぱるるちゃんは?」

松井玲「ここにはいません。ぱるるも監禁されてるんですか?」

倉持「そうだよ。まさかほんとに壁の向こうに監禁されてたなんて…。あたしなんて普通の部屋に、しかもひとりきりじゃなくて、こじはるちゃんと一緒だったよ」

松井玲「え?倉持さんも監禁されてたんですか?小嶋さんも?」

倉持「あ、そっか。玲奈ちゃん知らないんだっけ」

松井珠「とにかく玲奈ちゃんが無事で良かった。みんなでね、助けにきたんだよ。他にもたくさん監禁されてたんだけど、みんなで助けてね、それで、」

松井玲「え?え?え?」

倉持「珠理奈ちゃん、あんまり一度に話しても玲奈ちゃんが混乱するだけだよ」

松井玲「あの、それでこれからわたしは…」

玲奈がおずおずと尋ねる。
頭に浮かぶ疑問はとりあえず無視だ。
今がとにかく大変な時だということを、珠理奈と倉持の様子から感じ取った。

倉持「とりあえずあっちゃん達のとこに行きましょう。それから…」

松井珠「たかみなさんのもとへ行く。玲奈ちゃん、あなたの力が必要なんだよ!」


656 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:34:44.72 ID:qAhU43P/0
一方その頃、アジトの外では――。

山内「えぇぇぇぃっ…!!」

河西「鈴蘭ちゃんナイスショット!」

河西が球体へと整えた岩を、山内がゴルフクラブを使って飛ばしていく。
その命中率は凄まじく、ロボットは地面に崩れ落ちた。

内田「ガンガンいきますよー」

その横では内田が次々と岩を出現させていく。

岩田「はい!」

その岩をさらに硬化させ、破壊力を高めるのは岩田のヴォイド。
ここに4人の完璧なチームプレーが出来上がりつつあった。
一方でロボットではなく覆面部隊を相手にするのは松原。

松原「狙いは…レーザー銃…!」

松原が目を細めると、覆面隊員達が持つ銃に向け、手裏剣を投げた。

覆面隊員「うわっ…!」

バタバタと地面に転がるレーザー銃。
それに懐中時計を向けるのは片山だった。


657 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:35:24.05 ID:qAhU43P/0
片山「よしっと!これでもう銃は劣化した。悪いけど使い物にはならないよ。しーちゃん!」

大家「オッケー!」

今度は大家が飛び出し、鎖を放つ。

大家「みぃちゃんお願いしまーす…」

大家が投げた鎖は峯岸により伸長し、銃をなくしておろおろする覆面隊員達に巻きつく。
その直後、大家は駒を回す要領で、鎖を思い切り引いた。

覆面隊員「うわぁぁぁぁぁ」

体に巻きついていた鎖の反動で、くるくると回転する覆面隊員達。
そこへ駆けつけたのが亜美だ。

前田亜「ごめんなさい…」

遠慮がちにそう言いながらも、なぜか笑みを浮かべている亜美。
彼女がフラフープを回すと、覆面隊員達はその場でぐるぐると回転し続けることとなった。
亜美のヴォイドの力により、無限ループが発動したのだ。

大家「よしっと、亜美ありがとう。これでこの人達はもう攻撃をしかけてこれんけん」

前田亜「目が回っちゃってかわいそうだけど…」

峯岸「今はそんなこと気にしない気にしない」


2 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:44:28.60 ID:qAhU43P/0
松原「良かった、うまくいったんだね」

手裏剣を投げていた松原が、亜美達のもとへ駆け寄る。

峯岸「なっつみぃ、次は?」

松原「向こうで美宥ちゃんが地面を振動させて攻撃を防いでるけど、そろそろ限界みたい。助けに行こう」

峯岸「わかった」

4人もまた、対覆面部隊としてチームプレーを発揮していた。
メンバーはこうして助け合いながら、ロボットと覆面部隊を制圧していく。
そして戦況を遠くから見つめる者達がいた。

高橋「みんな…頑張って…」

高橋は胸の前で両手を組み、祈るように言った。
メンバーが団結した今、レジスタンスとは互角に戦えているといってもいい。
だがやはり、目の前でメンバーが傷を負い、ぼろぼろになりながら戦っている姿は、見ていて辛いものがあった。
何よりその戦闘に加わることが出来ないことが悔しい。

――あたしの足がこんなじゃなかったら…。

高橋の傍らでは、横山、野中、咲子、中村、入山、田野、川栄の7人が同じく戦況を見守っていたが、田野の精神状態はかなり不安定になっていた。
田野は北原の死を完全に自分のせいだと思いこみ、その罪悪感に押しつぶされそうになっていたのだ。


3 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:45:16.21 ID:qAhU43P/0
田野「……」

全身がガタガタと震える。
これが悪い夢だったら、どんなにいいだろう。
目が覚めれば、今までの出来事すべてなかったことになり、北原が元気に笑ってくれる。
だけど、これは現実なのだ。
全身から吹き出る脂汗、それを冷やす空気の感覚と風の音。
耳に届く破壊音、打撃音、爆発音。
現実に今、メンバーは戦っている。
そしてその中に、北原の姿はない。

田野「あたし…あたし…」

何やらぶつぶつと呟きはじめた田野を、入山が心配そうに見つめた。
とても見て見ぬふりが出来なかったのだ。
入山はそっと田野の肩を叩くと、無言で手を振った。
向こうへ行こうと合図する。
田野はわけもわからず、そんな入山について行った。

田野「あのぉ…」

高橋達からも、戦闘の輪からも離れた場所で、田野はびくびくと入山を窺う。
2人きりだった。
入山がなんのために自分を連れ出したのか、田野は理解できない。
と、入山が神妙な面持ちで口を開いた。

入山「田野ちゃん、ヴォイド…また使ってくれないかな?」

入山の一言に、田野は激しく首を振る。


4 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:46:26.89 ID:qAhU43P/0
入山「怖いのはわかるよ?田野ちゃんは自分がヴォイドを使ってガスタンクを運んだせいで、北原さんがあんな爆発を起こしたと思って、自分を責めてるんでしょ?だからもうヴォイドを使いたくないんでしょ?」

入山は優しい声で、だがその問いかけには有無を言わせぬ強い意志がこめられていた。
こんな入山は初めて見る。
田野は驚きとともに、無言でこくりと頷いた。

入山「だけど北原さんは田野ちゃんをこうやって苦しめるために爆発を起こしたんじゃないはずだよ。あたし達を…メンバーを助けるために、自らが犠牲になることを選んだんだと思う」

入山「これってすごいことだよ。もしあたしが北原さんの立場だったとしても、同じ決断が出来る自信ない」

田野「……」

入山「せっかく北原さんに守ってもらった命だもん。今のあたし達に出来ることは、レジスタンスと戦って、生きて、また前の生活を取り戻すことなんじゃないのかな?それが北原さんの望みだったんじゃないのかな?」

田野「北原さんの…望み…」

入山「そうだよ。北原さんの死を無駄にしないためにも、田野ちゃんはまたヴォイドを使って、レジスタンスをやっつけるんだよ」

入山の言葉に、田野の表情が変わっていく。
いつの間にか体の震えもおさまっていた。

――そうだ、あたしが北原さんの希望を次につなげないと…。

そこでようやく田野は落ち着きを取り戻した。
入山がほっと胸を撫で下ろす。
田野が立ち直ったことを悟ったのだ。


5 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:47:09.64 ID:qAhU43P/0
入山「一緒に戦おう、田野ちゃん」

田野「え?でもどうやって…あたし、ただ怪力になるだけで攻撃は…」

入山「出来るよ!あたしのヴォイドを使えば…」

田野「あんにんさんのヴォイド…。あ、そういえばまだ見たことなかったですけど」

入山「あたしのヴォイドは…これだよ」

入山はそう言って、田野の目の前でヴォイドを掲げてみせた。

田野「マイク?」

入山「そう」

田野「でも、それでどうやって…」

入山「ちょっと見ててね…」

入山はマイクを利き手に持ち帰ると、スイッチを押した。
それから素早く、戦場の方向へと向ける。

田野「あぁ…」

すると田野の前に、巨大な雲のようなものが出現した。

入山「大丈夫。触ってみて」

圧倒される田野に、入山が意味深な笑顔を浮かべて話しかける。
田野はおそるおそる、出現したばかりのその物体へと手を伸ばした。
それは見た目からの想像とは違い、硬くごつごつしていた。


6 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:47:41.07 ID:qAhU43P/0
田野「これって、あんにんさんが出したんですか?てかこれって何ですか?」

入山「音だよ」

田野「音?」

入山「そう。あたしのヴォイドは音を拾う。そして拾った音をこんな物体の形に変えて出現させるんだよ。これはね、拾った音量によって大きく重く、硬くなるの。今はみんなが戦っている方向にマイクを向けたから、大音量の破壊音が拾えたんだよ」

田野「あんにんさんのヴォイドにそんな力が…」

田野は脅威の目で、入山を眺めた。
それからはたと気がつく。

田野「でもこれを、あたしにどうしろって言うんですか?」

入山「これをどうするか。もう田野ちゃんならわかるんじゃないかな?」

入山は今度、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、田野の両手に視線を落とす。
田野の両手にはヴォイドであるグローブ。
怪力を発動するグローブ。

田野「あたし…あたし…わかりました!!」

田野は入山が出現させた物体を掴むと、一目散に駆け出した。

田野「うわぁぁぁぁぁぁ…!!」

そのまま真っ直ぐアジトのほうへ向かい、戦闘の輪に飛び込む。
田野の存在に気付き銃を向けて来たロボットに、手の中の物を思い切りぶち当てた。
その攻撃により、ロボットの機体には大きな穴が開く。
戦闘不能となったロボットが、ゆっくりと傾き、地面に倒れた。
田野は微動だにせず、ロボットを最後を見届ける。

田野「あんにんさん、ありがとうございます。そして北原さん…見ててください…」

田野はそう言って、天を仰いだ。


7 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:48:30.90 ID:qAhU43P/0
一方その頃、小森は――。

小森「えーっと…」

小森は戦闘の輪の中に身を置いていた。
健気にも自分に出来ることはないか探しているのだ。
だが――。

宮崎「小森危ないよー」

背後を戦闘隊員に狙われていたことを、宮崎の声で知る。
宮崎はヴォイドを使い小森を攻撃から守ると、面倒臭そうに注意した。

宮崎「小森はたかみなさん達のところにいたほうがいいんじゃない?」

小森「え?でもわたし、ほらほら、こうやって物を浮かせることが出来るんですよ」

小森は得意げに、自分のヴォイドを披露する。
しかし宮崎は冷めた顔で指摘した。

宮崎「それって今この状況で役に立つことなの?」

小森「え…」

宮崎「いいから向こう行ってなって。あたしも小森ばかり守りきれないよ」

小森「くぅーん…」

小森を狙っていた覆面隊員に、松原が攻撃をしかける。
宮崎はそれを確かめると、また新たなメンバーを防御するため、立ち去って行った。


8 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:49:03.81 ID:qAhU43P/0
小森「いいな。なっつみぃさんかっこいいな」

小森は松原へ羨望の眼差しを向けると、そっとその場を離れた。
しかし今度はロボットに銃を向けられてしまう。
戦闘タイプのヴォイドでない小森は、格好の餌食、そしてメンバーの足手まといであった。

鈴木ま「こもりん危ないっ…!!」

横から飛び出してきたまりやが、小森を救う。
ロボットをなぎ倒し、慌てて振り返った。

鈴木ま「こもりん、怪我はない?」

小森「まりやんぬちゃん…。あ、あのね、わたし…」

鈴木ま「ごめんねこもりん、今はゆっくり話している暇ないから。こもりんは早く安全なところへ避難しててくれる?」

小森「くぅーん…」

まりやはそして、新たな敵へと向かってしまった。
すっかりしょげ返る小森は、ぷいとそっぽを向く。
すると視界の端に、ロボットと戦う田野と入山の姿が映った。

――みんなもああして戦ってるのに…。わたしだけ…。

宮崎やまりやの言い分もわかるが、この状況は小森にとって面白くない。
小森は自分がメンバーから邪険に扱われている気がしてきた。
とぼとぼと戦いの輪から離れていく。

小森「ふーんだ、みんな勝手に戦ってればいいんだ。わたしはもう知ーらないっと…」


9 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:50:00.66 ID:qAhU43P/0
一方その頃、高橋は――。

高橋「才加!!」

メンバーを連れて戻ってきた秋元に、高橋は驚きの声を上げる。

高橋「あぁみんなも…良かった無事だったんだね」

秋元達はその後、アジト内で覆面部隊をやり過ごしながら、脱出を成功させたのだった。
戦闘の輪を避けて、とりあえず高橋のもとへ無事を報告しに来たのである。

秋元「ともちんと陽菜はあっちゃんの傍にいる。あと見つかっていないのは玲奈ちゃんとぱるるだけだよ」

高橋「あと2人…」

藤江「たかみなさんごめんなさい、ご心配おかけしました」

高橋「いいよいいよ。れいにゃん、怪我はない?」

藤江「はい」

佐藤亜「たかみな達、中学校から移動してきたんだね」

高橋「うん。みちゃ達がトラックで迎えに来てくれて」

高橋はそう言って、ちらりと野中を見やった。
野中が微笑む。


10 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:50:57.34 ID:qAhU43P/0
秋元「そっか、じゃあ中学校に残ってたメンバーは全員こっちに来てるんだね。みんな戦ってるもんなぁ」

高橋「それが…全員じゃないんだよ…」

秋元「え?まだ誰か残ってるの?」

秋元が不思議そうに問う。
高橋は少しの間迷う仕草を見せたが、痺れをきらした秋元に詰め寄られ、すべてを告白した。
北原が爆発を起こし、メンバーを襲おうとしていたロボットを全滅させたこと。
その爆発に巻き込まれた北原が、帰らぬ人となったこと。
そして、爆発直後から近野が行方不明になっていること。

秋元「そんな…嘘でしょ…」

高橋の話を聞き終えた秋元が、小刻みに肩を震わせる。
怒りと悲しみが同時に押し寄せ、頭がどうにかなりそうだった。
だが必死に感情を抑え、口を開く。

秋元「きたりえのためにも…あたし達は絶対に勝利しなきゃいけない」

高橋「うん」

秋元「それに、ちかりなが行方不明っていうのは…」

高橋「こっちに来てトラックを降りようとした時に気付いたんだよ。それで、みんなの話を総合すると、誰も爆発の前後からちかりなの姿を見ていないことになって…」

藤江「嘘…ちか…」

藤江がショックのあまり、膝の力を失う。
よろめいた藤江を支えたのは石田だった。

石田「……」


11 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:51:38.44 ID:qAhU43P/0
高橋「ただトラックに乗り遅れただけならいいんだけど、もし爆発に巻きこまれたのなら…」

秋元「いや、今は希望を捨てないほうがいい。ちかりなはまだ中学校に残ってるんだよ。そう信じよう」

高橋「そう…だね…」

高橋が俯く。
秋元の言うとおりだと思った。
近野の無事をメンバーである自分達が信じないで、他に誰が信じるというのか。

秋元「それで状況は?」

秋元は近野のことを気にかけながら、だが今は割り切って尋ねる。

高橋「戦闘力でいったら互角かな。みんな頑張ってくれてるよ。だけどどんどんロボットや覆面部隊の数が増えてきてて…」

秋元「わかった。あたしも今からみんなを助けに行くよ。この炎で戦闘部隊を威嚇するくらいはできるから」

仲川「うん、遥香ロボット吹き飛ばしちゃうよ!わさみん、行こう」

岩佐「はい!」

そうして秋元達も戦闘へと足を向けた。
だがその時、横山が呼び止める。

横山「あの、秋元さん!」


12 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:52:10.65 ID:qAhU43P/0
秋元「ん?何ー?」

横山「秋元さん達は、どこから脱出してきたんですか?」

秋元「あぁ、裏口があるんだよ。正確にはロボットを排出するためのものだと思うけど、そこから逃げてきたんだ」

横山「そうですか。わかりました」

秋元「どうかしたの?」

横山「いえ、なんでもないです…」

秋元「?」

なぜか口ごもる横山の様子に首をかしげながら、秋元は再び歩き出そうとした。
だがまたしても、呼び止められてしまう。

中村「秋元さんすみません、ちょっと…」

呼び止めたのは中村だ。
中村はびくびくしながら、秋元に尋ねた。

中村「永尾とみおりんは一緒じゃないんですか?」

秋元「あぁ、まりやちゃん?それならまだあっちゃん達と一緒にいるよ。それにレモンちゃんならあたし達と一緒に脱出して…って、あれ?」

秋元はそこできょろきょろと辺りを見渡した。


13 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 14:52:49.59 ID:qAhU43P/0
中村「あのぉ…、どうしたんですか?」

中村は秋元の様子に不安を覚えた。

秋元「どうしよう…レモンちゃんがいない。一緒に来てない」

中村「えぇ?どういうことですか?」

佐藤亜「あ、あの時だよ。ほら、1階まで降りたところで覆面部隊に襲われた時!最初みんなバラバラに逃げたよね?ね?」

島田「あ、そういえばそうでしたね…まさかみおりんはその時に…」

島田が顔を青くする。

島田「はぐれちゃった…とか…?」

中村「そんな…!じゃあ今みおりんは…」

中村がおそるおそる尋ねる。
秋元がアジトを指差した。

秋元「まだあの中にいる」


15 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:02:20.25 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、珠理奈達は――。

松井珠「前田さんの話だと、裏口から脱出できるみたいです」

珠理奈、玲奈、倉持の3人はアジトから脱出するため、先を急いでいた。
その少し前に前田達と合流し、玲奈のヴォイドを取り出してもらったのだ。

倉持「急いで脱出して、玲奈ちゃんのヴォイドでたかみなちゃんの足を治してあげないとね」

倉持が言う。
玲奈はこくりと頷いた。
3人はそのまま一気に階段を駆け下り、2階まで到達する。
だがそこで、予期せぬものと遭遇した。

松井珠「うわっ…」

現れたのは覆面部隊――ではなく、小型のロボット。
今まで戦ってきたロボットとは形状が違う。

倉持「何する気…」

3人の前に立ちはだかるロボットは、手足部分が細長く、胴体に操縦席が置かれていた。
半透明の機体故、中で操縦している覆面隊員の様子がよく見える。
かなり奇妙であり、何か底知れぬ禍々しさが感じられた。

松井玲「キャッ…」

耳障りな音を立て、ロボットが動き出す。
操縦する覆面部隊は、怯える3人を見て楽しそうだ。
珠理奈と倉持は即座にヴォイドを構えた。


17 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:04:11.37 ID:bJeVS0wMO
松井珠「これって一応ロボットですから、攻撃しても構いませんよね?」

倉持「中で操縦している人を傷つけなければ、たぶん大丈夫なんじゃないかな」

松井珠「わかりました!玲奈ちゃんは下がってて」

相手の数は4体。
それに対してこちらは珠理奈と倉持の2人だけ。
初めて遭遇するタイプのロボットで、戦闘力は不明な上、何を隠し持っているのか想像がつかない。
果たして戦えるのか――。
珠理奈は自分の心に問いかけてみた。

松井珠「戦える!戦う!」

そう、こうしてせっかく玲奈と再会できたのだ。
絶対に生きてここから脱出してみせる。

松井珠「……」

引き金を引く。
相手はびくともしない。
それでも珠理奈は諦めず、ピストルを撃ち続けた。

倉持「珠理奈ちゃん、足を狙って!」

倉持が叫ぶ。
と、狙いを定めた珠理奈の弾が、1対のロボットの足に当たった。
ぐらりとバランスを崩し、倒れる。
すかさず倉持が金属バットを操縦席に突き立てた。

覆面隊員「ひいっ…」

ロボットを操縦していた覆面隊員は、咄嗟に腕で頭を庇う仕草を見せる。
次の攻撃に備えた。
だが倉持はそれ以上の攻撃はせず、残りのロボットに飛び掛っている。


19 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:06:08.41 ID:bJeVS0wMO
覆面隊員「へ…?」

覆面隊員はぽかんとした表情で、戦いを続ける倉持と珠理奈を眺めた。
そして気付く。
すぐに仲間へ向かって叫んだ。

覆面隊員「こいつらに俺達は攻撃出来ない!殺せないんだ!偽善者ぶってるんだよ!」

倉持「何…」

珠理奈倉持優勢で進みかけていた戦況が、一変する。
痛いところを突かれた。
そう、2人には覆面隊員を殺す気などないのだ。
武器を取り上げるか、相手が怯んだ隙に逃げるのが狙いだった。
そしてその思惑がバレた今、主導権は覆面隊員達へと移る。

覆面隊員「さぁ、出来るもんなら攻撃してみろよ」

覆面隊員達はロボットから降りると、3人の目の前で所持していた銃を床に投げ捨てた。

覆面隊員「丸腰となった俺達を殺すなんて、そんな残酷な真似お前達には出来ないだろう」

松井珠「…くっ…!」

覆面隊員の言葉に、反論出来ない。
無抵抗の相手に、ヴォイド向けることなど珠理奈の正義感が許さないのだ。
それは倉持もまた同じだった。
珠理奈達が攻撃してこないことを確信すると、覆面隊員は両手を広げ、一歩、また一歩に歩み寄ってくる。
それに合わせ、3人はじりじりと後退した。


21 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:07:59.96 ID:bJeVS0wMO
松井珠「どうしますか?倉持さん」

倉持「仕方ない。あたしのバットであの人たちを殴り、気を失わせる」

松井珠「だ、駄目ですよ。見た目は普通の金属バットですけど、ヴォイドですよ?それに相手はロボットじゃなく生身の人間です。倉持さんのバットで殴ったら、即死しますよ」

倉持「じゃあどうやって…」

覆面隊員達は3人の反応を楽しむかのように、ゆっくりと近づいてくる。
3人はどうすることもで出来ず、追い詰められた。

松井玲「あ…」

ついに玲奈の背中が柵にぶつかる。
外と中とを隔てる柵。
その下はアジトを覆う岩壁になり、さらに下へ行くと水路が待ち構えている。

――ここから落ちたら…。

そう考えると、玲奈の足はすくんだ。

松井珠「あ、玲奈ちゃん!」

珠理奈が気がついた時にはもう遅く、バランスを崩した玲奈の体は、柵の外へと投げ出される。
それでも玲奈は咄嗟に腕を伸ばし、柵の淵を掴んでいた。

松井玲「たすけ…」

宙ぶらりんになりながら、玲奈は必死に体を持ち上げようとする。
しかし彼女の細い腕では、そう長いこと体を支えることができない。
柵に掴まってじっとしているのが精一杯だった。


22 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:09:21.91 ID:bJeVS0wMO
倉持「玲奈ちゃん掴まって!」

倉持が手を差し伸べる。
その時、背中に衝撃が走った。
蹴られた。
そう気付いた時には、倉持の体もまた柵の外へと投げ出されている。
玲奈を助けるため、一瞬覆面隊員に背中を見せたのが間違いだったのだ。
遅れて珠理奈が、覆面隊員の手にかかり、柵の外へと投げ飛ばされた。

松井珠「キャー…」

落とされる瞬間、珠理奈は闇雲に手足を動かしていた。
それが幸いしたのか、何かに手が触れる。
無我夢中でそれにしがみついた。

倉持「ぐっ…」

珠理奈がしがみついたもの。
それは、倉持の足。
倉持は今や自分と珠理奈、2人分の体重をその腕で支えることになり、苦しみに表情を歪ませた。
それでも絶対に掴んだ柵を離してはならない。
倉持はそう自分に言い聞かせ、必死に頭を働かせる。
隣では早くも玲奈が痺れはじめた腕に、懸命に力をこめていた。

覆面隊員「助けてほしいか?」

覆面隊員が余裕を窺わせる態度で、3人を見下ろす。
玲奈はもう言葉を発する力もなく、小さく頷いた。
ふと下を見れば、ごつごつとした岩壁。
こんなところに体を叩きつけられたら、無事ではいられない。
玲奈はハッとして、視線を上に戻した。

松井玲「……」

その瞬間、玲奈が目にした絶望的な光景。
覆面隊員の足が、柵に掴まる倉持の手を踏みつけようとしていた。

松井玲「駄目ぇぇぇぇぇ…」

玲奈の声が、虚しく響く。


23 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:11:49.37 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの中では――。

大場「あ、そうだ。ありがとう。教えてくれて」

長い通路を歩く大場と中村。
大場はふと立ち止まると、改めて中村に礼を言った。
2人は今、アジトの中にいる。

中村「何?今更改まって…」

大場「だってさっきは慌てて言えなかったから」

中村「うん」

秋元の話を聞いた中村は、市川がアジト内で迷っていることを大場に伝えた。
大場が市川のことを気にしているだろうと、中村は見抜いていたのだ。
案の定大場は戦いを抜け出し、裏口からアジトに侵入したのだった。
市川を救うために――。

大場「でも麻里子まで一緒に来なくても良かったのに」

中村「あ、でもあたしも心配だったから…」

大場「そう?」

2人は慎重にアジト内を探索する。
初めて足を踏み入れる場所。
どこにレジスタンスが潜んでいるかもわからない場所。
大場の体に緊張が走る。
密かにヴォイドを握り直した。


25 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:14:38.49 ID:bJeVS0wMO
――みおりん、こんなところにひとりでいて、きっとすごく怖がってるはず…。

市川の舌ったらずな話し方。
大場にはとてもわざとらしく見える、市川の言動。
憎たらしいくらい可愛くて小さな顔。
今はそれがたまらなく恋しい。
早く再会し、不安で涙ぐむ市川の顔を拝みたかった。
そして――謝りたかった。
これまでしてきた数々のきつい言動を、市川に直接会って詫びたかった。
市川は果たして許してくれるだろうか。

中村「キャー…!!」

その時、大場の背後にいた中村が悲鳴を上げた。

大場「え?」

振り返る。
そこには覆面部隊が銃を構え、整列していた。
いつの間に現れたのか、大場の頭は混乱する。
しかしヴォイドを構えることは忘れなかった。
覆面部隊に向け、それを投げつける。

中村「あ、駄目!!」

と同時に、中村が叫んだ。
中村は大場が覆面隊員を殺してしまうのではないかと慌てたのだ。
そんな中村の声で、大場はヴォイドを投げる瞬間、僅かに体を捻ってしまった。
大場のヴォイドは覆面隊員を掠めて壁に激突すると、かしゃりと音を立てて床に落ちた。


26 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:17:39.46 ID:bJeVS0wMO
大場「麻里子なんてことするの!」

大場が焦る。
ヴォイドは今、拾い上げられ、覆面隊員の手中にあった。

――もしあれを壊されたらあたしは…。

大場の背中に冷たいものが走る。
そして、2人は完全に攻撃する術を失ったのだ。

大場「…仕方ない」

大場はそこで、悔しさを滲ませながら言った。

中村「?」

大場「ここはあたしが食い止める。麻里子は逃げて。さっきのことは麻里子のせいじゃないよ。何も考えずヴォイドを投げようとしたあたしが悪いの」

大場「あはは…あたしっていっつもそうなんだ。よく考えないで動いて、言っちゃいけないこと言って、後で後悔するの。きっとバチが当たったんだよ。自分の起こした行動の責任は、自分でとるしかないんだよね」

中村「みなるん…」

覚悟を決めた大場の横顔を、中村はじっと見つめる。
自然と手は首から下げた自身のヴォイドに伸ばされていた。

――これを使う時…。

中村はペンダント型になった鏡をぎゅっと握り締めた。
覆面隊員を見据えると、大場を守るように一歩踏み出す。

大場「ばっ、何やってんの!?」


27 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:19:40.09 ID:bJeVS0wMO
中村「キャプテンはまだやり残したことがあるでしょ?あたしなら大丈夫だから…たぶん」

大場「麻里子!!」

中村「撃つならさっさと撃ちなさいよ!その銃で…だけどみなるんだけは見逃してあげて!」

驚く大場。
中村は両手を広げると、なんと大声で覆面隊員を挑発しだしたのだ。

大場「ちょっと、」

大場は強引に中村の肩を掴んだ。
だがそれ以上に力で、中村に突き飛ばされてしまう。
大場は床に倒れ、その勢いのままごろごろと転がった。
すぐに半身を起こす。
中村の姿を捉えた。

大場「そんな…」

大場の目の前で、中村が左肩を押さえていた。
辺りに漂う、焦げた臭い。
中村が小さく呻き声を洩らす。

――撃たれたんだ…!!

大場「麻里子もうやめて!」

大場は叫んだ。
しかし中村はまだ覆面隊員を挑発する。
その度に銃を向けられ、撃たれ、ぼろぼろになって、それでも必死に立ち、声を振り絞る。


28 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:21:30.47 ID:bJeVS0wMO
中村「ちょっとそこのあんた!腰が引けてるんじゃない?せっかく銃を持ってるのに撃たないの?怖いの?」

覆面隊員「…ぐぐっ…」

挑発された覆面隊員が銃を向けるのと同時に、中村がふらりと後方に倒れ、尻餅をついた。
それからゆっくりと半身を倒す。

大場「そんな…麻里子…麻里子しっかりして…」

大場は中村のもとまで這っていくと、その肩を揺さぶった。
中村は浅い呼吸を繰り返すばかりで返事をしない。

大場「どうして…どうしてこんな無茶なこと…」

中村「あたしのヴォイドはね、相手から受けた攻撃をそのまま相手に返すの…」

大場の必死に呼びかけに、中村が薄く目を開けた。
途切れ途切れに説明する。

中村「学校で覆面隊員に狙われたあたしを…みなるんが助けてくれた時…みなるんのヴォイドがあたしの頭を掠めたでしょ…?その時、あたしと一緒にみなるんまで頭に痛みを感じてた。それで…気付いた、んだ…あたしのヴォイドの力、に…」

大場「麻里子!麻里子しっかり!目を開けて!」

中村は最後の力を振り絞り、震える指を覆面隊員のほうに向ける。

中村「見、て…あたしを攻撃した奴らは…、あたしと同じ痛みを受け、てる…。今のうちだよ、みなるん…。みお、りんを…必ず見つけ、て…」


29 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:23:27.37 ID:bJeVS0wMO
大場「麻里子…こんなのってないよ。いくら相手に攻撃できても、自分まで傷ついてたんじゃ意味ないじゃん!馬鹿なんだからもう!ほんとにあたし以上の大馬鹿だよあんた…」

覆面隊員「さて、友情ごっこは終わりにしてもらおうかな?」

大場「え?」

頭の上から降って来た声に、大場はハッと顔を上げた。
そこには覆面隊員が勝ち誇ったようにたたずんでいる。
中村に呼びかけることに必死で、接近する人影に気がつかなかったのだ。

――しまった…!

覆面隊員「まさかのこいつのヴォイドのそんな仕掛けがあったとはな。妙に挑発してくるから怪しいと思い、攻撃しなかったことが幸いした。俺だけは無傷で済んだよ」

中村のヴォイドの力で自身が放った攻撃と同等の痛みに苦しむ覆面部隊。
その中で、大場に語りかける覆面隊員ただ1人だけが、平然としていた。

大場「……」

観念して目を閉じる。

――麻里子、みおりん…みんなごめんね。あたし、ここまでだ。

こめかみに銃口が当てられる感覚がした。

大場「…くっ…」

これまでの楽しかった思い出、辛かった思い出、AKBのメンバーになってからの出来事が走馬灯のように大場の心を駆け巡る。

覆面隊員「うわぁぁぁぁ…」

だが、次に大場の耳に届いたのは、レーザーが放たれた音ではなく、覆面隊員の叫び声。

大場「何…!!あっ…」

大場は閉じていた目をパッと開いた。
最初に飛び込んできたのは――。


30 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:25:08.72 ID:bJeVS0wMO
大場「みおりん…?」

市川「みなるんさん!大丈夫ですか?」

目の前に市川がいる。
信じられなかった。
市川は肩で息をしながら、水鉄砲のようなヴォイドを構えている。
その顔は真剣で、だからこそ手にしているヴォイドとのギャップに面食らった。
見るからにちゃちな作りの鉄砲。
中身はただのレモン汁。
それを使う市川を、尚のこと幼く見せている。
まったく馬鹿らしい光景だった。
一体そんなヴォイドで何が出来るというのか。

覆面隊員「くそっ…目が…目があぁぁぁぁ…」

だが覆面隊員はまるでムスカのような大袈裟な動作で苦しんでいる。
目元を覆い、ふらふらと動くので壁にぶつかって。
その足元にはさっきまでその顔を覆っていた覆面が落ちていた。

大場「みおりんまさか…」

市川「だってわたすぃ、みなるんさん達の声を聞いて必死で…あの人がみなるんさんに注目すぃている隙に体当たりすぃて、頭突きをお見舞いすぃたんです。そうすぃたら覆面が脱げたから、慌ててこれで目にレモン汁をかけて…」

大場「あ、あはは…」

大場は全身の力が抜け、放心したように笑い出した。
まさか頭突きとレモン汁に助けられるなんて。
考えると笑える。
だけどこれが現実なのだ。
そうして笑っているうち、大場の目からは涙がこぼれた。


31 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:26:38.92 ID:bJeVS0wMO
市川「あ、あの…みなるんさん?大丈夫ですか?どこか痛むんですか?」

市川が真面目な顔で問いかけてくる。

大場「ごめん、みおりん…」

大場は市川を見て笑いを引っ込めると、ぼそりと呟いた。

市川「え?え?」

大場「あたし、ずいぶんみおりんにひどいこと言ったよね。ごめんね。ずっと…謝りたくて…」

市川「え?え?何のことですか?わたすぃ別にひどいことなんて言われてないですよ?みなるんさんが本気でわたすぃのこと嫌ってるわけないすぃ、冗談だってこと知ってますぃたよ?」

市川はそんな大場に、きょとんとした顔で答えた。

大場「え…」

市川「わたすぃこそなんか意地になってたみたいで、ごめんなさい…。今もみなるんさん、わたすぃを探すぃに来てくれたんですよね?わたすぃ、すごく嬉すぃです」

大場「みおりん…」

大場はがくりと肩を落とした。
大場が思っている以上に、市川は大人だったのだ。

市川「そ、それより早くここを出まそう。みなるんさん、ヴォイドを拾って。それから麻里子ちゃんを運びますよ」

大場「う、うん…」


32 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:28:12.29 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、前田達は――。

前田「あ、あそこ!」

小嶋の話を信じて最上階までやって来た前田達は、通路の奥に扉を見つけた。
これまでアジト内で見てきた扉とは、見るからに違う。
厚く重そうな扉。
明らかに外からの侵入を警戒しているような作り。

板野「ボスはあの中かな?」

小嶋「きっとそうだよー」

前田「…行こう…」

慎重に足を進める。
扉が近づくにつれ、確信を深めた。

――ついに来たんだ…。

前田は仲間達を確認するため、そこで一旦立ち止まり、ひとりひとりの顔を見つめた。
誰もが緊張し、強張った表情をしている。

前田「ここから先は、」

そして前田は以前から決めていたことを口にしようとした。
だがそれを、柏木の声が遮る。

前田「?」

柏木は今、驚愕の表情で扉を見つめている。
その視線の先には――。

柏木「麻友!!」


33 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:29:59.00 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

仲谷「あれ…」

高橋らと一緒に戦況を見守っていた仲谷は、何かに気付き走り出した。

高橋「あ、危ないよ!」

高橋が制止する声を振り切り、仲谷は真っ直ぐあるメンバーの元へ向かう。
偶然宮崎が気付き、怪訝な顔でそんな仲谷の姿を防御した。

仲谷「…ハァ…ハァ…」

突然駆け寄ってきた仲谷に驚いたのは、篠田だ。

篠田「ど、どうしたの?」

篠田は相手にしていたロボットをさっさと片付け、仲谷に向き合う。

篠田「危ないよこんなとこ来たら。まだロボットがたくさんいるのに…」

篠田の言葉に仲谷はふるふると首を振った。
それから息を整え、アジトを指差す。

仲谷「あ、あれ…!!」

篠田「え?」

仲谷が指差した先に、篠田は体を向けた。
すると信じられない光景が目に飛びこんでくる。

篠田「珠理奈…!!」

そこには2階部分の柵にしがみつく、珠理奈、玲奈、倉持の姿があった。
目を見張る篠田に、仲谷が言う。


34 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:31:37.65 ID:bJeVS0wMO
仲谷「篠田さん、ヴォイドを…ヴォイドを3人に向かって投げてください!」

仲谷の言葉に、篠田はますます目を見張った。

篠田「え?そんなことしたら3人は鉄網に押しつぶされて…」

仲谷「大丈夫です。あたしを信じてください!」

仲谷はいつになく強い口調でそう言い切った。
こんな仲谷を見るのは初めてだ。

篠田「なかやん…」

篠田は悩む。
仲谷の考えが読めない。

仲谷「早く!じゃないと3人が落ちちゃいますよ!」

仲谷の言う通りである。
揺れる3人の体。
一体いつからああしているのだろう。
もう限界が迫っていることは明らかだった。
悩んでいる時間はない。

篠田「わ、わかった!」

篠田は決心すると、自身のヴォイドである鉄網を3人に向け投げた。
その瞬間、仲谷がステッキを振るう。
それが彼女のヴォイド。
いつも優しく穏やかな仲谷の心を象徴する、救いのヴォイド。


35 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:33:09.35 ID:bJeVS0wMO
篠田「……」

篠田の目の前で、鉄網は3人の体を包んだ。
だがそれは極めて優しく、柔らかに。
その時珠理奈達は、自分の体が繭に包まれたかのような心地良さを感じていた。
無意識に柵から手を放し、篠田のヴォイドに体を預ける。
仲谷のヴォイドによって軟化した篠田のヴォイドは、クッションの役割を果たしていた。

倉持「…あきちゃの耳たぶみたいに柔らかい…」

そうして地面に着地した3人は、束の間呆然とした表情を浮かべていたが、自分達が先ほどまでしがみついていた柵を頭上に捉え、安堵の息をついたのだった。

篠田「珠理奈ー!!玲奈ちゃん、もっちー!!」

3人の元に、篠田と仲谷が駆け寄ってくる。
珠理奈はもう、飼い主を見つけた仔犬のように喜びを全身で表現していた。

仲谷「だ、大丈夫でしたか?」

仲谷はそっと玲奈と倉持を気遣った。
玲奈が笑顔で頷く。

松井玲「ありがとうございます」

それからきりりとした表情に戻り、仲谷に問いかけた。

松井玲「すぐにたかみなさんを治します。どこにいますか?案内してください」


36 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:36:20.13 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、前田達は――。

前田「まゆゆ…」

中にボスがいるであろう扉の前。
そこに突然現れたのは渡辺だった。
レジスタンスの一員だった渡辺。
メンバーを陰で裏切っていた渡辺。

渡辺「……」

前田達が扉を突破するのを阻止しようというのか。
渡辺は前田達の前に立ちはだかり、無言で睨みをきかせている。

前田「まゆゆがそうまでするってことは、やっぱりこの扉の奥にレジスタンスのボスがいるんでしょ?お願いまゆゆ、道を開けて」

前田が静かに語りかける。

すると渡辺は俯き、肩を震わせた。

板野「あたしからもお願い…」

板野が眉を下げる。
次に顔を上げた渡辺は、涙を湛えた瞳を、うるうると揺らしていた。
だが決意は固く、その場を動こうとしない。
前田は困ったように小嶋と顔を見合わせた。
前田の手には高橋のヴォイド。
一方小嶋の手には大砲。
しかし2人とも渡辺を攻撃する気はなかった。
ここに来るまで、渡辺に対して様々な思いが交錯していたが、いざ本人を目の前にすると、やはりそこには情しかない。


38 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:38:46.12 ID:bJeVS0wMO
柏木「麻友…」

困り果てた前田と小嶋の間から、柏木が歩み出る。
そして渡辺へ近付くと、そっと両肩に手を置いた。
びくりと渡辺の肩が揺れる。
この細い肩に、渡辺は一体何を背負っているのか。
そう考えると、柏木は切なくなった。
きっとメンバーを裏切ったことにも理由があるのだろう。
渡辺は今、何か言いたげな表情で柏木を見上げている。
柏木は腰を屈めると、渡辺に視線の高さを合わせ、じっとその瞳を覗きこんだ。
渡辺のすべてを受け止める覚悟だ。

渡辺「ゆきりん…ひっ…ひっく…ご、ごめん…ごめんね…」

しばらくその体勢を続けていると、渡辺は安心したのか、堰を切ったように泣きじゃくった。

柏木「いいよ。麻友も辛かったんだよね。メンバーを裏切って平気な顔でいられる子じゃないもんね、麻友は。大丈夫、ゆっくりでいいから話してごらん」

柏木が優しく語りかける。
渡辺と再会したら言ってやりたいことがたくさんあった。
だがやはり、いざその時が来ると、柏木の口から出るのは渡辺への愛情がこもった言葉しかなかった。
柏木は意識しなくとも知っているのだ。
相手の心に直接語りかける術。
怒り、憎しみ、恨み…そんな感情を言葉に変えたところで、理解は生まれない。
柏木は今、仏のような慈悲深い顔で渡辺を見つめている。


39 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:41:08.76 ID:bJeVS0wMO
渡辺「そんな…わたし…みんなを裏切るつもりなんかなかった。ただ怖くて、レジスタンスに協力すればこの恐怖から逃れられると思ったの。わたしはまだ…弱い人間だから…」

渡辺が嗚咽を呑みこみ、打ち明けた。
前田達は無言で渡辺の話に耳を傾ける。

柏木「ウイルスが怖かったの?キャンサー化することが怖かったの?」

柏木が問う。
すると渡辺は激しく首を降り、否定を表した。

渡辺「違う。わたしが怖かったのは…あっちゃん…」

前田「あたし?」

渡辺「あっちゃんがAKBを卒業すること。それがたまらなく怖くて不安で…だってあっちゃんはAKBの象徴だったから。あっちゃんがいなくなったらこの先AKBはどうなっちゃうの?わたしもし次にセンターを指名されても、あっちゃんみたいに務めあげる自信まだないよ」

前田「……」

渡辺「知ってたよ。AKBが抗ウイルス対策のグループだってこと。中でもあっちゃんの力が強力で、そのお陰でウイルスを抑えられてきたことも」

前田「でもね、もうメンバーは個々に力をつけて、あたしがいなくても充分AKBとして成立する力を身に付けてるってたかみな言ってたよ?あたしが抜けても大丈夫なんだよ?まゆゆにだってすでに、これからのAKBを支えていく力があるんだよ!」


40 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:43:48.38 ID:bJeVS0wMO
渡辺「わたし…それでもやっぱり…自信ない。ウイルスを暴走させれば、まだあっちゃんはAKBに籍を置かざるをえなくなる。まだウイルス対策としてあっちゃんの力が必要だと判断される」

渡辺「そうしたらあっちゃんの卒業は延期される。だからわたしはレジスタンス側について、今回のウイルス暴走に手を貸したんだよ」

柏木「そんなこと…」

渡辺「まさかこんな大事になると思わなかった。でももう後戻りは出来なかった。ごめんなさい…ごめんなさい…」

渡辺の嗚咽が通路に響く。
柏木はそっと渡辺の頭を胸に抱いた。

柏木「まったくこの子は…馬鹿なんだから…」

渡辺「……」

柏木「忘れたの?あたしがいるでしょ?あたしはこれからもずっと麻友の傍にいて、麻友を支えるよ。だからもっとあたしに言っていいんだよ。甘えていいんだよ」

渡辺「ゆきりんは…わたしを、許してくれるの?こんなわたしを…」

柏木「許すも何も、あたし達は親友でしょ」

柏木が呆れたように言う。
途端に柏木の胸に、重さがかかった。
渡辺が完全に体を預けたのだ。

柏木「うわぁ、ちょ、麻友?なんで全体重かけてくるのよこの子は…」

柏木はよろめきながら目を丸くした。
渡辺は柏木から離れると、今度は前田達に頭を下げる。
前田は無言で頷いてみせた。


41 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:45:08.66 ID:qAhU43P/0
前田「じゅあまゆゆとゆきりんはもうここを脱出したほうがいいよ。それで改めて外にいるみんなに話すの。大丈夫だよ。みんなまゆゆが本当はいい子だって知ってるから。ちょっと話せばわかってくれるよ、きっと」

それから前田は渡辺の胸元に手を伸ばし、ヴォイドを取り出した。

前田「脱出経路はきっとまゆゆがわかってるよね?それからお願いがあるの。もし制御室の場所がわかるなら、有華達にも早くここから出るように知らせてほしいんだ」

渡辺「うん、制御室の場所ならわかるよ」

前田「良かった。たぶん2人は制御室にたどり着いてるはずだから。ロボットを停止させられてなくてもいい。今は一刻も早く脱出を優先するように言ってくれるかな?」

柏木「わ、わかった」

制御室へ向けその場を離れる渡辺と柏木。
だが渡辺は途中で立ち止まり、前田を振り返った。


42 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:45:40.31 ID:qAhU43P/0
前田「?」

渡辺「あっちゃん、あのね本当は、ボスは、」

渡辺が言いかけたのを前田が遮る。

前田「大丈夫。早く行って!」

渡辺「でも、」

柏木「麻友?行こう」

柏木はそっと渡辺の手を引いた。
渡辺は迷う仕草を見せたが、前田に頷かれると納得した。
今度こそその場から去っていく。
2人の背中を見送りながら、板野が尋ねた。

板野「あっちゃん、本当に良かったの?まゆゆ、ボスについて何か知ってるみたいだったけど…」

それに対し、前田が神妙な面持ちで答える。

前田「平気だよ。ボスの正体については、あたしもなんとなくわかってるから…」


43 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:48:11.59 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、横山は――。

横山「……」

閉塞感。
鼻をつく埃臭い空気。
吐く息が熱い。
手探りで進みはじめてから、どれくらいの時間が経ったろうか。
先ほどから何の音も耳に届かず、暗闇だけが横山の感覚を鈍らせる。

――わたし、まだ何もやってない…。

横山を突き動かしているのは焦り。
そして、仲間への思い――。

――優子ちゃんも里英ちゃんも…2人とももうわたしの元には帰って来ない…。

横山「2人がみんなのために動いている間、わたしは何をやっていたんだろう。不満を理由に何もせず…こんなん怠けてたんと同じやんか…」

横山を猛烈な恥ずかしさが襲った。
しかし一方で、妙に冷静だった。
熱くなっていた頭の芯が、スッと覚めていく感覚。

――わたしが馬鹿やったわ…変にこだわって、わたしひとりの感情にみんなを巻きこんで…前田さんに突っかかって…。やぎしゃんと中塚さんは戦う決意をしたのに、わたしだけはいつまでも同じ場所でひとり意地張ってた…。


44 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:50:17.31 ID:bJeVS0wMO
横山は今、ダクトの中を進んでいる。
秋元の話をもとに、大場達に続いてこっそり裏口からアジト内に侵入したのだった。
ただ大場達と違ったのは、素直に通路を進まなかったことである。
横山は壁際に小さな梯子が備え付けられていたのを見つけ、そこからダクト内に体を押しこんだのだった。
狭いダクト。
これがどこへ繋がっているのかもわからない。
しかしヴォイドを持たない自分には、これが前田を探す一番安全な道である気がした。

横山「…わたしの、ヴォイド…」

横山はダクトを進みながら、呟いてみた。
果たして自分は前田と会って、何がしたいのだろうか。
わからないまま衝動に突き動かされ、ここまで来てしまった。
しかし口に出してみると、その答えのシンプルさに気付く。

――わたしは前田さんに会って、ヴォイドを取り出してもらう。そうしなければ、例えレジスタンスとの対決に決着がついたとしても、わたしの中で戦いは終わらないままになってしまう…。

暗いダクトが続く。
必死にもがく横山がダクトを抜けた時、そこには何が待っているのだろうか――。


45 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:52:09.37 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、制御室では――。

小林「はい、わかりました。ありがとうございます…じゃあ、すべてのロボットを停止してくれるんですね?」

小林はそう言うと、静かに聴診器を外した。

増田「うまくいったんか?」

増田が待ちわびたように尋ねる。

小林「うん、やっぱりゆったんの言ったとおりだった。どんな相手でも、ちゃんと話せばわかってくれるんだね」

増田「当たり前やんか。香菜なら尚更や。香菜と話して、嫌いになるやつなんかおらん。それが機械でもや」

小林「ありがとう…。もうすぐ外にいるロボットは止まるよ」

増田「ほんならまたあっちゃんとこ戻るか?」

小林「うん。でもその前に…」

増田「?」

制御室には増田が縛り上げた覆面隊員が3人。
小林はそっと近づくと、彼らを拘束するロープに手をかけた。

増田「あ、あかん…」

すぐに増田が止めに入る。
しかし小林は笑顔で振り向くと、自信満々に言いきった。

小林「この人達をこのままにしておくわけにいかないよ。大丈夫。もう解放しても平気だよ」

増田「で、でも…」

小林「お願いしてもいいですか?」

小林は覆面隊員達に向き合うと、そっと話しかけた。


46 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:53:08.81 ID:qAhU43P/0
小林「ひどいことしてごめんなさい。でもあなた方がおとなしくしてくれていたお陰で、香菜達は目的を達成することが出来ました。本当にありがとうございました。それで…図々しいかもしれないけど、最後にもう1つだけお願いをきいてください」

小林「香菜達はこれからここを出ます。その前にあなた方を縛っているロープを解きます。香菜達はあなた方を傷つけるつもりはありません。だからあなた方も、香菜達が行くのを邪魔しないでください。どうか…お願いします」

そうして小林は深く頭を下げた。
小林の純真な瞳を見つめ、じっと話に耳を傾けていた覆面隊員達は、互いを確認することなくそれぞれ頷いた。

小林「じゃあ今からロープを解きます」

小林はそれから本当に宣言したとおりロープを解きはじめた。
その背後では密かに増田が剣を構えている。
覆面隊員達が小林に何かしようとしたら、すぐにでも切りかかるつもりだった。
だがその心配は杞憂だったと気付く。
ロープを解かれ自由の身になった覆面隊員達は、それでもその場から動くことなく、小林の顔を見つめ続けていたのだった。

増田「……」

増田がごくりと唾を呑む。
それは奇跡の瞬間だった。
小林の邪気のない心が、覆面隊員達に通じたのだ。


47 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:54:23.99 ID:qAhU43P/0
覆面隊員「あんたには負けたよ」

3人のうち1人が、ぼそりと呟く。
小林は返事をする代わりに、にっこりと笑ってみせた。
覆面隊員達はずっと見ていたのである。
機械相手に、小林が敬語で話しかける様を。
初めは本気で小林を馬鹿だと思った。
だが次第にその考えこそが馬鹿なのだと気付いた。

――この子は馬鹿なんじゃない。馬鹿正直で真面目なだけなんだ。

覆面隊員は確信した。
小林が信じるに値する人間だということを。

小林「じゃあそろそろ行きます。お付き合いさせてしまいすみませんでした。行こうゆったん」

増田「せやな!」

小林と増田は足取りも軽く、制御室の外に飛び出した。

増田「おわっ…!」

そこで思わぬ人物と遭遇する。

増田「ゆきりん!と…まゆゆ!?」

柏木の背中に隠れるようにして、渡辺がもじもじと2人を窺っていた。


48 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:56:55.28 ID:bJeVS0wMO
柏木「あっちゃんからの伝言。すぐにここから脱出しましょう」

小林「え?でも今あっちゃんのとこに行こうとしてたんだよ」

柏木「あっちゃんはこれからボスと直接対決する気なの。その前にあたし達には安全なところへ避難していてほしいのよ」

増田「だけどあっちゃん1人じゃ…」

柏木「平気だよ。昔からあっちゃんを支え続けた仲間がついているから。今のあたし達に出来るのはあっちゃんの言う通りにしてあげることだけ。急ぎましょう。道案内なら麻友がしてくれる」

柏木が言うと、渡辺が小さく頷いた。
だが増田は警戒の色を滲ませ、渡辺を睨む。

増田「まゆゆはレジスタンスの手先やろ?信じてええんか?」

柏木「大丈夫。麻友はもう反省したよ」

増田「……」

渡辺「ご、ごめんなさい…」

渡辺はちらちらと上目遣いに増田を見た。

――この目にうちらはずっと騙されてたんや…。

増田は考える。
見た目の可愛さに、渡辺を許していいものだろうか。
信じて、また裏切られるのは辛い。
しかしその時、小林が増田の肩を叩いた。


49 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 15:59:19.65 ID:bJeVS0wMO
増田「?」

小林「ゆきりんの言う通りだよ。大丈夫」

増田「香菜…ほんまか?ほんまなんか?」

増田が小林に詰め寄る。
だが小林よりも先に答えたのは、先程解放したばかりの覆面隊員だった。
彼らはまだ制御室にいて、開けられたままの扉から増田達の会話を聞いていたのだ。

覆面隊員「その子が嘘をつかないこと。お前がよく知ってるだろ?」

増田「……」

覆面隊員の指摘に、増田は唇を噛んだ。
相手に正しいことを言われ、悔しかったのだ。
まさか覆面隊員に教えられるなんて――。

増田「わかった。香菜のゆうことを信じわ。まゆゆを…信用してもいいんやね?」

小林「うん!」

渡辺「ありがとう…ありがとうゆったん…」

渡辺は感激に涙を滲ませ、何度も頭を下げた。

柏木「あたし達が入ってきた正面口とゆったん達が入った裏口の他に抜け道があるの。だよね?麻友…」

渡辺「うん」

柏木「そこから脱出しましょう」


50 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:01:20.17 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

篠田「ロボットが…止まった…?」

突然訪れた静けさの中、篠田は呆然と辺りを見回した。
直前まで対峙していたロボットは、篠田に襲いかかろうとする体勢のまま停止し、一切の攻撃が止まっている。
その他のロボットもあちこちで奇妙な体勢のまま止まり、メンバーは拍子抜けした顔でそれを眺めていた。
中には早くも安堵の息をつく者さえいる。
ロボットが停止した理由。
その疑問は亜美菜のよく通る声で解決された。

佐藤亜「香菜ちゃんだ!香菜ちゃんがヴォイドでロボットを停止してくれたんだよ!」

そして亜美菜が発言した直後に、メンバーの間からは歓声が上がった。

内田「こっちもOKです!」

覆面部隊は銃を取り上げられ、内田と田野が作る岩壁に包囲されていた。


51 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:03:20.39 ID:bJeVS0wMO
高橋「みんな…助かったんだ…」

高橋はメンバーの様子に、思わず身を乗り出した。

松井玲「あ、たかみなさん動かないでください!もうすぐ終わりますから…」

すぐさま玲奈に叱責され、姿勢を正す。
玲奈は今、高橋の足に自身のヴォイドである包帯を巻き付け、治療の真っ最中であった。

松井玲「…完了しました」

そして玲奈が手をかざすと、光が溢れた。
包帯は空気に溶けるかのように消失し、現れた高橋の足は元の形に戻っている。

高橋「ありがとう玲奈ちゃん」

高橋は早速立ち上がってみた。
久しぶりの地面を踏む感覚。
思わず笑みがこぼれた。

峯岸「たかみな…」

傍で心配そうに見守っていた峯岸も、つられて笑顔になる。
その間に戦闘へ加わっていたメンバーが、高橋のもとへ集まってきた。
元気になった高橋の姿に喜び、一方で玲奈へ称賛の声をかける。
玲奈はメンバーから褒められ、少し居心地悪そうに、だが真っ直ぐに顔を上げて微笑んでいた。
和やかな空気の中、メンバーの誰も大場や市川の動きには気づいていない。


52 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:04:58.90 ID:bJeVS0wMO
大場「良かったバレてない」

市川「なんかタイミング良かったみたいですね」

2人はこっそりアジトから脱出し、何食わぬ顔でメンバーの輪の中に戻ったのだった。
市川はともかく、大場は誰にも相談せずアジトへと侵入していたので、バレた時にどんな注意を受けるかわからない。

市川「玲奈さん…ちょっとお願いできますか?」

2人の目的はもちろん玲奈だった。
市川はこそこそと玲奈に近づき、耳打ちする。
玲奈は最初不思議そうな顔をしていたが、市川の真剣な表情を見て何事かを感じ取った。
市川に案内されるまま、メンバーから離れ、物陰へと急ぐ。
そこには中村が寝かされていた。

松井玲「だ、大丈夫。麻里子ちゃんは治るよ」

玲奈は詳しくは訊かなかった。
すぐに治療に取りかかる。
数分後には、中村が血色のいい笑顔を浮かべていた。

中村「ありがとうございました」

それから3人は抱き合い、玲奈に礼を告げた。
だが大場はすぐに深刻な表情を浮かべ、切り出した。

大場「玲奈さん、あの、今のこと…」


53 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:06:25.73 ID:bJeVS0wMO
松井玲「え?あ、あの、言いにくいなら別に…」

意外にも玲奈はそう言って、大場の言葉を遮った。
これまでどこか近寄りがたいと思っていた玲奈が見せるおおらかさに、3人は感動を覚える。
自分達はまだまだメンバーについて知らないことが多いのだ。
一番身近なチームメイトでさえ、少しの言葉の掛け違いから関係にヒビが入ってしまう。
しかしだからこそ、関係が深まった時の喜びは大きい。
この喜びが感じられる限り、自分達はAKBのメンバーであり続けるだろう。

市川「あ…」

ふと見れば、メンバーの中には渡辺達の姿がある。
渡辺は泣きじゃくりながら何事かを喋っていた。
それを見つめるメンバーの穏やかな顔。
裏切った渡辺を許すという選択。
やはりそれが出来るのがAKBだ。
玲奈と大場達は顔を見合わせ、それからそっとメンバーの輪に加わった。


54 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:08:56.57 ID:bJeVS0wMO
数分後――。

和やかなだった空気は一変し、メンバーは皆一様に険しい表情で遠くの空を見つめている。
メンバーの視線の先にはこちらへ向かって飛ぶ黒い影があった。

高橋「なんなの…あれ…」

河西「もしかして飛行タイプのロボットとか?」

河西が自分の肩を抱くようにして震えた。

高橋「だとしたら厄介だね」

小林「そんな…ロボットなら全部停止したはずなのに…」

メンバーは口々に自分の考えを言い、しかしそのどれもが確信を伴わないまま、謎の飛行物体はどんどん距離を縮めてくる。
そしてついに羽ばたきとともに辺りの砂を舞い上がらせながら、メンバーの前に着地した。

仲川「あ、あきちゃだー!」

身構えていた仲川が、突然大声を上げ走り出す。
高城はいつもの周りを和ませるほんわかとした笑顔を浮かべていた。
飛行物体の正体とは、高城のことだったのだ。

高城「すみません、遅くなりました」

高城が挨拶する。
大家が息を呑んだ。


56 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:12:55.59 ID:qAhU43P/0
大家「北原…!」

そして、高城に抱えられ一緒に空を飛んできた北原が、気まずそうに頭を下げた。

北原「あの…すみませんでした」

高橋「きたりえ…無事だったんだ…」

高橋が声を震わせる。
直後、メンバーの間からは歓声と泣き声が上がった。
中でも田野は北原の件について責任を感じていたので、喜びもひとしおだった。
誰よりも早く北原に駆け寄る。

高橋「え?で、あのさ、どうして?」

やがて再会の喜びが一段落した頃、高橋が問いかけた。

北原「あきちゃが助けてくれたんです」


57 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:14:38.25 ID:qAhU43P/0
北原がおずおずと語りだした。
高城から大量のロボットがメンバーのいる中学校へ攻めこもうとしていることを教えられた北原は、裏庭に落ちていたガスタンクからヒントを得た。
自分なら、このガスタンクを使って爆発を起こすことが出来る。
ロボットからメンバーを守ることが出来る。
危険が伴うことは百も承知だった。
だがこれしか方法はないと思った。
その瞬間、北原は自らが犠牲となってメンバーを救うことを決意したのだ。

相談はしなかった。
すれば必ず反対されるだろう。
ただ、爆発の衝撃にメンバーが巻きこまれることがないよう、田野達後輩に嘘をつくしかなかったのは心残りだった。
結果、爆発によってロボットは全滅。
メンバーは危険から逃れた。

北原の予定では、自分は爆発に巻きこまれる死ぬつもりだった。
ところがその時になって、何かが北原の体を掠め取ったのだ。
北原は経験したことのない浮遊感の中、眼下に爆発の真っ赤な炎を見た。
そして、意識を失った。

高城「一旦は里英ちゃんに言われて中学校を離れたんだけど、途中でなんか嫌な予感がして、引き返したんです。そうしたら里英ちゃんを見つけて…助けなきゃって夢中で飛んで…」

飛んできた高城に抱え上げられ、北原は九死に一生を得た。
直後に凄まじい爆風に襲われ、2人は遠くまで流されてしまったが、ちゃんと生きていたのである。
そして高城は意識を取り戻した北原とともに、ここまで飛んできたのだった。


58 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:15:35.38 ID:qAhU43P/0
高橋「2人ともよく無事でいてくれたね。ありがとう…ありがとう…」

すべてを聞き終えた高橋は静かに言った。

北原「や、そんなお礼なんて…」

北原は慌て両手を振った。

篠田「きたりえとあきちゃも戻ってきたし、これで残る問題は…」

峯岸「あっちゃん…」

高橋「あたし、あっちゃんのところに行く!あっちゃんは今頃ボスと対決しようとしてるんだよね?」

柏木「あ、はいそうです」

渡辺「ボスの部屋は最上階の奥です」

高橋「わかった。じゃあ…行ってくるよ。みんなは危険だからここで待ってて」

高橋はそう言い残すと、アジトへ向かって歩き出した。
じっと前を見据えて、ずんずんと進む。

――あっちゃん、遅くなってごめん。今行くから…。

これから先、どんな結末が待っているのか。
考えると足が震え、不安に胸が押し潰されそうになる。
だが高橋は前へ進むことを選んだ。
それがメンバーへ向けて、今の自分に出来る唯一の方法だった。


59 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:16:12.69 ID:qAhU43P/0
高橋「……?」

と、背後で足音がすることに気付く。
それは自分と歩調を合わせ、後ろからついてくるのだ。
振り返る。

高橋「なんで…?」

そこには峯岸と篠田がいた。
高橋と目が合うと、にやりと笑ってみせる。

高橋「待っててって言ったじゃん!」

高橋が泣きそうな顔で言った。

篠田「でもたかみなヴォイド持ってないじゃん」

篠田がさらりと言う。

峯岸「そうだよ。あっちゃんに預けたままでしょ?何の武器も持たずにアジトへ行くなんて危ないよ!」

篠田「あたしとみぃちゃんも一緒に行く。あっちゃんのところへ…行かせて!」

高橋「麻里子…」


60 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:22:55.72 ID:qAhU43P/0
一方その頃、前田は――。

前田「……」

前田はおもむろに腕を振り上げたかと思うと、それを素早く下ろした。
辺りに光が溢れ、手にして高橋のヴォイドが消失する。

板野「あっちゃんいいの?これからボスと戦うのに…」

板野が心配そうに問いかけた。

小嶋「そうだよー。あたしのヴォイド使う?」

小嶋もまた、妙に軽い調子で言う。
しかし前田はゆっくりと首を横に振り、その申し出を断った。

前田「ううん…いいよ」

板野「?」

前田「ずっとみんなのヴォイドを取り出すばかりだった。ヴォイドとはその人の心の在り方。あたしはまだ…その心をさらけ出してない!今がその時なの!」

永尾「前田さん!」

永尾は思わず後ずさった。
前田の左手が閃光する。

前田「……うっ…」

前田の手は、前田自身の胸元へと添えられている。
小嶋は眩しさに目を細めた。
光に包まれる前田。
果たして彼女は何をしようとしているのか――。


61 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:23:56.67 ID:qAhU43P/0
板野「まさか…」

板野は息を呑んだ。
その時背後から慌ただしい足音が迫ってくる。
高城により直接最上階までやって来た高橋達だった。

板野「たかみな…みぃちゃん…」

小嶋「あ、麻里ちゃん来たんだー?」

板野と小嶋は身を寄せて、、3人のためのスペースをあけた。
駆けつけた高橋達は前田の様子を見て、目を見張る。

高橋「何を…してるの…」

すると前田を覆っていた光は弱まり、完全に消えた。
前田が深い息をつく。
高橋の足元を見て、僅かに微笑んだ。

前田「たかみな…良かった足治ったんだ…3人とも来てくれたんだね…」

高橋「あっちゃんそれ…今何を…?」

高橋が尋ねる。
前田は自分の左手を見下ろすと、思い出したように顔の横に持ってきて、ポーズを決めた。
その手首には赤いリボンのようなものが巻きついている。

前田「これがあたしのヴォイド」


63 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:25:34.15 ID:qAhU43P/0
板野「あ、あっちゃんの…?」

篠田「ヴォイド?」

峯岸「自分の体から取り出したの?」

前田「うん。みんなの体から取り出せるなら、あたし自身からも出せるんじゃないかって」

高橋「まさかそれで…そのリボンでボスと対決する気?無茶だよ。どんな力かもわかってないのに」

前田「ううん…わかるの。なんとなく、取り出す前から予想はついてたの。あたしのヴォイド…それはみんなと繋がる力。赤い糸…。まりやちゃん、お願いがあるんだ」

前田はそこで、永尾に向き合った。
永尾がびくりと肩を揺する。

永尾「あ、あたしですか?」

前田「うん。この扉の奥にいるはずのボスと対決するには、まりやちゃんのヴォイドが必要なの」

永尾「で、でもあたしのヴォイドは…」

永尾はそう言って、視線を落とした。
前田の考えがさっぱり読めない。
ただ、自分のヴォイドがそれに適しているとは思えなかった。


64 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:27:50.12 ID:qAhU43P/0
前田「他の誰でもない。まりやちゃんのヴォイドが必要なんだよ」

しかし前田は信頼のこもった眼差しを永尾に向け、そう言った。

前田「いいかな?まりやちゃん…」

永尾「あたしは…あたしは…はい…!」

高橋「……」

高橋達が見ている前で、前田は永尾のヴォイドを取り出した。
その瞬間から、前田の胸元にはロケットペンダントが光る。

高橋「まりやちゃんのヴォイドは…」

高橋は驚いた。
こんなペンダント一つで、どうやってボスと戦うというのか。
そして――。


65 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:30:05.74 ID:bJeVS0wMO
小嶋「あ、あっちゃんその顔…」

小嶋が何かに気付いた。
前田の顔を凝視する。
永尾もまた前田を見つめ、ハッと息を呑んだ。
慌てて自分の顔に触れてみる。
そこにはあるはずのものがなかった。
永尾を蝕んでいたキャンサー化の痕跡が、きれいさっぱり消えている。
そして代わりに前田には――。

峯岸「キャンサー化してる…」

前田の頬の辺りは結晶化し、そのせいでぎこちない表情になっていた。

永尾「もしかして前田さん、あたしのヴォイドを取り出したせいで?でも昨日はそんなことなかったのに…」

永尾の頭は混乱した。
ただ、体が元の戻ったことを素直に喜べる状況ではないことはわかっていた。

――あたしのせいだ。あたしのキャンサー化した部分が、ヴォイドと一緒にそっくりそのまま前田さんに移っちゃったんだ。でもなんで…。

永尾「前田さん、ごめんなさい。やっぱりあたしのヴォイドを返してください!そうすれば前田さんの顔も元に戻るはず…」

永尾は切羽詰った声で言う。
思わず前田の腕にしがみついてしまった。
しかし前田は、キャンサー化した頬を出来るだけ揺らして、精一杯の笑顔を作ると、そっと永尾の腕をほどいた。


67 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:32:45.15 ID:bJeVS0wMO
前田「ううん、いいの。まりやちゃんからヴォイドを取り出せば、こうなることはわかってた。あたしが望んでしたことなの。まりやちゃんは悪くないよ」

永尾「前田さん…」

高橋「あっちゃん、どういうことなの?」

高橋がおそるおそる尋ねる。

前田「これがあたしのヴォイドの力ってことだよ、たかみな」

前田の声は何かを悟ったかのように穏やかで優しい。
それがたまらく高橋の心を不安にさせた。

――あっちゃん、何を考えてるの…?

前田「あたしのヴォイドは相手と繋がる赤い糸。それが重なり、リボンになったの。あたしのヴォイドは――相手のすべてを受け入れる。いいことも悪いことも全部、繋がって、引き受けるヴォイドなんだよ」

高橋「まさか…それでまりやちゃんのキャンサー化した部分があっちゃんに?」

前田「そういうこと。びっくりさせてごめんね、まりやちゃん。でもまりやちゃんがキャンサー化してしまったのも、他の人達がみんな消えてしまったのも、全部あたしのせいなの」

前田「あたしがAKBを卒業するって言ったから、ウイルスのバランスが崩れてこんなことになったの。だから…まりやちゃんの体を蝕んでいたこの結晶は、あたしがすべて貰っていくね」

前田のぎこちない笑顔。
永尾は喉に熱いものが詰まったように、うまく声を発することができない。
しきりに首を横に振り続けた。
そんな永尾の肩を、篠田がそっと抱き寄せる。

篠田「あっちゃんの選択を否定しないであげて」

篠田の言葉に、永尾はようやく首を縦に振った。


68 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:34:53.90 ID:bJeVS0wMO
前田「ありがとう麻里子、まりやちゃん。それで…みんな薄々勘付いてると思うけど、この扉の先にはあたしひとりで行こうと思う。ううん、あたしひとりで行かなきゃいけないの」

高橋「何言ってるのあっちゃん!あっちゃんは戦闘タイプのヴォイドを持ってないじゃん!あたしも行く!あたしも一緒に行って戦うよ!」

前田「たかみな…」

前田は嬉しいような困ったような、複雑な色を瞳に浮かべ、高橋を見た。

前田「たかみなにはいっつも助けてもらってたよね。たかみなはずっとあたしの傍にいてくれた。あたしのせいで、たかみなが損することも実は多かったんじゃないかなって、今となっては思うよ」

前田「もし次の機会があるなら、今度はあたしがいっぱいたかみなを甘えさせてあげる。だからあたしの最後の我儘…聞いてくれる?」

高橋「……」

前田「お願いたかみな。あたしにひとりで行かせて。みんなも…お願い」

前田はそう言うと、深々と頭を下げた。

板野「あっちゃん…」

高橋「…何か、理由があるんでしょ?」

高橋はそんな前田の姿からスッと目を反らしたが、しばらくすると低い声で問いかけた。


69 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:36:36.65 ID:qAhU43P/0
高橋「なぜあっちゃんはそんなにもひとりで行きたがるの?あたし達みんな…ずっと一緒だったんじゃん!」

峯岸「そ、そうだよ!」

小嶋「あっちゃーん…」

前田は頭を上げると、ゆっくりと仲間達の顔を見回した。
戸惑いながらも、どこか強い信念を感じさせる永尾。
瞬き一つせず、じっと視線を向けてくる板野。
頬を膨らませ、潤んだ瞳をしている小嶋。
丸い目で、前田の顔を射抜くように見つめる峯岸。
無表情に涙を流す篠田。
そして、唇を噛み、涙を堪えて顔を真っ赤にしている高橋。
前田は静かに語り出した。



70 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:37:53.69 ID:qAhU43P/0
前田「ずっと不思議だった。最初に玲奈ちゃんが攫われて、たかみなは今日まで足の痛みに耐えなければならなくなった。満足に動くことができなくなってしまった。でも…なんで最初に攫われたのが玲奈ちゃんだったんだろう…」

板野「たまたまひとりでいたからじゃない?」

前田「そうだね。それもあるかもしれない。でも、違うかもしれない。レジスタンスはどうしても最初に玲奈ちゃんをあたし達から遠ざける必要があったんじゃないかな」

峯岸「どういうこと…」

前田「あたし達を追い詰めるため。玲奈ちゃんがいなくなれば、その後怪我人が出た時、治療する術がなくなってしまう。そうしたらレジスタンスはもう、あたし達を執拗に狙わなくてもよくなるの。ちょっと攻撃して、怪我を負わせるだけでいいの」

前田「だってこんな状況では、小さな怪我が命取りになるからね。レジスタンスはそれを狙って、あたし達から降伏するのを待ってたんじゃないかな」

篠田「だけどその後もあたし達は降伏なんかしなかった。むしろ玲奈ちゃんを攫われたことで、闘争心が火がついたというか…みんなそれまで以上にロボット狩りやレジスタンスの詳細を探る作業にのめりこんでいったんじゃないかな…」

前田「そうなの。だからレジスタンスはさらにあたし達を追いこむため、優子を殺害した。メンバーからの信頼も厚い優子を殺すことで、あたし達の心をバラバラにし、結束力をなくすことが目的だった」

前田「そしてあたしはレジスタンスの思いどおりに動き、みんなの心、プライドを傷つけてしまった」

永尾「でもそれについてはもう誰も前田さんを責めている人なんていないと思います」

前田「うん、ありがとう…」

前田はそこで、優しく永尾に声をかけた。
そして話を再開する。


71 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:42:38.59 ID:bJeVS0wMO
前田「優子がいなくなってから、なぜかロボットの力が弱まった気がした。それはたぶんたし達を油断させるため。そして時を見て、直接対決を申し出てきた。その対決の場で、ともちんや陽菜、麻里子達が攫われるという事件が起きた」

小嶋「うん…」

前田「ここまでの流れであたしには少しおかしいなって思う点があった。レジスタンスはなぜ玲奈ちゃんのヴォイドの力を知っていたのか。それがわかっていたからこそ、最初に玲奈ちゃんを攫ったわけだし」

前田「確かに玲奈ちゃんはロボット狩りに加わって、一緒に戦場へ出たこともあったよ。だけどその都度ロボットは全滅させていたし、レジスタンスには玲奈ちゃんはおろかあたし達のヴォイドの力でさえ知る手立てはなかったはず」

高橋「もしかして…ロボット自体は無人だったけど、カメラや盗聴器を搭載していたものがあったとか?それでレジスタンスはあたし達の動き、あるいは音声を受信していたってことも考えられるよね?だから玲奈ちゃんのヴォイドが癒しの力だと知って攫ったんだよ」

前田「うん、あたしもそう考えた。だからそれ以上は深く探らなかったの。それにまゆゆがレジスタンスに加担していたから、そこからあたし達の力のことがレジスタンスの耳に入ったって可能性もあるからね」

前田「でもね、昨日あたしは、川栄ちゃんのヴォイドで気付いてしまったの。あ、川栄ちゃんのヴォイドは盗聴器だったんだよ」

篠田「盗聴器?それであっちゃんは何を聞いたの?」


72 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:44:58.78 ID:bJeVS0wMO
前田「アジトの中で話す覆面隊員達の会話。そこで覆面隊員達ははっきりと言ってた。ボスが才加のヴォイドについて教えてくれたって。その他のメンバーのヴォイドについても、覆面隊員達はボスから教えられてるみたいだった」

板野「まゆゆじゃなくて、ボス自身があたし達のヴォイドの力を把握してたってこと?」

前田「そう。おかしいでしょ?ロボット狩りや戦闘に出ていたメンバーならともかく、才加は一度も中学校の外に出ていないのに。どうしてボスは才加やその他のメンバーのヴォイドについて知ってたんだろう?そんなこと…メンバー同士でしか知りえないことなのに…」

峯岸「まさかあっちゃん…」

小嶋「えー?何何ー?」

前田「そう、そのまさか。ボスは…あたし達メンバーの中にいる」

高橋「そんな…嘘でしょ?嘘だよそんなの!」

前田「うん、あたしだってそう思いたいよ。でも状況がそれを物語ってる」

高橋「……」

板野「誰なの?誰がボスなの?あっちゃんはもうわかってるんでしょ?」


74 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:47:49.19 ID:bJeVS0wMO
前田「…うん。レジスタンスに攫われて、監禁されていたメンバーは救出された。まゆゆも含め、メンバーは今、全員アジトの外に避難してるんだよね?」

高橋「うん。中学校から脱出する時にちかりなが行方不明になってるけど」

前田「状況からみてちかりなは違うと思う」

高橋「だよね。きっと今頃まだ中学校の周辺にいるはず…」

篠田「あれ?」

小嶋「ん?どうしたの麻里ちゃん」

前田「麻里子…わかったんだね?」

驚きの声を上げた篠田に、前田はゆっくりと問いかけた。
篠田が目を丸くしたまま頷く。

篠田「アジトの外に…全員はいない。まだ監禁されたままの子がいるよ」

前田「そう。その子はたぶん、最初から麻里子達のように監禁なんかされてない。攫われたふりをしてレジスタンスの元へ戻り、今もボスとしてこの扉の奥にいるんだよ」

高橋「まさか…ボスは…」


76 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:50:40.49 ID:bJeVS0wMO
前田「うん。あたしはこれからその子と話合ってみようと思う。今までちゃんと喋ったことないし、だけどみんなでおしかけても緊張して本音が出せない性格だと思うんだ、その子は。だからあたしがひとりで行く。必ずその子を説得してみせる」

高橋「大丈夫なの…?」

前田「平気。たかみながあたしやみんなにしてくれていたようにするだけだよ。たかみなはずっと傍であたしを見ていてくれた」

前田「でもね、あたしだってずっとたかみなを見てたんだよ。大丈夫。あたしがAKBとして、たかみなの姿から学んだことを、今生かすだけだもん。自分の力を…試したいの」

高橋「……」

板野「行きなよ。あっちゃん」

前田「ともちん…」

板野「でも必ずその子と一緒にみんなのとこに戻ってくるんだよ。約束だよ」

峯岸「そ、そうだよ。あっちゃんばっかり尺取るなんて許さないからね。さっさと済ませて帰ってきなよ」

小嶋「あっちゃん、帰ってきたら一緒にごはん作ろう」

前田「みぃちゃん…陽菜…」

永尾「前田さん、お願いします」

前田「まりやちゃん…」

篠田「あっちゃん今履いてる靴、あたしがプレゼントしたやつだよね?気に入ってあっちゃんにプレゼントしたんだから、大事にしてくれなきゃ困るよ。汚さずに戻ってきてね」

前田「麻里子…ありがとう。あ、あのね、たかみな、」

高橋「行ってきなよ」

前田「え?」


77 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:52:12.48 ID:bJeVS0wMO
高橋「あっちゃんが決めたことを、あたしは信じる。だから後悔がないように行ってきな。待っててあげるから」

前田「ありがとうたかみな…。みんなは先にアジトの外に出て待ってて。ここにいたらまたいつ覆面部隊が襲ってくるかわからないから。あきちゃは…まだその辺飛び回ってるんだよね?あきちゃにお願いして早く!」

前田はそう言って、高橋達を急かすと、扉に手をかけた。
そして振り返るとことなく言う。

前田「行ってきます…」

高橋「あ、あっちゃん…」

高橋が呼びかけたのも虚しく、扉は重々しい音とともに閉じられた。

――あっちゃん…大丈夫だよね…?

高橋は扉に向かって祈る。
篠田が高橋を急かした。
高城が通路の奥、窓の外から手招きをしている。
高橋は様々な思いを振り切るように、篠田に続いて走り出した。


78 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 16:54:50.42 ID:bJeVS0wMO
その時、ボスの部屋へと入った前田は――。

前田「……」

室内は薄暗く、ひんやりとしていた。
一歩一歩を確かめるように前へ進む。
ふいに首筋の辺りに、誰かの息遣いを感じた。
慌てて振り向く。
だがそこには誰もいなかった。

前田「…え?」

――もしかして…優子?あたしを心配してついてきてくれたの…?

心の中で呼びかける。
当然のことながら、相手の返事はない。
だが前田にはそれで充分だった。
体の底から、力がみなぎってくる。
自分は決してひとりじゃないと思えた。

前田「…寒い…」

両手で肩を抱くようにして先へ進む。
と、突然目の前が明るくなった。

前田「ま、眩しい…えぇぇ…?」

そこには巨大な鉱石が鎮座していた。
それは不思議な輝きを放ち、前田の顔を照らしている。
あまりの眩しさに視線を落とす。
すると鉱石の前に誰かが座っているのがわかった。
逆光になっていてはっきりと顔はわからないが、見たことのあるシルエットだ。
その華奢な体つきは――。

前田「やっぱり…ボスはぱるるだったんだ…」


80 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:06:56.46 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、高橋達は――。

高橋「…ということなんだ…」

高城により順番にアジトを脱出した高橋達は、メンバーが集まっているところまで戻って来た。
そして、事の経緯を説明する。

宮澤「じゃああっちゃんはまだあの中にいるの?」

篠田「そうだね」

秋元「心配だな…ボスと1対1なんて…」

高橋「大丈夫。あっちゃんはもうボスの正体に気づいているみたいだから。自信があるんだよ」

河西「本当に…大丈夫なの?」

高橋「あっちゃんを信じよう」

宮澤「あーでも気になる。ボスってどういう奴なの?せめて中の様子がわかればなぁ…」

宮澤は地団駄を踏んだ。
何も出来ず、ただ待つしかないことが悔しいのだ。


81 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:08:05.28 ID:bJeVS0wMO
川栄「中の様子なら…聞けますよ」

その時、川栄が子供のように元気よく挙手すると、発言した。

高橋「えぇ?なんで?どうやって?」

川栄「前田さんが中学校を出発する時、あたし抱きつくふりしてこっそり前田さんの服のポケットに盗聴器を忍ばせておいたんです。なんとなく、役に立つかなと思って…」

峯岸「聞かせて!早く!」

川栄「あ、はい。ちょっと待っててくださいね…えーっと確かこのボタンを操作して…」

川栄はそこで腕に巻いていたリストバンドを操作し始めた。
それが受信機になっているのだ。
だがメンバーから一斉に注目されて焦りがあるのか、川栄はその操作に手こずる。
その間に柏木は、隣にいる渡辺にひそひそと問いかけた。

柏木「ねぇ、ボスって誰なの?麻友は会ったことあるんでしょ?」

渡辺「…うん…ボスはね…」


82 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:10:22.13 ID:bJeVS0wMO
その頃、前田は――。

前田「ぱるるちゃん?ぱるるちゃんしっかりして…」

椅子に縛り付けられている島崎の体を、前田は強く揺すった。
気を失っているのか、眠らされているのか、島崎はぴくりともしない。

前田「そんな…どうして…ボスは、ぱるるちゃんじゃなかったの?」

前田の頭は混乱した。
攫われたメンバーのうち、救出されていないのは島崎だけだった。
だから、島崎がボスだと思ったのだ。
しかしこの状況は何だろう。
なぜボスであるはずの島崎が拘束されているのか。
必死に島崎の体を揺する前田の耳に、誰かの足音が届いてくる。

前田「だ、誰…?」

前田はハッとして、島崎から離れた。
しきりに視線を動かし、足音の正体を探る。
その音は、鉱石の後ろから聞こえてくるようだった。
聞きなれた声が、島崎が薬で眠っていることを告げる。

前田「嘘…嘘だよ…なんで…だって…」

前田はいやいやと激しく首を振った。
こんなことが起こっていいのだろうか。
自分の耳が信じられない。
だけど、この独特のハスキーボイスを聞き間違うはずなどなかった。
そして、鉱石の後ろから現れたのは――。

前田「優子…」


83 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:11:27.89 ID:bJeVS0wMO
一方その頃、アジトの外では――。

柏木「優子ちゃん!?」

柏木の驚き声が響いた直後、川栄の腕についた受信機が反応した。
そこから流れてきた音声に、メンバーは硬直する。

梅田「なんで優子の声が…」

宮澤「嘘でしょ?ねぇなんで優子が生きてるの?」

受信機からは確かに前田と、そして大島の声が聞こえてきていた。

渡辺「そう。ボスは…優子ちゃんだよ…」

渡辺がぼそりと呟く。
メンバーの間に衝撃が走った。
そしてざわつきはじめたメンバー達を、高橋が宥める。

高橋「静かに。何か2人で喋ってる。聞こう…」


84 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:14:56.92 ID:bJeVS0wMO
その時、前田は――。

前田「なんで…優子は死んだはずじゃ…」

前田は震える声で呟いた。
目の前に現れた大島が、にやりと笑う。

大島「あれは全部演技だよ。あたしも女優志望だからね。一度いなくなったふりをすれば何かと動きやすい」

前田「優子…なんで…」

大島「知りたい?答えはもう明白なはずだけど」

前田「……」

大島「レジスタンスの目的はこれまでの世界を壊し、新しく作り直すこと。あたしは先代のボスからその座を譲り受けた。そして今日まで、レジスタンスとして密かに活動を続けてきたんだよ」

前田「そんな…嘘だよ!優子がそんなことするはずない!あたしの知ってる強くて優しい優子は、こんなひどいことする子じゃない!」

大島「あたしは変わったんだよ。あっちゃん…あなたと出会ってからね」

前田「あ、あたしと?そんな…あたし達友達だったじゃない!いいライバルだったじゃない!」

大島「そうだね」

前田「じゃあなんで…」


88 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:19:50.43 ID:bJeVS0wMO
大島「あたしとあっちゃんは正真正銘のライバル。総選挙は2人でトップの座を争ってきた。メディアはこぞってあたし達の戦いを煽り、世間は盛り上がった。この異常なまでの熱狂。不思議だよね、あたし達ただのアイドルなのに。疑問に思ったことない?」

大島「教えてあげようか…あたし達がなぜ戦わなければならなかったのか。たかみなも知らなかった、A488-KB型ウイルスの本当の意味…」

前田「なぜ…戦うのか…」

大島「そうだよ」

前田「……」

前田が考え込むと、大島は淡々と説明を開始した。
大島のよく通る声が、室内に響く。
鉱石は先ほどよりもさらに輝きを増し、2人の顔を照らしていた。

大島「A488-KB型ウイルスは人類に感染し、人々をキャンサー化への恐怖に陥れる。その対策として作られたのがAKB。そのお陰でウイルスの働きは抑えられ、人類は平穏な生活を送っていた」

大島「たかみなはそう教えられていたはずだし、あっちゃんにもそう説明したんだよね?」

前田「うん…」

大島「だけど真実はもう少し複雑なの。この世界には、ウイルスは活性化させてしまう力を持つ人間がいる。その人こそ…あっちゃん、あなたなの」

前田「あ、あたしが…?」

前田はハッと息を呑んだ。
信じられなかった。
まさか人類を危険に陥れているのが、自分だったなんて――。


90 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:27:54.88 ID:bJeVS0wMO
前田「じゃあ…あたしがいなくなれば、ウイルスはその働きを失うの?あたしがいなくなりさえすれば…」

大島「ううん。あっちゃんはこの世界に必要な人間だよ。そもそもなぜウイルスに感染すると、人々はキャンサー化して消滅してしまうのか。それはA488-KB型ウイルスが、人々の負の感情を刺激するからなんだよ」

大島「だからといって、突然ウイルスの働きを抑えると、やっぱり人は死に至る。自殺してしまうんだ」

前田「どうして…ウイルスの力を抑えれば、みんな助かるんじゃないの?」

大島「優れた芸術は、それを作る芸術家の悲しみ、怒り…負の感情が根源となっている。人はそんな芸術に触れ、感動するんだ。人間には潜在的に負の感情を求める意識が備わっているんだよ。だから、ウイルスに感染している間はある種の幸福感を持っているはず」

大島「そしてそのウイルスが働きをやめた時、心に残るのは大事な物を失った時と同じ、空虚感。それに耐えられず、人は自殺してしまうんだ。そのために、ウイルスを活性化させずにぎりぎりのところで活動させる。生殺しの状態に置いておく必要があるの」

大島「それが出来るのは世界でひとり、あっちゃんだけ」

前田「……」


91 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:29:22.48 ID:qAhU43P/0
大島「だけどあっちゃんひとりの力を野放しにしていたら、ウイルスはその力を増大するばかりで、やがて人類はキャンサー化してしまう。だからあっちゃんの力とバランスを取るための、今度はウイルスの力を弱める人間が必要になってくる。それがあたし」

大島「あっちゃんが陰なら、あたしは陽。あたしが光なら、あっちゃんは影。そうやって世界はバランスを保っていた。選挙が盛り上がるのも当たり前だよ。どちらが勝ち、どちらが負けるか」

大島「公には知らされてないけど、あたしとあっちゃんのバランスに人類の存亡がかかってるんだから、人は潜在的にそのことを感じとり、注目せざるを得なくなる」

大島「あたしがあっちゃんになかなか勝てなかったのも、あっちゃんが負の感情を象徴しているから。多かれ少なかれ、人は誰でも暗いところに惹かれるんだもんね」

大島が発する言葉の一つ一つが、前田の心に突き刺さる。
ならば、自分はこれからどうしたらいいのか――。

前田「だったらなぜ…秋元さんはあたしに卒業を許したんだろう」

大島「あっちゃん、最近明るかったよね?前みたいにけらけら笑うようになって、なんか…吹っ切れたみたいな」

前田「そ、そうかな…自分ではよくわからないけど」

大島「たぶんそれを見て、秋元さんの考えが変わったんじゃないかとあたしは思ってる。あっちゃんが卒業し、ウイルスを活性化させる力が弱まったのなら、また新たにあっちゃんのような人間を作ればいい」

前田「あたしのような…?どういう意味?」


92 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:30:57.30 ID:qAhU43P/0
大島「あっちゃんは長年センターとしての重圧に苦しみ、もがき、傷ついてきた。そこから生まれる負の感情がウイルスを活性化させる。あっちゃんがAKBを去ったなら、また新たなセンターが指名される」

大島「センターに指名された子はこれからたくさんの批判に耐え、苦しみ抜くんだよ。最近までのあっちゃんのようにね…。それが本当の意味での抗ウイルス対策…AKBプロジェクトなんだ」

前田「そ、そんな…。ひどいよ…新しくセンターに指名された子は、自分が求めるアイドル像を追求できないじゃない!あたしと同じレールに無理やり乗せられて、その子の個性を殺すの?」

大島「そういうことになるね…」

前田「だったら誰がセンターになっても同じじゃない…何も変わらない…」

大島「そう、だけどそんな悲しみももうなくなる。これから新しい世界が始まるんだ。あたし達の手で、新世界を作ろう、あっちゃん」

前田「優子…」

大島がそっと前田に手を差し伸べる。
前田はその小さな手をじっと見つめた。
時にメンバーを優しく抱きしめ、小柄な体を大きくみせるためのダンスに一役買う、世界でたったひとりの、大島優子の手。

――この手を…悪に染めさせるわけにはいかない…。

前田はぎゅっと目を瞑ると、ふるふると首を横に振った。

前田「あたしは…優子の意見に賛成できない」


93 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:32:09.43 ID:qAhU43P/0
大島「何でよ?あっちゃんだって随分苦しんだはずでしょ?これからはウイルスのバランスだなんだって気にせずに、ずっと一緒にいられるんだよ?もうあたし達、競わなくていいんだよ?」

前田「違う…あたしが求める世界は、そんなんじゃない!」

大島「あっちゃん…」

大島は悲しげに目を伏せると、すっと手を下ろした。

前田「あたしが求める世界…あたしが好きな世界それは…優子がいて、みんながいて、時に仲間として、時にライバルとして高め合える、そういうAKBがいる世界なんだよ!」

大島「だったらさぁ!!」

前田がそう言い切ると、大島が叫んだ。

前田「優子…?」

大島「だっらさぁ、なんであっちゃんは卒業なんて決めたの?なんでAKBを辞めるの?なんでなんでなんで?みんなあっちゃんのことが大好きなのに」

大島「あっちゃんだってメンバーのこと好きでしょ?ずっとメンバーと一緒にいればいいじゃん。なんでわざわざ卒業なんてするんだよ!!」

大島が早口でまくし立てる。
前田はじっと耳を傾けた。
大島が肩で息をする。

前田「メンバーのことは…大好きだよ。だから、卒業するの」

大島「?」


94 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:33:17.11 ID:qAhU43P/0
前田「あたしがAKBを去れば、また新たな子が、あたしのいた場所で新しい夢を見られる。アイドルは夢を与える職業なんだよ。そして、夢を与える人は、自分自身も夢を見ていなければならないと思うんだ」

前田「あたしはAKBに入って、辛いこともたくさんあったけど、そのぶん素敵な夢をたくさん見させてもらった。すごく幸せだった。だからこれからは、自分の力だけで夢を見ていかなきゃいけないって思ったの」

大島「あっちゃんは本当に…それでいいの?」

前田「うん、自分で決めたことだから」

大島「だけど…あたしはまだ…納得してないんだよ!!」

前田「キャッ…」

大島は隠し持っていたピストルを、前田に向けた。

前田「何するの優子…」

大島「約束して。ここで宣言して。卒業を取りやめるって。今ここで宣言したら、助けてあげる」

前田「い…嫌だよ。あたしには他に…やらなきゃいけないことがあるの」

前田はしかし、頑として大島の言葉に頷かない。

大島「だったら今ここであたしと戦う?あたしを殺せる?誰かのヴォイド持ってきてるんでしょ?」

前田「た、戦わないよ。あたしが持ってるのは、あたし自身のヴォイドと、まりやちゃんのヴォイドだけ」

大島「まりやんぬの…?」

前田「永尾ちゃんだよ!」

大島「え?何でそんなもの…」

前田「それより優子、お願いだから考え直してよ!」


95 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:33:58.61 ID:qAhU43P/0
大島「嫌っ!!簡単なことだよあっちゃん。あっちゃんが卒業を辞めれば、また新しい世界で、みんな一緒に暮らせるんだよ!」

前田「そんな偽りの平和なんていらない!」

大島「あっちゃん…頑固だよね。そういうとこ好きだったし、尊敬もしてたけど…今は、」

前田「優子!!」

前田が叫ぶ。
大島はなぜかピストルを天井に向けたかと思うと、もがくような仕草を見せた。
まるで誰かに操られているようである。

前田「?」

大島「放せ…放して…!!」

その時、前田は自分の目を疑った。

――どこから現れたの…?

誰かが大島を羽交い絞めにし、ピストルを取り上げようとしている。


97 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:35:26.79 ID:bJeVS0wMO
大島「放してってば…ちかりな!!」

大島を抑えているのは近野だった。
近野は必死の形相で大島の自由を奪い、ピストルを取り上げようと動いていた。
大島は顔を真っ赤にして抵抗するが、近野の根性には負ける。
とうとうピストルを取り落とし、その場に崩れ落ちた。

前田「ちかりな…」

近野「前田さんそれ、早く拾ってください!」

ピストルは床の上を滑り、前田の足元までやってくる。
前田はそれを拾い上げると、さっと後ろ手に隠した。

前田「どうして…ここにいるの?」

近野「あたし心配で…前田さんと一緒に入って来たんです。外での会話も、ずっと聞いてました」

前田「嘘…どこに隠れて…?全然気付かなかった」

近野「ヴォイドですよ」

近野が腕につけたブレスレットを掲げて見せる。


100 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:36:47.74 ID:bJeVS0wMO
近野「このヴォイドの力で体を透明化してたんです」

前田「じゃあ…入った時あたしが首筋に感じた息遣いは…」

近野「すみません。興奮してたんで鼻息荒くなっちゃって…」

前田「ずっと、傍にいてくれてたんだ…」

近野「はい!」

近野がにっこりと笑う。
後をつけていたことに悪びれた様子もなく、むしろ快活とした近野らしい笑顔だった。

大島「ちかりな!!何してくれてんの!」

大島は立ち上がると、笑顔の近野に詰め寄った。

大島「もうちょっとだったのに!」

近野「あ、すみません…」

だがやはり近野は笑顔を保ったままである。
それを見た大島は脱力した。

大島「もう…」

近野「あ、それで…もう喧嘩は終わりですよね?どうしますか?前田さん」

近野が元気よく尋ねる。
前田はゆっくりと大島に近づいた。


103 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:39:16.60 ID:qAhU43P/0
前田「優子に…見てほしいものがあるんだ…」

前田はそう言うと、ロケット型のペンダントを開いた。

前田「まりやちゃんのヴォイド…これはね、過去の映像を映し出すことができるの…」

大島「映像…?」

前田「見て…」

ペンダントから光が溢れ、それが徐々に大きくなる。
輪郭を作り、動きはじめた。
大島の目の前に現れたのは在りし日のステージ袖の風景。
ソロ曲を控え緊張する大島に、音程を教える増田の歌声。
力強くもきれいな歌声。

――そうだ、あたし…この声に何度も助けられてきた…。

場面は切り替わり、ふざける秋元。
一点、気を抜くメンバーに激を飛ばす真剣な表情。
情熱的な視線とパワフルなダンス。

――やっぱり才加のこういうメリハリがあるところ好きだな…。そのわりに女らしくて優しくてさ…。

場面が切り替わる。
楽屋の隅で黙々とダンスの練習をする梅田。
凛とした表情。

――梅ちゃん、いつも頑張ってたな…。そんな梅ちゃんを見てるとあたしたくさん勇気をもらえた…。


104 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:39:56.77 ID:qAhU43P/0
大島「みんな…」

映像は様々な場面を映し出す。
分け隔てなくメンバーに声をかける宮澤。
楽屋の隅でこそこそと話す柏木と渡辺。
河西の安らかな寝顔。
後輩を気遣う板野。
小嶋にちょっかいを出す篠田。
峯岸の上目遣いと、くるくる変わる表情。
高橋に泣きながら相談している、誰かの背中。
すべて、何のへんてつもない日常の風景だ。
だがそのどれもがたまらなく懐かしく、美しい。
映像に出てくるメンバーはみんなキラキラと輝いている。
この美しい日々を壊したのはそう――自分だ。

大島「…あたし、なんてことを…」

大島が再び崩れ落ちる。
前田はそっと声をかけた。

前田「ずっと不思議だったの。ヴォイドを取り出す時、相手の心が…感情があたしに流れこんでくる。怒り、恐れ、優しさ、希望…すべての感情が伝わるの。だけど、優子のヴォイドを取り出す時は、悲しみしかなかった。優子は…何をそんなに悲しんでいるの?」

大島「そんなの、決まってるじゃん。あっちゃん、あなたがいなくなることだよ」

前田「でも卒業したって前みたいに一緒にごはん食べ行ったり、遊べるよ?」

大島「違うの。あたしはあっちゃんがいるAKBが好きだったの。だからそれがなくなるのが…たまらく怖くて、悲しかった」

前田「優子…」


105 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:41:12.14 ID:qAhU43P/0
大島「世界を壊すとか新しい世界を作るとか、本当はどうでもいいの。ただ、今のAKBを続けたかっただけ。でも…やっとわかったよ、あたし。メンバーがいれば、それがAKBなんだって。それなのにあたしはみんなになんてことを…」

前田「ボスといっても、勝手に動いていたのは覆面隊員のほう。そうだよね?じゃなかったら優子がメンバーを危険な目に遭わせるわけないし。それに、攫ったメンバーを監禁するだけで殺さなかったのは、優子が覆面隊員にそう指示してたから。でしょ?」

前田「優子はヴォイドを取り出すことに悩んでいたあたしに、優しい言葉をかけてくれた。勇気をくれた。メンバーを守るため必死にロボットと戦ってくれた。それが優子の本心だったって、あたしわかってるよ」

前田「だから優子…。今からでもみんなのところに行って。遅くなんかないよ。まだきっと、間に合うよ」

大島「でもあたしは…」

前田「後悔してるならずっとAKBにいればいいよ。みんなが許してくれるまで絶対に卒業なんかしちゃ駄目だよ?これから先、まだまだメンバーと一緒にいてあげてよ」

大島「あっちゃん…」

前田「あー!あたしには卒業するなって言ったくせに、自分の時だけ辞めたいなんてなしだからね?」

大島「い、言わないよそんなこと!でもあっちゃん、本当に卒業するんだね…。これからどうするの?レジスタンスに破壊された世界で、あなたは…」

前田「あたしは…」

前田はそこで言葉を区切った。
ぎゅっと拳を握る。


106 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:42:17.87 ID:qAhU43P/0
前田「あたしは…ウイルスに支配されたこの世界を変えたい!メンバーがこれからもAKBとして…抗ウイルス対策でなくて本当の意味でのアイドルグループとして、安心して活動できる。そしてそれを求めるファンがいる。そんな当たり前の世界を再び取り戻したい」

前田「教えて優子、レジスタンスのボスだったあなたなら、その手掛かりを知ってるんじゃないの?」

大島「…手掛かりは…ないよ」

大島はしばらく沈黙を続けていたが、仕舞いにはぽつりとこぼし、肩を落とした。

前田「そんな…ボスなら知ってると思ったのに…」

前田もまた項垂れた。
期待外れだったのか。
せっかくここまで来たのに。
落ち込む前田を、大島はじっと見つめていた。
そして、ゆっくりと口を開く。

大島「だけどたった一つだけ、方法はある」

前田「えぇ?」

前田は伏せていた顔をパッ輝かせ、視線を上げた。


107 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:44:30.77 ID:bJeVS0wMO
前田「方法って?教えて優子」

大島「いいけど…誰も絶対に実行できないんだよ。ボスであるあたしでさえ無理なんだ」

前田「でも今方法って…」

大島「空想だよ、全部」

前田「空想でもなんでも、可能性があるなら話してよ」

前田が大島に詰め寄る。
大島はなぜかそこで、ぎりぎりと前田を睨んだ。
目が血走っている。
それほどまでに辛い方法なんだろうか――。

大島「わかった、話すよ…」

前田「……」

大島「ぱるるの後ろにある鉱石。あれが何かわかる?」

前田「ううん…」

大島「あれがすべての根源なんだよ。A488-KB型ウイルスの母体とでも言うべきかな?」

前田「うん」

前田は短い返事をして、大島の話に聞き入った。


108 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:47:57.20 ID:bJeVS0wMO
大島「だからあの鉱石を破壊すれば、ウイルスの力は徐々に弱まることになる。この方法ならウイルスに対する禁断症状も起きないから、自殺もない」

大島「それにね、あの鉱石はレジスタンスの切り札なんだよ。あれを保有しているからこそ、レジスタンスは目的を忘れずにいる。レジスタンスの生命線といってもいい」

大島「もしあれが破壊されれば、レジスタンスは何も持たない、ただ武力に頼るだけのテロ組織へと堕ちるだろうね。そうなったらもうレジスタンスの人間はここを去ると思う。組織の人間がいなくなれば、自然と武力も弱くなる。レジスタンスは…自然消滅」

前田「じゃあ早くあの鉱石を壊そうよ。ね?優子そうしよ?」

大島「誰にも実行できないって言ったよね?あたし」

前田「でも、誰かがやらなきゃ…」

大島「だから無理なんだよ。その鉱石を破壊しようとした人物は、その衝撃で一気にキャンサー化して消滅してしまう…死んじゃうんだよ…」

前田「……」

大島の告白に、前田は唇を噛んだ。

大島「それに破壊するには特別なヴォイドが必要になる。先代からボスの座を譲り受ける時、そのヴォイドにだけは気をつけろと忠告された」

前田「ヴォイド…」

大島「そう。この世で唯一、A488-KB型ウイルスを断絶することの出来るヴォイドそれは…鋏型をしているらしい」


109 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:49:16.57 ID:bJeVS0wMO
前田「あ、それってもしかして――ぱるるちゃん…」

前田はそこで、島崎のほうを見やった。

島崎「……んっ…」

タイミング良く、島崎が目を覚ます。
自分を見つめる前田と大島、近野に気付き、怯えた表情を浮かべた。

島崎「あの…」

前田「気がついたの?もう大丈夫だからね」

島崎「……」

近野「立てる?いいよ、あたしに掴まって」

島崎「え……」

近野が甲斐甲斐しく島崎に手を貸す。
島崎は今の状況がわからない上、自分が眠らされていたことを思い出し、腰が引けてしまっていた。
一旦は立ち上がったものの、すぐにその場にへたりこんでしまう。
その間に、前田は再び大島と向き合った。


110 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:51:02.69 ID:bJeVS0wMO
前田「だからぱるるちゃんを攫ったんだね…」

大島「そう。一番の脅威は、手元においておくほうが安全なんだよ」

前田「……優子…、あたしね、」

前田が何かを言いかける。
その時、2人の前に黒い影が落下してきた。
前田は反射的に天井を見上げる。
一方大島は、落下してきたものを凝視した。
落下してきたもの。
落下してきた者――。

大島「由依…」


111 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:51:35.06 ID:qAhU43P/0
2人の目の前で、横山は床に打ちつけた腰をしかめ面でさすっている。
それから前田の姿を確認し、慌てて飛び起きた。

横山「前田さん!!」

前田「由依ちゃん…来てくれたの…?」

前田がおそるおそる問いかける。
横山は即座にそれを否定した。

横山「違います!」

前田「え…」

横山「わたし、ずっと上で話を聞いてました。わたし、前田さんに言わなきゃいけないことがあるんです。そのためにダクトの中を進んでここまで…わたしは、わたしのためにここへ来たんです」

横山はそう言うと、ピンと姿勢を正し、前田を見据えた。

横山「前田さん、みんなに謝ってください!」

前田「謝る…。そうだね、あたしはこれまでメンバーの図々しくメンバーのヴォイドを使い続けて…みんなに謝らなきゃいけないね」

前田が声を落とす。
すると近野が割りこんできた。

近野「謝るって…前田さんは昨日の校内放送で、ちゃんとメンバーに謝ったじゃないですか」


113 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:53:21.75 ID:qAhU43P/0
前田「ちかりな…でもね、あたしという存在自体が、この世界を…AKBというシステムを作り出す要因になったことは間違いないんだよ」

前田「次のセンターが、またあたしと同じ苦しみを味わい、同じレールを歩かされる。そうやって次々に人を代え、世界を維持していくしかないんだよね」

横山「そうです。そしてそのシステムを、前田さんは今ここで終わらせようとしている。謝ってください!」

大島「え?まさかあっちゃん、本当にあの鉱石を壊すつもり?そんなことしたらあっちゃんは…」

前田「うん…」

横山「前田さんがいなくなればすべて解決する問題じゃないですよね?前田さんを失った後、わたし達はどうすればいいんですか?前田さんがいない悲しみを、メンバー全員に味合わせるつもりですか?」

横山「勝手ですよ。結果的に世界を救えれば、メンバーのことは無視ですか?そんな我儘許されません。ちゃんとみんなのところに戻って謝ってください、前田さん。そして…考え直してください」

前田「由依ちゃん…悪いけど、それは約束できないんだ…」


114 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:54:09.49 ID:qAhU43P/0
横山「そんな…ほんならわたしのヴォイドを取り出してください!わたしはまだ一度も前田さんにヴォイドを取り出してもらっていません」

横山「もしかしたらわたしのヴォイドが、ぱるるよりもうまく、安全に鉱石を破壊できるかもしれないじゃないですか。そうしたら前田さんは死ななくて済みますよね?」

横山は切羽詰った顔で言うと、前田に詰め寄った。
横山は信じているのだ。
またメンバー全員で集まり、一緒に過ごせる日を。
あの日常が再び戻ってくると、信じている。

前田「ごめんね。あたしもうわかっちゃったんだ。由依ちゃんのヴォイドでは、この鉱石を破壊することはできない。由依ちゃんのヴォイドは、もっと別の力なの…」

横山「そんな…わたしのヴォイドは…一体なんなんですか…」

前田「由依ちゃん…!!」

前田は素早く左手を伸ばし、横山に声を発する間さえ与えず、ヴォイドを取り出した。

横山「……」

前田「これが由依ちゃんのヴォイド。救いのヴォイド」

横山「わたし…」

前田「2人ともあたしから離れて!!」

横山が何か言いかけた時、前田は隠し持っていたピストルを取り出し、2人に向け構えた。
大島と横山が硬直する。
それは先ほど大島から取り上げたピストルだった。


115 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:55:12.23 ID:qAhU43P/0
大島「あっちゃん無茶はやめて!!」

大島が叫ぶ。
しかし前田はそれを無視して近野と島崎のほうまで駆け寄った。
近野を突き飛ばす。
と同時に、島崎の腕を取った。

横山「前田さん!!」

近野「痛てて…」

前田「ごめんね、ちかりな。許してね。みんな…みんな…ごめん」

前田が島崎の体へと手を伸ばす。

島崎「…うっ…」

ヴォイドを取り出した。
一見するとただの鋏。
大きさが巨大なだけで、これのどこに鉱石を壊す力が備わっているのかわからない。
だけど、もうこれしか方法はないのだ――。

前田「ぱるるちゃんごめん…!」

そう呟くと、前田はそっと島崎から離れ、鉱石に向き合った。
それからゆっくりと大島達のほうを振り向く。


116 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:55:51.54 ID:qAhU43P/0
大島「そうだちかりな!ヴォイドを使って!また透明化してあっちゃんからピストルを取り上げるんだよ!」

大島が近野に向かって叫ぶ。

前田「無駄だよ。ちかりなのヴォイドはさっき、ちかりな自身の体に戻したから使えないよ」

近野「あ、ほんとだブレスレットが消えてる…」

大島「あっちゃん…」

大島は前田のもとへ駆け寄ろうとした。
しかしその足元に向け、前田は容赦なくピストルの弾を放った。
弾は大島の足を避けたが、あと数センチずれていれば危なかっただろう。

前田「またこっちに来ようとしたら、次は本気で撃つよ」

大島「……」

前田「行って優子!3人を連れてここから出るの!お願い!」

大島「嫌だよ。そうしたらあっちゃんは鉱石を破壊して、自分も死ぬつもりなんでしょ?」

前田「どっちにしたってあたしはもう一部キャンサー化してる。今ここで鉱石を壊さず生き延びたとしても、いずれは死ぬ運命。だから最後にあたしの我儘…きいてよ。お願い…」

大島「……」


117 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:57:17.68 ID:bJeVS0wMO
横山「でも、」

大島「由依!!」

横山が一歩前に踏み出す。
今度は前田は撃たなかった。
しかし横山の足はそこで止まる。
大島が横山の腕を取り、引き止めていた。

横山「放してください、優子ちゃん!」

大島「…ここから出よう」

横山「え…?」

横山はハッとして、大島を見つめた。
大島は硬い表情で、じっと前田に視線を向けたまま言う。

大島「決められた立ち位置があるんだよ。あたし達は一歩下がって、センターを引き立てるべきなんだ。AKBのセンター…あっちゃんをね。あっちゃんが決めたことなら、それに従おう」

横山「優子ちゃん…」

前田「ありがとう、優子」

大島「行くよ!ここから出るんだ!ほら、ちかりなとぱるるも…早く!!」


118 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 17:57:58.90 ID:qAhU43P/0
一方その頃、アジトの外では――。

柏木「あ、雨…」

柏木は空を仰いだ。

宮澤「やっぱり降ってきたか…」

メンバーは川栄のヴォイドにより、アジト内での前田達の会話をすべて聞いていた。
大島の想い。
前田の決意。
ショックだった。
誰もがうなだれ、口をつぐむ。
重苦しい空気が漂う中、最初に声を発したのが柏木だった。
それをきっかけとして、押し黙っていたメンバーが口々に語り出す。
ある者は他に方法がないのかと探り――。

秋元「こんなの滅茶苦茶だろ?別に今すぐ壊さなくたって、後でよく調べて…あ、ほら、科学的な面で鉱石を消滅させる方法とか…」

そして、ある者は前田が考え直すよう説得しようと言い――。

峯岸「ちょっと待ってみんな、こんなことしてる場合じゃないよ!早くアジト行こう。あっちゃんを止めよう」

そして、ある者は前田との思い出を口にし――。

小嶋「あっちゃんと一緒にごはん食べるとさ、すごくおいしく感じたよね。ほら、あっちゃんよく食べるから…。ね?麻里ちゃん」

そして、ある者は静かに涙する――。

篠田「あっちゃん…」


119 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:00:01.79 ID:bJeVS0wMO
一方で梅田は大島のことを心配していた。

――優子が戻ってきたら、なんて声かけたらいんだろう…。

しかし余計な言葉を交わさなくとも、大島とは分かり合える気がした。
大島が戻ってきたら、ただ傍にいてあげようと心に決める。

河西「ねぇ、たかみな…」

河西は窺うように、高橋に声をかけた。

高橋「こんな結末…全然嬉しくないよ。どうしてあの時、あの扉の前で別れる時、あっちゃんはあたしに何も言ってくれなかったんだろう…」

河西「…たぶん、たかみなに依存したままじゃいけないって思ったんじゃないのかな…」

高橋「そんな…依存だなんて…」

河西「そうだね…」


120 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:01:26.13 ID:bJeVS0wMO
高橋「あたしとあっちゃんは、どちらかがどちらかを支えるなんて関係じゃない。あたし達は…友達だったんだ。これからもずっと、友達…」

河西「うん…」

高橋の言葉に、河西は感慨深げに頷いた。
そして2人の関係性を、心底羨ましいと思った。

板野「あ、優子達が戻ってきた…」

板野が気付いて、メンバーに知らせる。
その瞬間、もう余計なことを考えるのはやめようと思った。
妙な小細工も、演出もいらない。
AKBのことを、前田のことを考えるあまり起こしてしまった大島の行動。
許されないことではあるけれど、その根底にある想いは、誰にも非難することは出来ないのだ。
だから今は、ありのままの心で、大島と向き合おう。
そして、受け入れよう――。


121 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:03:13.21 ID:bJeVS0wMO
その時、前田は――。

前田「これで…すべてが終わる…」

前田は巨大な鉱石に向き合っている。
手には島崎のヴォイド――鋏――。
鉱石はまるで自身の危機を感じ取ったかのように、激しく点滅していた。

前田「……!!」

鋏を振り上げる。
一気に突きたてた。
鉱石はその輝きを失い、ゆらゆらと揺れ出す。
すぐに島崎のヴォイドが本人のもとへ戻るよう念じた。

前田「あぁぁ…」

そして、鋏を握る左手から順に、前田の体はキャンサー化していく。
全身の感覚が消えていく。
もう、音を聞くことも、声を発することもできない。
かろうじて残っていた視覚で、前田は鉱石が破裂する瞬間を見た。
それが最後だった。


123 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:05:13.83 ID:bJeVS0wMO
その時、アジトの外では――。

高橋「アジトごと爆発する!みんな伏せてー!!」

高橋が叫ぶ。
メンバーは頭を抱えた。
その時、誰かが走り出す。

柏木「麻友ー!!」

今度は柏木が叫んだ。
メンバーを守るように、正面へ立った渡辺。
その手には、自身のヴォイドである盾が握られている。
渡辺がこれまで発したことのない大声で言った。

渡辺「岩田ちゃん、盾を硬化させて!お願い…一緒にみんなを爆発の衝撃から守るの!」

岩田「は、はい…」

岩田がよろよろと腰を上げると、不恰好な姿勢で渡辺のもとに走り寄った。

渡辺「みんなは早く盾の後ろへ!急いで!」

その言葉に、メンバーは渡辺の背後へと滑りこむ。
直後、轟音とともにアジトは爆発した。
メンバーは渡辺の盾のもと、辺りが静まるのを震えながら待つ。

――終わったんだ…。

言いようのない喪失感が、メンバーを襲った。


124 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:06:53.68 ID:bJeVS0wMO
渡辺「もう…大丈夫みたい…」

どれくらい時間が経ったろうか。
渡辺がぼそりと呟いた。
メンバーはぞろぞろと盾のもとから這い出てくる。
そうして呆然と辺りを見回した。
そこには――何もなかった。
わずかに残っていた建物も、瓦礫の山も、停止したロボットも全部――。

柏木「何もないよ…」

最初は小降りだった雨は、いつしか勢いを増し、メンバーの肌を叩きつけていた。
灰色のぬかるんだ土が、足元を汚す。
それ以外、辺りには何もない。
自分達が暮らしてきた街の断片は、跡形もなく吹き飛ばされてしまっていた。

高橋「こんなのってないよ…何もなくて…あっちゃんもいなくて…あたし達だけでこんな世界を…どうしろっていうの…」

高橋はその場に崩れ落ちると、手や服が汚れることもいとわず、地面を殴った。

峯岸「たかみな…」

その時、この場の気まずさから押し黙っていた大島が、何事かを横山にささやく。

横山「…そうですね…」

横山は大島の言葉に数回頷くと、手にしていたものを天へ向け掲げた。


125 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:08:26.96 ID:bJeVS0wMO
大家「横山?なんで鈴なんか持ってんの?」

横山「前田さんに取り出してもらったんです。これがわたしのヴォイド…!!」

そして横山は願いをこめ、その鈴を振るった。
辺りに涼やかな音が響く。
瞬間、メンバーを取り囲む世界が、目まぐるしく動きはじめた。
周囲には色が溢れ、様々な音が響く。

篠田「これは…」

小嶋「えー?なんでー?」

世界は元の状態を取り戻し、街は完全に機能していた。
なかったはずの木々や草花、建物、道路などが出現し、柔らかな光がメンバーを照らす。

柏木「あ、雨やんだんだ…」

宮澤「それよりもほら、人が…たくさん…」

河西「キャンサー化した人達も元に戻ってる!動いてる!」

梅田「みんな何事もなかったように生活してるよ…」

大島「やっぱり…」

梅田「ん?」

大島の言葉に、梅田が不思議そうに首をかしげる。


126 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:09:50.30 ID:bJeVS0wMO
大島「あっちゃんは最後に言ってた。やっぱりあっちゃんの予想は合ってたんだ。由依のヴォイドは、救いのヴォイドだって…」

横山「わたしのですか?」

大島「そう。古都京都で生まれ育ち、日本の美を愛する心が備わっている横山だからこそ持つことが出来たヴォイドの力。それは――かつての美しかった世界を取り戻す力」

横山「そんな…じゃあ前田さんは全部見越してたんだ。わたしが前田さんの元に現れることも、ヴォイドを取り出してもらうことも、こうなること全部…」

大島「そうみたいだね。やっぱあっちゃんはすごいよ…」

横山「これが…前田さんがわたしに託してくれた世界。前田さんが見たかった風景なんですね…」


127 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:12:18.14 ID:bJeVS0wMO
1年後――。

大島「……」

待ち合わせ場所に入った大島は、きょろきょろと目当ての席を探した。
渋谷のカフェ。
大通りから外れているため静かではあるが、人の多さは相変わらずだった。

峯岸「優子ー?こっちこっち!」

峯岸の声がする。
そちらを向くと、メンバーはすでに集合していた。
それぞれ好みの飲み物を片手に、大島へ手を降っている。

大島「ごめんねー。撮影が長引いちゃって…」

大島は帽子を取りながら、みんなの集まる席へと駆け寄った。
ちゃっかり小嶋の隣へ腰を下ろす。

高橋「あー、そっかドラマだったね…」

大島「そうなのー。ほんとごめん」

宮澤「大丈夫だよ。ともーみだって今来たとこだし。てか信じられる?こんな日にもともーみ寝坊するんだよ?」

河西「え?だって眠かったんだもん…」

宮澤「まったく、今日は1年ぶりにみんなが集まる日なんだよ?」

河西「ごめーん」


128 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:13:47.84 ID:bJeVS0wMO
大島「1年、か…。なんかあっという間だったね」

高橋「うん、そうだね。あの日から…1年…。信じられないよ。世界はすっかり元通り。あんなことがあったなんてほんと嘘みたい…」

大島「あの時はほんと…ごめんね…」

秋元「ばっ、馬鹿優子!せっかくの日にしんみりするのはナシだよ」

大島「……」

篠田「あ、どうする?ひとまず乾杯する?優子何か注文しなよ」

篠田が空気を変えるように言う。
大島へメニューを差し出した。
大島はしばらくそれを眺めていたが、結局何も注文せず閉じてしまう。

横山「頼まないんですか?」

大島「ううん、いい。全員集まってからにする」

高橋「あれ?でもさっき、ちょっと遅くなるってメール来たよ」

大島「え?マジで?」

板野「映画の番宣があるんだって」

北原「公開したら観に行かなきゃですね」


130 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:15:21.59 ID:bJeVS0wMO
篠田「実は…じゃーん!全員分前売り買っておいたよー」

小嶋「えー?麻里ちゃんすごーい」

篠田は手早く映画のチケットを全員に配った。
受け取った大島は、にんまりと笑い、宣伝文句に目を落とす。
それからうっとりとため息をついた。

大島「主演かぁ…」

高橋「あの子の夢だったからね。山下監督の作品で主演するの」

その時、入り口の開く音が聞こえてきた。
メンバーは一斉にそちらを見やる。
それから大きく手を振った。


131 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:17:17.57 ID:bJeVS0wMO
高橋「あっちゃん、こっちだよー!」

前田はメンバーの顔を見つけると、ぱっと目を輝かせ、小走りに駆け寄ってきた。
高橋の隣へ腰を下ろす。

前田「待たせちゃった。ごめんね」

梅田「大丈夫。優子も今来たところだから」

前田「え?優子…」

前田はそこで、初めて大島の顔を見た。

大島「あっちゃん、久しぶり」

大島がぎこちなく笑う。
前田はその何倍も自然な笑顔で答えた。

前田「優子久しぶり。あーでもなんかそんか感じしないよ。あたし優子の出てるドラマ毎週見てるもん」

大島「あっちゃん…」

前田「みんなは元気だった?AKBの新曲、そろそろだよね?」

前田は今度、メンバーの顔を懐かしそうに見渡しながら尋ねた。


134 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:19:38.97 ID:qAhU43P/0
篠田「うん、みんな頑張ってるよ。あっちゃんに負けないようにね」

前田「そっかー。楽しみだなー」

篠田「それもこれも全部、あっちゃんのお陰だからね。頑張らないわけにいかないよ」

前田「え…麻里子…」

高橋「あっちゃん、ありがとう。また戻ってきてくれて」

高橋は体ごと前田のほうに向くと、視線を合わせた。

高橋「ありがとう…。1年前…」


136 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:20:12.56 ID:qAhU43P/0
1年前、鉱石爆発直後――。

小森「まったくやんなっちゃうなぁ…雨が降りだしたかと思ったら、すごい揺れだよこれ。何が起きたんだろう…」

アジトから、そしてメンバーから離れ、ひとりくだを巻いていた小森は、遠くに爆発音を聞き、呆れ顔をしていた。

小森「どうせまた誰かが派手に戦ってるんだ。いいな…戦闘タイプのヴォイドの人は…」

小森は完全にいじけてしまっている。
と、そんな彼女を突風が襲った。
それとともに、何かが飛んでくる。
小森は咄嗟に両手で顔を覆った。

小森「うわっ…何…石ぃ?」

無意識のうちに自身のヴォイドの力を使い、飛んできた石を宙に浮かせた。
そのお陰で怪我を負わずに済んだが、見たこともない輝きを放つその石を、不気味に思った。
おまけに石は無数にある。


137 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:20:51.96 ID:qAhU43P/0
小森「変なの…」

小森はそれをしばらく眺めた後、ヴォイドの力を弱めようとした。
が、その瞬間、宙に浮いていた石は勝手に動きはじめ、1つにまとまろうとする。

小森「えー?何これ怖いよ…くぅーん…」

泣きべそをかく小森の目の前で、石は結合してどんどん大きくなり、やがて人の形を作りはじめた。

小森「あれ?どうしたんですか?」


138 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:22:00.72 ID:qAhU43P/0
そして、現在――。

前田「あの日は、雨が降ってた」

運ばれてきた水を一口飲むと、前田は言った。

高橋「うん、そうだったね」

柏木「あたし、覚えてます。鉱石?でしたっけ?それが爆発する少し前から本格的に振り出して…」

前田「そう、そのお陰であたしは助かったんだ。鉱石を破壊して、体がどんどんキャンサー化していって…あたしは最後、結晶となり吹き飛んだ」

篠田「だけど飛んでいった先にいたのがこもりんだったんでしょ?」

前田「うん。その瞬間は意識がなかったから覚えてないんだけど…。結晶化したあたしはバラバラになって、それで…消えるはずだった」

前田「だけどたまたまこもりんが、あたしの結晶をすべて浮かせて、飛んでいった先に留めてくれたの。そこに雨によって水分が加えられ…あたしは再び体を取り戻した。ヴォイドを取り出す力は失ったけどね」

峯岸「あっちゃんが生きてるって分かったときはびっくりしたよ」

渡辺「でも、良かった。生きてて…」

前田「うん…」

大島「あっちゃん、あの時はほんとに…」

大島が眉を下げる。
前田はそれを遮って言った。


139 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:23:10.73 ID:qAhU43P/0
前田「えー?もういいよ。それより優子、ドラマ…頑張ってよー?あたしと優子はさ、」

大島「わかってる。永遠のライバル…だもんね」

大島はそこでようやく本来の華やかな笑顔を取り戻した。

大島「でもあたし、いつかあっちゃんと共演したいな」

前田「うん」

前田は元気よく返事すると、急にそわそわし始めた。

高城「あ、あっちゃん、メニューこれ…」

前田「ありがとー。もうおなかすいちゃったよ。あ、サラダ頼もう。量2倍にしてもらうんだー。すみませーん…」

前田が店員を呼ぼうとする。
だがそれを高橋が途中で引きとめた。


140 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:24:01.90 ID:qAhU43P/0
高橋「あ、あっちゃん、ごはんの前に…」

前田「?たかみな…?」

高橋「ずっと言えてなかったから今言うよ」

高橋はそこで、もぞもぞと姿勢を正した。

高橋「お帰りなさい、あっちゃん…」

メニューを持つ前田の手が震える。

前田「…ただいま」





―END―


154 ◆TNI/P5TIQU 2012/07/11(水) 18:54:36.37 ID:qAhU43P/0
読んでくださった方、支援、保守してくださった方、ありがとうございました!
あっちゃん卒業が悲しすぎて考えたお話
色々と突っ込みどころが多いと思いますが、優しいコメントや参考になる指摘ばかりで本当に励みになりました
感謝しています
また何か書いた時にはよろしくお願いします
ありがとうございましたー


Part1はこちら
http://encra48.doorblog.jp/archives/11330323.html
Part2はこちら
http://encra48.doorblog.jp/archives/11331063.html

AKB前田「あたしはAKBにいてもいい人間なのかな…」